32 / 52
第八話 溢れる気持ちを声に変えて
scene32 宿
しおりを挟む
―大知―
宿に着く頃には、とっぷりと日が暮れていた。
入り口の引き戸を開け、部屋に入る。暖かい色の照明が点いた部屋の奥に、ダブルベッドがあるのに気づいた眞白が足を止めた。
「あの、ごめん」
眞白の前で手を振る。はっと振り向いた眞白にスマホの画面を見せた。
「急だったからこの部屋しか空いてなくて。その……良いよね?」
俺が喋った内容を読んだ眞白は、曖昧に頷くと視線を泳がせた。
やっぱり先に言っておくべきだったかな、と考えながら、荷物をベッドの脇に置く。
「あ、ほら。眞白」
そっと肩を叩いてベッドの奥を指差す。
ガラス張りの向こう側はベランダのようになっていて、湯気が立ち昇るのが見えた。
「ここが足湯だよ」
眞白を連れてベランダに出る。番組のロケで来た時とは別の部屋だから造りは多少違うけれど、狭めの露天風呂のような場所と座るスペースがあり、小さなテーブルが置かれているのは同じだった。
眞白は傍にしゃがむと、手をそっと湯の中につけた。
「あったかい?」
嬉しそうに微笑み頷く。俺も同じように手を入れてみた。外の空気は冷たいけれど、足だけでも浸かれば体が温まりそうだ。
「どうする?先にお風呂入る?」
眞白は少し考えてから、スマホに返事を打って見せてきた。
『後で部屋のシャワー浴びる』
「分かった。あ、じゃあせっかくだし浴衣に着替えようよ」
頷いてくれたので、一旦部屋に戻って着替える事にした。
浴衣に着替え、トイレに行っている眞白は置いて先にベランダに出る。さすがに浴衣一枚では寒いので、中に長袖を着て上には半纏も羽織った。
裾をめくり、足を温泉に浸ける。長椅子に腰を下ろすと、ちょうど膝下までお湯が来た。
「あったかー……」
持ってきたタオルとスマホをテーブルに置き、外の景色を眺める。都会じゃないからイルミネーションの瞬きなどは見えない。空を見た方が綺麗なんじゃないか、と見上げてみたらオリオン座を見つけた。星座といえばそれしか知らない。冬だなあ、と思っていたら戸が開く気配がした。着替えた眞白がベランダに出てくる。
眞白は浴衣の裾を押さえながら、そっと足を湯に浸けた。
「どう?」
聞くと、うん、と頷いて笑ってくれた。こっちおいで、と少し右に寄って眞白の座る場所を空ける。
俺の左隣に座ろうとした眞白が、湯の中で滑ったのかよろけたので慌てて手を取った。
「大丈夫?」
びっくりしたのか俺の手を掴む眞白の手に力が入る。
体勢を立て直した眞白が俺の隣に座り、ようやくひと心地ついた。
知らず繋いだままになっていた手に気づいた眞白が
、急いで手を引っ込めた。何となく気まずい空気になり、用も無いのにスマホを手に取る。
「……あ、そうだ」
カメラを起動し、眞白に見せた。
「一枚も写真撮ってなかったよね」
インカメラにし、手を伸ばす。
何枚か撮り直しているうちに、自然に眞白と肩が触れていた。
宿に着く頃には、とっぷりと日が暮れていた。
入り口の引き戸を開け、部屋に入る。暖かい色の照明が点いた部屋の奥に、ダブルベッドがあるのに気づいた眞白が足を止めた。
「あの、ごめん」
眞白の前で手を振る。はっと振り向いた眞白にスマホの画面を見せた。
「急だったからこの部屋しか空いてなくて。その……良いよね?」
俺が喋った内容を読んだ眞白は、曖昧に頷くと視線を泳がせた。
やっぱり先に言っておくべきだったかな、と考えながら、荷物をベッドの脇に置く。
「あ、ほら。眞白」
そっと肩を叩いてベッドの奥を指差す。
ガラス張りの向こう側はベランダのようになっていて、湯気が立ち昇るのが見えた。
「ここが足湯だよ」
眞白を連れてベランダに出る。番組のロケで来た時とは別の部屋だから造りは多少違うけれど、狭めの露天風呂のような場所と座るスペースがあり、小さなテーブルが置かれているのは同じだった。
眞白は傍にしゃがむと、手をそっと湯の中につけた。
「あったかい?」
嬉しそうに微笑み頷く。俺も同じように手を入れてみた。外の空気は冷たいけれど、足だけでも浸かれば体が温まりそうだ。
「どうする?先にお風呂入る?」
眞白は少し考えてから、スマホに返事を打って見せてきた。
『後で部屋のシャワー浴びる』
「分かった。あ、じゃあせっかくだし浴衣に着替えようよ」
頷いてくれたので、一旦部屋に戻って着替える事にした。
浴衣に着替え、トイレに行っている眞白は置いて先にベランダに出る。さすがに浴衣一枚では寒いので、中に長袖を着て上には半纏も羽織った。
裾をめくり、足を温泉に浸ける。長椅子に腰を下ろすと、ちょうど膝下までお湯が来た。
「あったかー……」
持ってきたタオルとスマホをテーブルに置き、外の景色を眺める。都会じゃないからイルミネーションの瞬きなどは見えない。空を見た方が綺麗なんじゃないか、と見上げてみたらオリオン座を見つけた。星座といえばそれしか知らない。冬だなあ、と思っていたら戸が開く気配がした。着替えた眞白がベランダに出てくる。
眞白は浴衣の裾を押さえながら、そっと足を湯に浸けた。
「どう?」
聞くと、うん、と頷いて笑ってくれた。こっちおいで、と少し右に寄って眞白の座る場所を空ける。
俺の左隣に座ろうとした眞白が、湯の中で滑ったのかよろけたので慌てて手を取った。
「大丈夫?」
びっくりしたのか俺の手を掴む眞白の手に力が入る。
体勢を立て直した眞白が俺の隣に座り、ようやくひと心地ついた。
知らず繋いだままになっていた手に気づいた眞白が
、急いで手を引っ込めた。何となく気まずい空気になり、用も無いのにスマホを手に取る。
「……あ、そうだ」
カメラを起動し、眞白に見せた。
「一枚も写真撮ってなかったよね」
インカメラにし、手を伸ばす。
何枚か撮り直しているうちに、自然に眞白と肩が触れていた。
10
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる