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第六話 君には笑顔が似合う
scene24 手紙
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―大知―
カーテンの隙間から見える空の色が、仄かに明るくなり始めていた。
ウインドブレーカーのファスナーを上げ、黒いキャップを目深にかぶる。軽くストレッチをしていると、ふと机の隅に伏せて置いたスマホが目に入った。
手に取り、通知を確かめる。何度見たって、期待している相手からの連絡は来ないのに。
メッセージアプリを開き、眞白とのトーク画面を開いた。あの日送られてきた一言以来、何も会話は続いていない。今日こそ何か送ろう、と決めて画面を切り、元通りに伏せて置いた。朝の運動に出る時はスマホを持たないと決めている。音楽などを聴いたりしない方が、頭がすっきりするからだ。
部屋を出て鍵を閉め、マンションの外に出た。いつもの道を、軽いジョギングから始めて徐々にスピードを上げ走って行く。
閑静な住宅街を抜けると、広い公園が見えてくる。ここで少し休憩して、またマンションへ戻るのがいつものランニングコースだった。
上がった呼吸を整えながら、公園内の坂道を歩く。小さな山のように盛り上がった頂上に水飲み場とベンチが置かれていて、時々ここで悠貴と顔を合わせる事もあった。彼も週に一回くらい、朝早くランニングに出ている。今日はいないらしい。
代わりに、見覚えのあるネイビーのダッフルコートを着た後ろ姿がベンチにあった。
「……眞白?」
まさか、と思いながら近づいて行く。ベンチの近くに建つ時計台を見れば、まだ七時前だ。
歩いていくと、足元にあった小石を蹴ってしまった。ベンチの方へ転がって行く。グレーのスニーカーを履いた足元に小石がぶつかった。気づいた人影がこちらを向く。
思ったとおり、眞白だった。
俺と目が合うなり、弾かれたようにベンチから立ち上がる。
「偶然……じゃ、ないよね」
キャップを外し、汗をかいた前髪をかき上げ被り直した。鼓動が、忙しなく大きくなっていく。
「えっと……久しぶり」
ぎこちなく手を上げてみたけれど、眞白は肩にかけたトートバッグの持ち手を握りしめたまま動かない。
そうだスマホ、と思いポケットを探ろうとして、持っていないことを思い出した。
「あーしまった……ええと、どうしよう」
一人で焦っていると、眞白はトートバッグの中に手を入れ、白い表紙の本を取り出して俺に差し出してきた。受け取り、表紙に目を落とす。
「あ、これ俺が貸してた……そっか、これを返しに来てくれたのか」
なんだ、と少し落胆する。わざわざ会いに来てくれたのかと思った。
すると眞白は、自分の両手を本のように開き、二本の指でなぞるような仕草をしてから、じっと俺を見てきた。指先が微かに震えている。
「……え?読んで、ってこと?」
本を指差すと、小さく頷きが返ってきた。
怪訝に思いながら本を開く。すると、表紙の裏に何かが挟まっているのに気がついた。表紙を捲る。
二つ折りにされたルーズリーフが出てきた。
本を閉じ、薄く罫線の引かれた紙を開く。
それは、眞白からの手紙だった。
カーテンの隙間から見える空の色が、仄かに明るくなり始めていた。
ウインドブレーカーのファスナーを上げ、黒いキャップを目深にかぶる。軽くストレッチをしていると、ふと机の隅に伏せて置いたスマホが目に入った。
手に取り、通知を確かめる。何度見たって、期待している相手からの連絡は来ないのに。
メッセージアプリを開き、眞白とのトーク画面を開いた。あの日送られてきた一言以来、何も会話は続いていない。今日こそ何か送ろう、と決めて画面を切り、元通りに伏せて置いた。朝の運動に出る時はスマホを持たないと決めている。音楽などを聴いたりしない方が、頭がすっきりするからだ。
部屋を出て鍵を閉め、マンションの外に出た。いつもの道を、軽いジョギングから始めて徐々にスピードを上げ走って行く。
閑静な住宅街を抜けると、広い公園が見えてくる。ここで少し休憩して、またマンションへ戻るのがいつものランニングコースだった。
上がった呼吸を整えながら、公園内の坂道を歩く。小さな山のように盛り上がった頂上に水飲み場とベンチが置かれていて、時々ここで悠貴と顔を合わせる事もあった。彼も週に一回くらい、朝早くランニングに出ている。今日はいないらしい。
代わりに、見覚えのあるネイビーのダッフルコートを着た後ろ姿がベンチにあった。
「……眞白?」
まさか、と思いながら近づいて行く。ベンチの近くに建つ時計台を見れば、まだ七時前だ。
歩いていくと、足元にあった小石を蹴ってしまった。ベンチの方へ転がって行く。グレーのスニーカーを履いた足元に小石がぶつかった。気づいた人影がこちらを向く。
思ったとおり、眞白だった。
俺と目が合うなり、弾かれたようにベンチから立ち上がる。
「偶然……じゃ、ないよね」
キャップを外し、汗をかいた前髪をかき上げ被り直した。鼓動が、忙しなく大きくなっていく。
「えっと……久しぶり」
ぎこちなく手を上げてみたけれど、眞白は肩にかけたトートバッグの持ち手を握りしめたまま動かない。
そうだスマホ、と思いポケットを探ろうとして、持っていないことを思い出した。
「あーしまった……ええと、どうしよう」
一人で焦っていると、眞白はトートバッグの中に手を入れ、白い表紙の本を取り出して俺に差し出してきた。受け取り、表紙に目を落とす。
「あ、これ俺が貸してた……そっか、これを返しに来てくれたのか」
なんだ、と少し落胆する。わざわざ会いに来てくれたのかと思った。
すると眞白は、自分の両手を本のように開き、二本の指でなぞるような仕草をしてから、じっと俺を見てきた。指先が微かに震えている。
「……え?読んで、ってこと?」
本を指差すと、小さく頷きが返ってきた。
怪訝に思いながら本を開く。すると、表紙の裏に何かが挟まっているのに気がついた。表紙を捲る。
二つ折りにされたルーズリーフが出てきた。
本を閉じ、薄く罫線の引かれた紙を開く。
それは、眞白からの手紙だった。
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