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第六話 君には笑顔が似合う
scene22 図書館
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―眞白―
長時間のパソコン作業は、目に疲れが溜まる。
ブルーライトカットの眼鏡に替えようか悩みながら、ずり落ちたフレームを掛け直す。今週入ってきた図書の目録作業を続けていると、横にそっと、五冊ほどの図書と共にメモが置かれた。
『雪村さんへ 閉架書庫に返却お願いします』
顔を上げると、丸顔の年配の女性が俺と目を合わせてにこっと笑いかけてきた。了承の意で軽く手を挙げ、図書を手に席を立つ。
大学の講義が無い時間帯に週二回ほど、家の近くの図書館でアルバイトをさせてもらっていた。カウンター作業は難しいので、主に書誌情報の登録や返却期間延滞図書の確認などを担当している。
両手にハードカバーの専門書を抱きかかえ、閉架書庫への階段を降りていく。一般の利用者は入れない所なので、突然誰かに話しかけられる心配は無い。
順番に元の位置へ返していると、一冊だけ閉架書庫の図書ではない事に気がついた。開架の物と混ざってしまったらしい。
どうしようか迷ったけれど、一冊だけだったので自分で返しに行くことにした。どうせ平日の昼間なので、そこまで利用者は多くない。
カウンターから出たところで、人があまりいないのを確認する。うっかり利用者に図書の場所を尋ねられたりしたら面倒だった。幸い、ソファで昼寝しているお年寄りが大半で、書架に人はほとんどいない。
図書の分類を確かめ、収蔵場所を探していく。小説のコーナーは作者名順に並んでいるので分かりやすい。該当の場所に本を戻し立ち上がったところで、とある作者名が目に留まった。
返しそびれたまま、トートバッグに入っている一冊の本の存在を思い出す。胸の奥が、きゅっと痛んだ。
……もう連絡してこないで、なんて。何であんな事を送ってしまったのか。
どうしようもなく後悔していたけれど、今更送信を取り消してみたところで大知くんの記憶から消えないのは分かっている。分かっていても、出来る事ならあの日に戻ってやり直したかった。
何も大知くんは悪くないのに。一人で拗ねて傷ついて、挙句の果てに、大知くんに分からない手話でめちゃくちゃな事を言って、当たり散らして……。
ぼんやりと本棚の上部を見上げていたら、ふと近くに人の気配を感じた。振り返ろうとして体がぶつかる。
驚いてふらついた俺の腕を、そこそこ強い力で掴んできた男の顔を見て、目が丸くなる。
「ハルっ?」
思わず声を発してしまってから、はっとなって口を覆った。こんな場所で声を張ったら響いてしまう。
「(何でここにおるん)」
聞くとハルは、ごめんごめん、と口を動かしニット帽の位置を直した。こぼれて見えている髪が金髪に変わっている。クリスマスライブがあると言っていたから、それに向けて髪色を変えたのかも知れない。
「(ちょっと話せる?)」
聞かれ、腕時計で時間を確かめた。
「(あと少しで、休憩入るけど)」
「(おっけー、なら下で待っとるわ)」
ハルがコーヒーを飲む仕草をする。ここの図書館は一階に小さなカフェコーナーが設られている。そこで待っているつもりらしい。
ハルに、分かった、と返し、人がいないのを確かめてからカウンターの奥の事務室へ戻った。
長時間のパソコン作業は、目に疲れが溜まる。
ブルーライトカットの眼鏡に替えようか悩みながら、ずり落ちたフレームを掛け直す。今週入ってきた図書の目録作業を続けていると、横にそっと、五冊ほどの図書と共にメモが置かれた。
『雪村さんへ 閉架書庫に返却お願いします』
顔を上げると、丸顔の年配の女性が俺と目を合わせてにこっと笑いかけてきた。了承の意で軽く手を挙げ、図書を手に席を立つ。
大学の講義が無い時間帯に週二回ほど、家の近くの図書館でアルバイトをさせてもらっていた。カウンター作業は難しいので、主に書誌情報の登録や返却期間延滞図書の確認などを担当している。
両手にハードカバーの専門書を抱きかかえ、閉架書庫への階段を降りていく。一般の利用者は入れない所なので、突然誰かに話しかけられる心配は無い。
順番に元の位置へ返していると、一冊だけ閉架書庫の図書ではない事に気がついた。開架の物と混ざってしまったらしい。
どうしようか迷ったけれど、一冊だけだったので自分で返しに行くことにした。どうせ平日の昼間なので、そこまで利用者は多くない。
カウンターから出たところで、人があまりいないのを確認する。うっかり利用者に図書の場所を尋ねられたりしたら面倒だった。幸い、ソファで昼寝しているお年寄りが大半で、書架に人はほとんどいない。
図書の分類を確かめ、収蔵場所を探していく。小説のコーナーは作者名順に並んでいるので分かりやすい。該当の場所に本を戻し立ち上がったところで、とある作者名が目に留まった。
返しそびれたまま、トートバッグに入っている一冊の本の存在を思い出す。胸の奥が、きゅっと痛んだ。
……もう連絡してこないで、なんて。何であんな事を送ってしまったのか。
どうしようもなく後悔していたけれど、今更送信を取り消してみたところで大知くんの記憶から消えないのは分かっている。分かっていても、出来る事ならあの日に戻ってやり直したかった。
何も大知くんは悪くないのに。一人で拗ねて傷ついて、挙句の果てに、大知くんに分からない手話でめちゃくちゃな事を言って、当たり散らして……。
ぼんやりと本棚の上部を見上げていたら、ふと近くに人の気配を感じた。振り返ろうとして体がぶつかる。
驚いてふらついた俺の腕を、そこそこ強い力で掴んできた男の顔を見て、目が丸くなる。
「ハルっ?」
思わず声を発してしまってから、はっとなって口を覆った。こんな場所で声を張ったら響いてしまう。
「(何でここにおるん)」
聞くとハルは、ごめんごめん、と口を動かしニット帽の位置を直した。こぼれて見えている髪が金髪に変わっている。クリスマスライブがあると言っていたから、それに向けて髪色を変えたのかも知れない。
「(ちょっと話せる?)」
聞かれ、腕時計で時間を確かめた。
「(あと少しで、休憩入るけど)」
「(おっけー、なら下で待っとるわ)」
ハルがコーヒーを飲む仕草をする。ここの図書館は一階に小さなカフェコーナーが設られている。そこで待っているつもりらしい。
ハルに、分かった、と返し、人がいないのを確かめてからカウンターの奥の事務室へ戻った。
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