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第五話 すれ違う星の下
scene20 八つ当たり
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―眞白―
病院の外へ出ると、刺す様に冷えた風が吹きつけてきた。
トートバッグの持ち手を肩にしっかり掛け直し、歩き出す。固定してもらったお陰で、足の痛みはだいぶ和らいでいた。
来る時、タクシーから地下鉄の駅が見えていた。そこを目指して歩いていると、後からついて来ていた大知くんに肩を叩かれた。足を止めて振り返る。
大知くんはスマホを出すと、文字を打って見せてきた。
『送って行くよ、タクシー乗ろう』
首を横に振り、歩き出そうとしたら腕を掴まれた。
『足痛いでしょ?』
差し出されたスマホを取り、文字を打って大知くんの手に返す。
『一人で帰る』
すると、急いで返事を打って見せてきた。
『心配だよ』
意地を張る気持ちを抑えられないまま、返事を返す。
『電車乗るだけやで』
大知くんは眉を顰めると、また文字を打ち込んで見せてきた。
『一人じゃ危ないって』
―何かが、きれた。
差し出されたスマホを受け取らず、大知くんと目を合わせる。
「(帰ってって言ったやろ)」
大知くんの表情に戸惑いが浮かぶ。構わず続けた。
「(先に帰って、ってさっきも言ったやん。何でついて来るん)」
大知くんの背後から歩いてきた人に、じろじろ見られているのが分かった。でも止められない。
「(何でそんなに俺に構うの。何が面白いん?忙しいのに無理して時間作ってまで俺と会って、一体何がしたいん?)」
ましろ、と大知くんの唇が動く。落ち着いて、とでも言いたげに伸ばされた手を振り払った。
「(大知くんといると惨めになんねん。自分が病気やって事を思い知らされる。言いたい事は上手く伝えられんし、スマホが無いと何言われとるかも分からんし)」
次第に大知くんの顔が霞んでくる。瞼が熱い。
「(ライブも行かなければ良かった。どんな曲かも分からん、聴きたくても何も聞こえん。こんな辛くなるなら最初から知らなきゃ良かった。出会わなかったら良かった、仲良くならなければ良かった!)」
大知くんは何も言わない。何かスマホに打って見せてくることもしない。ただ困った様に、俺を見ている。
頬に熱いものがこぼれてきた。
乱暴に手の甲で拭い、スマホを出してメッセージを打ち送信した。気づいた大知くんが、手にしたスマホの画面を見る。
何か言われる前に大知くんに背を向けた。逃げ出す様に早足で駅へ向かった。
地下鉄の駅へ降りる階段を駆け降りる。途中踏み外し掛けてまた足に痛みが走って転びそうになった。改札を抜け、ホームのベンチにトートバッグを落とす様にして置き、腰を下ろした。電車を待つ人の数はまばらだったけれど、じろじろ見られているのが分かる。ハンカチを出そうとしてバッグを開いたら、大知くんに返しそびれてしまった本が目に入った。
握りしめていたスマホの画面をつける。大知くんから何も返事は無く、既読の印だけがついている。
『もう連絡してこないで』
大知くんに向けて打った、冷たい一文だけが残っていた。
病院の外へ出ると、刺す様に冷えた風が吹きつけてきた。
トートバッグの持ち手を肩にしっかり掛け直し、歩き出す。固定してもらったお陰で、足の痛みはだいぶ和らいでいた。
来る時、タクシーから地下鉄の駅が見えていた。そこを目指して歩いていると、後からついて来ていた大知くんに肩を叩かれた。足を止めて振り返る。
大知くんはスマホを出すと、文字を打って見せてきた。
『送って行くよ、タクシー乗ろう』
首を横に振り、歩き出そうとしたら腕を掴まれた。
『足痛いでしょ?』
差し出されたスマホを取り、文字を打って大知くんの手に返す。
『一人で帰る』
すると、急いで返事を打って見せてきた。
『心配だよ』
意地を張る気持ちを抑えられないまま、返事を返す。
『電車乗るだけやで』
大知くんは眉を顰めると、また文字を打ち込んで見せてきた。
『一人じゃ危ないって』
―何かが、きれた。
差し出されたスマホを受け取らず、大知くんと目を合わせる。
「(帰ってって言ったやろ)」
大知くんの表情に戸惑いが浮かぶ。構わず続けた。
「(先に帰って、ってさっきも言ったやん。何でついて来るん)」
大知くんの背後から歩いてきた人に、じろじろ見られているのが分かった。でも止められない。
「(何でそんなに俺に構うの。何が面白いん?忙しいのに無理して時間作ってまで俺と会って、一体何がしたいん?)」
ましろ、と大知くんの唇が動く。落ち着いて、とでも言いたげに伸ばされた手を振り払った。
「(大知くんといると惨めになんねん。自分が病気やって事を思い知らされる。言いたい事は上手く伝えられんし、スマホが無いと何言われとるかも分からんし)」
次第に大知くんの顔が霞んでくる。瞼が熱い。
「(ライブも行かなければ良かった。どんな曲かも分からん、聴きたくても何も聞こえん。こんな辛くなるなら最初から知らなきゃ良かった。出会わなかったら良かった、仲良くならなければ良かった!)」
大知くんは何も言わない。何かスマホに打って見せてくることもしない。ただ困った様に、俺を見ている。
頬に熱いものがこぼれてきた。
乱暴に手の甲で拭い、スマホを出してメッセージを打ち送信した。気づいた大知くんが、手にしたスマホの画面を見る。
何か言われる前に大知くんに背を向けた。逃げ出す様に早足で駅へ向かった。
地下鉄の駅へ降りる階段を駆け降りる。途中踏み外し掛けてまた足に痛みが走って転びそうになった。改札を抜け、ホームのベンチにトートバッグを落とす様にして置き、腰を下ろした。電車を待つ人の数はまばらだったけれど、じろじろ見られているのが分かる。ハンカチを出そうとしてバッグを開いたら、大知くんに返しそびれてしまった本が目に入った。
握りしめていたスマホの画面をつける。大知くんから何も返事は無く、既読の印だけがついている。
『もう連絡してこないで』
大知くんに向けて打った、冷たい一文だけが残っていた。
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