Please,Call My Name

叶けい

文字の大きさ
上 下
20 / 52
第五話 すれ違う星の下

scene20 八つ当たり

しおりを挟む
―眞白―
病院の外へ出ると、刺す様に冷えた風が吹きつけてきた。
トートバッグの持ち手を肩にしっかり掛け直し、歩き出す。固定してもらったお陰で、足の痛みはだいぶ和らいでいた。
来る時、タクシーから地下鉄の駅が見えていた。そこを目指して歩いていると、後からついて来ていた大知くんに肩を叩かれた。足を止めて振り返る。
大知くんはスマホを出すと、文字を打って見せてきた。
『送って行くよ、タクシー乗ろう』
首を横に振り、歩き出そうとしたら腕を掴まれた。
『足痛いでしょ?』
差し出されたスマホを取り、文字を打って大知くんの手に返す。
『一人で帰る』
すると、急いで返事を打って見せてきた。
『心配だよ』
意地を張る気持ちを抑えられないまま、返事を返す。
『電車乗るだけやで』
大知くんは眉を顰めると、また文字を打ち込んで見せてきた。
『一人じゃ危ないって』
―何かが、きれた。
差し出されたスマホを受け取らず、大知くんと目を合わせる。
「(帰ってって言ったやろ)」
大知くんの表情に戸惑いが浮かぶ。構わず続けた。
「(先に帰って、ってさっきも言ったやん。何でついて来るん)」
大知くんの背後から歩いてきた人に、じろじろ見られているのが分かった。でも止められない。
「(何でそんなに俺に構うの。何が面白いん?忙しいのに無理して時間作ってまで俺と会って、一体何がしたいん?)」
ましろ、と大知くんの唇が動く。落ち着いて、とでも言いたげに伸ばされた手を振り払った。
「(大知くんといると惨めになんねん。自分が病気やって事を思い知らされる。言いたい事は上手く伝えられんし、スマホが無いと何言われとるかも分からんし)」
次第に大知くんの顔が霞んでくる。瞼が熱い。
「(ライブも行かなければ良かった。どんな曲かも分からん、聴きたくても何も聞こえん。こんな辛くなるなら最初から知らなきゃ良かった。出会わなかったら良かった、仲良くならなければ良かった!)」
大知くんは何も言わない。何かスマホに打って見せてくることもしない。ただ困った様に、俺を見ている。
頬に熱いものがこぼれてきた。
乱暴に手の甲で拭い、スマホを出してメッセージを打ち送信した。気づいた大知くんが、手にしたスマホの画面を見る。
何か言われる前に大知くんに背を向けた。逃げ出す様に早足で駅へ向かった。
地下鉄の駅へ降りる階段を駆け降りる。途中踏み外し掛けてまた足に痛みが走って転びそうになった。改札を抜け、ホームのベンチにトートバッグを落とす様にして置き、腰を下ろした。電車を待つ人の数はまばらだったけれど、じろじろ見られているのが分かる。ハンカチを出そうとしてバッグを開いたら、大知くんに返しそびれてしまった本が目に入った。
握りしめていたスマホの画面をつける。大知くんから何も返事は無く、既読の印だけがついている。
『もう連絡してこないで』
大知くんに向けて打った、冷たい一文だけが残っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...