14 / 52
第四話 光り輝くステージと影
scene14 ファンサービス
しおりを挟む
―眞白―
続けてもう一曲、アップテンポのダンス曲を披露した後はトークが始まった。
壇上のメンバー達が、座って、と呼びかけているのが分かり、周りに倣って腰を下ろすと伊織が肩を叩いてきた。
「(通訳しようか?)」
控えめな手つきで聞かれ、少し考えて首を横に振った。伊織の方を見ていたらステージの様子が分からない。伊織も、それ以上は何も言ってこなかった。
明るい栗色の髪のメンバーが仕切りなのか、観客の反応を見ながら他のメンバーに話を振っている。名前は確か奏多くん、だった気がする。ハルがお世話になっているグループのメンバーなんだから覚えなければ、と頑張って皆んなの顔と名前は一致させたけれど、髪型が変わるとたまに分からなくなる。
奏多くんの隣で頷きながら話を聞いているのが、メインボーカルの碧生くん。目がくりっとしていて覚えやすい。大きな口を開けて笑っているのが最年少の千隼くんで、作り物みたいに綺麗な顔をしているのが、人気メンバーの瞬くん。ハルはその隣で観客に向かって手を振っている。……そして。
一番端で、大知くんは控えめに笑いながらメンバーの方を見ていた。時々、ハンドマイクを口元に持っていって何か話している。
大知くんはあまり唇を動かさないで喋るから、何を言っているのかいつも分かりづらい。ハルは意識して口を大きく動かして話してくれてるんやな、と気づく。声の大きさも気にしてくれているんだろう。二人きりで静かな場所なら、ハルの声は微かに聞き取れるからだ。
ハルの声は知っている。幼い頃の記憶がまだ残っている。
でも大知くんの声を、俺は知らない。
和やかな雰囲気でトークタイムは進んだ。奏多くんが、話しながら指を一本立ててみせる。もう一曲歌うんだろうか、と思ったらそうだったらしく、再び観客が立ち上がった。
照明の雰囲気が変わる。どうやら明るい曲調らしい。最初に披露した曲と違って、メンバー達は笑顔を浮かべ、手を振りながら観客席の方へ近づいてきた。振り付けのない曲らしく、メンバー達はそれぞれに体を動かし、リズムに乗りながら歌っている。
ファンの子達はペンライトの色で、どのメンバーのファンなのかアピールしていた。さすがに誰が何色かまで把握しきれていないけれど、ハルがピンクだったのは覚えている。ピンク色にライトを灯して必死にアピールしていた女の子に、ハルが手を振ると喜んでいる様子が遠目にも分かった。
大知くんは、何色なんやろ。
ステージの上から観客席を見渡している大知くんを見つめる。時々、遠くの席へ向かって手を振ったりハートマークを作ってみせたりしていた。自分の歌うパートがきたのか、マイクを構えて歌いながらこちらの方へ歩いてくる。見ていたって、どうせ遠いから気づくわけないと思っていた。
目が、合った気がした。
気のせいかと思ったけれど、大知くんは自分のパートを歌い終えると再びこちらの方を見てきた。
不思議そうな表情から、花びらが解けるように笑顔に変わっていく。
胸の奥で、鼓動が跳ね上がった。
気づいた?まさか。結構遠いのに。こんなに人がいるのに?
大知くんが、こちらに向けて大きく手を振ってくる。恐る恐る、手を挙げてみた。振り返そうとしたら、俺の前の席にいた子達が前のめりに大知くんに向かって手を大きく振った。
慌てて手を引っ込める。大知くんは女の子達に向かって小さく手を振ると、ステージの中央へ戻っていった。メンバー達も集まってポーズを取る。曲が終わったらしい。
最後にメンバーがそれぞれ挨拶をして、ショーケースは終了した。メンバー達が捌け、会場の照明が明るくなる。
ぞろぞろと観客達が席を立ち出口に向かっていく中で、俺は伊織が何度も肩を叩いてくるまで、呆然とからっぽになったステージを見つめていた。
俺を見つけた時の大知くんの笑顔が、頭から離れなかった。
続けてもう一曲、アップテンポのダンス曲を披露した後はトークが始まった。
壇上のメンバー達が、座って、と呼びかけているのが分かり、周りに倣って腰を下ろすと伊織が肩を叩いてきた。
「(通訳しようか?)」
控えめな手つきで聞かれ、少し考えて首を横に振った。伊織の方を見ていたらステージの様子が分からない。伊織も、それ以上は何も言ってこなかった。
明るい栗色の髪のメンバーが仕切りなのか、観客の反応を見ながら他のメンバーに話を振っている。名前は確か奏多くん、だった気がする。ハルがお世話になっているグループのメンバーなんだから覚えなければ、と頑張って皆んなの顔と名前は一致させたけれど、髪型が変わるとたまに分からなくなる。
奏多くんの隣で頷きながら話を聞いているのが、メインボーカルの碧生くん。目がくりっとしていて覚えやすい。大きな口を開けて笑っているのが最年少の千隼くんで、作り物みたいに綺麗な顔をしているのが、人気メンバーの瞬くん。ハルはその隣で観客に向かって手を振っている。……そして。
一番端で、大知くんは控えめに笑いながらメンバーの方を見ていた。時々、ハンドマイクを口元に持っていって何か話している。
大知くんはあまり唇を動かさないで喋るから、何を言っているのかいつも分かりづらい。ハルは意識して口を大きく動かして話してくれてるんやな、と気づく。声の大きさも気にしてくれているんだろう。二人きりで静かな場所なら、ハルの声は微かに聞き取れるからだ。
ハルの声は知っている。幼い頃の記憶がまだ残っている。
でも大知くんの声を、俺は知らない。
和やかな雰囲気でトークタイムは進んだ。奏多くんが、話しながら指を一本立ててみせる。もう一曲歌うんだろうか、と思ったらそうだったらしく、再び観客が立ち上がった。
照明の雰囲気が変わる。どうやら明るい曲調らしい。最初に披露した曲と違って、メンバー達は笑顔を浮かべ、手を振りながら観客席の方へ近づいてきた。振り付けのない曲らしく、メンバー達はそれぞれに体を動かし、リズムに乗りながら歌っている。
ファンの子達はペンライトの色で、どのメンバーのファンなのかアピールしていた。さすがに誰が何色かまで把握しきれていないけれど、ハルがピンクだったのは覚えている。ピンク色にライトを灯して必死にアピールしていた女の子に、ハルが手を振ると喜んでいる様子が遠目にも分かった。
大知くんは、何色なんやろ。
ステージの上から観客席を見渡している大知くんを見つめる。時々、遠くの席へ向かって手を振ったりハートマークを作ってみせたりしていた。自分の歌うパートがきたのか、マイクを構えて歌いながらこちらの方へ歩いてくる。見ていたって、どうせ遠いから気づくわけないと思っていた。
目が、合った気がした。
気のせいかと思ったけれど、大知くんは自分のパートを歌い終えると再びこちらの方を見てきた。
不思議そうな表情から、花びらが解けるように笑顔に変わっていく。
胸の奥で、鼓動が跳ね上がった。
気づいた?まさか。結構遠いのに。こんなに人がいるのに?
大知くんが、こちらに向けて大きく手を振ってくる。恐る恐る、手を挙げてみた。振り返そうとしたら、俺の前の席にいた子達が前のめりに大知くんに向かって手を大きく振った。
慌てて手を引っ込める。大知くんは女の子達に向かって小さく手を振ると、ステージの中央へ戻っていった。メンバー達も集まってポーズを取る。曲が終わったらしい。
最後にメンバーがそれぞれ挨拶をして、ショーケースは終了した。メンバー達が捌け、会場の照明が明るくなる。
ぞろぞろと観客達が席を立ち出口に向かっていく中で、俺は伊織が何度も肩を叩いてくるまで、呆然とからっぽになったステージを見つめていた。
俺を見つけた時の大知くんの笑顔が、頭から離れなかった。
21
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる