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第四話 光り輝くステージと影
scene13 ショーケース
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―眞白―
入場口でスタッフパスを提示すると、通されたのはカメラ機材のすぐ傍の席だった。
簡易的に設えられたパイプ椅子に腰を下ろし、そっと周りを見回す。ボーイズグループのファンだから女の子ばかりかと思っていたけれど、何人か男性の姿もあった。同性にも人気があるらしい。
ステージの方を見る。絞られた照明の下で、モニターに『star.b』のロゴが光っていた。
目の前で手がひらひらと動いたので隣の席に顔を向ける。
「(女の子ばっかりじゃん)」
大袈裟に顔を顰め、伊織が手話で文句を言ってきた。
伊織は同い年の友人で、学部は違うが同じ大学に通っている。入学して間もない頃、手話の授業で一緒になってから仲良くなった。ハルとも顔見知りだけれど、どうやら伊織はハルを苦手に思っているらしく、あまり二人の仲は良くない。
「(男の人もいるで?ほら)」
と、ステージ近くの席を指差した。
すると、俺と伊織が座る二列前の女の子と目が合った。瞬間、目を逸らされる。
まるで、見てはいけないものを見たみたいに。
伊織が俺の肩をつついてきたので振り返る。
「(何で俺を誘ったの?男二人で来たら、目立つ)」
思わず伊織の手を押さえた。
驚いた様に目を見開き、何、と伊織の口が動くのが見て取れる。
ゆっくり手をどかし、ポケットからスマホを出して文を打った。伊織に見せる。
『手話、目立つからやめよ』
じっと画面を見た後、伊織は小さく肩をすくめる仕草をしてからステージの方を向いた。
打った文字を消してから、スマホをしまう。右耳に掛けていた補聴器も、外してポケットに入れた。
耳元でさざめいていた雑音が消える。こんなに人がひしめいているのになんて静かなんだろう。心の奥底に、静かに澱が溜まっていく。
知らない間に俯いて足元を見ていたら、ふと照明が暗くなったことに気がついた。前の席の人々が次々と立ち上がる。横から伊織に促され、俺も腰を上げた。どうやら始まるらしい。
ダウンライトで照らされていたステージが真っ暗になっている。わずかな明かりで、袖から人が何人か出て来たのが見て取れた。ライブハウスの空間は暗いまま、ステージだけにスポットライトが当たる。
センターに立つ長身のメンバーがマイクを構えた。大知くんだった。
見たことが無いような、鋭い目つきで会場を見渡す。
『――!』
何か煽るような事を言ったのか、一気に会場の熱気が高まったのを感じた。ステージに視線が釘付けになる。
光を反射するエナメル素材の衣装に身を包んだメンバー達が、切れのある激しいダンスを披露していく。後ろの方から、ハルが前に出て来たのが目に入った。いつものふざけた表情とは違って真剣な面持ちでマイクを握り、自分のパートを歌い上げる。
目まぐるしくフォーメーションが入れ替わる。物凄い練習量だろうことは想像に難くなかった。全身にビート音の振動が伝わってくる。あまりの熱量に気圧されていると、大知くんがセンターに出てきた。圧倒的な存在感に言葉を失う。
ハルが言っていた言葉を、思い出す。
『――かっこええよ、大知くん。普段と全然違う感じ』
本当にその通りだと思った。
俺が知っている大知くんは、コーヒーと読書が好きで。目が合うといつも、照れ臭そうに笑う。性格はマイペースで、おっとり優しくて……そんな彼しか知らなかった。
パフォーマンスになると、あんなにクールな表情をするのかとか。ダンスパートになるとほとんどセンターで、全体の動きをリードしているんだとか。初めて知ることがたくさんあった。俺の知らない大知くんがそこにいた。
まるで、別人を見ているみたいだった。
呆然としているうちにメイン曲の披露が終わったらしい。観覧に来ているファンの子達が拍手を送っているのに気づき、つられるようにして手を叩いた。
入場口でスタッフパスを提示すると、通されたのはカメラ機材のすぐ傍の席だった。
簡易的に設えられたパイプ椅子に腰を下ろし、そっと周りを見回す。ボーイズグループのファンだから女の子ばかりかと思っていたけれど、何人か男性の姿もあった。同性にも人気があるらしい。
ステージの方を見る。絞られた照明の下で、モニターに『star.b』のロゴが光っていた。
目の前で手がひらひらと動いたので隣の席に顔を向ける。
「(女の子ばっかりじゃん)」
大袈裟に顔を顰め、伊織が手話で文句を言ってきた。
伊織は同い年の友人で、学部は違うが同じ大学に通っている。入学して間もない頃、手話の授業で一緒になってから仲良くなった。ハルとも顔見知りだけれど、どうやら伊織はハルを苦手に思っているらしく、あまり二人の仲は良くない。
「(男の人もいるで?ほら)」
と、ステージ近くの席を指差した。
すると、俺と伊織が座る二列前の女の子と目が合った。瞬間、目を逸らされる。
まるで、見てはいけないものを見たみたいに。
伊織が俺の肩をつついてきたので振り返る。
「(何で俺を誘ったの?男二人で来たら、目立つ)」
思わず伊織の手を押さえた。
驚いた様に目を見開き、何、と伊織の口が動くのが見て取れる。
ゆっくり手をどかし、ポケットからスマホを出して文を打った。伊織に見せる。
『手話、目立つからやめよ』
じっと画面を見た後、伊織は小さく肩をすくめる仕草をしてからステージの方を向いた。
打った文字を消してから、スマホをしまう。右耳に掛けていた補聴器も、外してポケットに入れた。
耳元でさざめいていた雑音が消える。こんなに人がひしめいているのになんて静かなんだろう。心の奥底に、静かに澱が溜まっていく。
知らない間に俯いて足元を見ていたら、ふと照明が暗くなったことに気がついた。前の席の人々が次々と立ち上がる。横から伊織に促され、俺も腰を上げた。どうやら始まるらしい。
ダウンライトで照らされていたステージが真っ暗になっている。わずかな明かりで、袖から人が何人か出て来たのが見て取れた。ライブハウスの空間は暗いまま、ステージだけにスポットライトが当たる。
センターに立つ長身のメンバーがマイクを構えた。大知くんだった。
見たことが無いような、鋭い目つきで会場を見渡す。
『――!』
何か煽るような事を言ったのか、一気に会場の熱気が高まったのを感じた。ステージに視線が釘付けになる。
光を反射するエナメル素材の衣装に身を包んだメンバー達が、切れのある激しいダンスを披露していく。後ろの方から、ハルが前に出て来たのが目に入った。いつものふざけた表情とは違って真剣な面持ちでマイクを握り、自分のパートを歌い上げる。
目まぐるしくフォーメーションが入れ替わる。物凄い練習量だろうことは想像に難くなかった。全身にビート音の振動が伝わってくる。あまりの熱量に気圧されていると、大知くんがセンターに出てきた。圧倒的な存在感に言葉を失う。
ハルが言っていた言葉を、思い出す。
『――かっこええよ、大知くん。普段と全然違う感じ』
本当にその通りだと思った。
俺が知っている大知くんは、コーヒーと読書が好きで。目が合うといつも、照れ臭そうに笑う。性格はマイペースで、おっとり優しくて……そんな彼しか知らなかった。
パフォーマンスになると、あんなにクールな表情をするのかとか。ダンスパートになるとほとんどセンターで、全体の動きをリードしているんだとか。初めて知ることがたくさんあった。俺の知らない大知くんがそこにいた。
まるで、別人を見ているみたいだった。
呆然としているうちにメイン曲の披露が終わったらしい。観覧に来ているファンの子達が拍手を送っているのに気づき、つられるようにして手を叩いた。
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