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第二話 コーヒーとラブストーリー
scene5 カフェ
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―大知―
一本目のラジオ収録が終わり、空き時間が出来た。
「俺、コーヒー買ってくる」
「好きやねー。行ってらっしゃい」
お菓子を頬張っていた悠貴に見送られ、控室を出る。廊下の片隅に置いてある自販機を見ると、無糖だけが売り切れていた。
「微糖、カフェラテ…甘いの、だめなんだよなあ」
独り言を呟きながら、スマホを出して時間を確かめる。まだ次の収録が始まるまで、結構時間があった。控室に戻る。
「ハル、ちょっと出てくるね」
「えー、何で。どこ行くん?」
「コーヒー、ブラックが無くてさ。外見てくるわ」
上着を手に取り、再び控室を出た。階段を降り、上着を羽織ってから扉を開けて外へ出る。
「さむ……」
慌てて前のファスナーを上げた。すっかり暗くなった空を見上げてから、どこかコンビニでも無いかと辺りを見回す。
すると、細い路地の先に『cafe』と書かれた看板が置かれているのが目に入った。ガラス張りの店内を覗くと、どうやらセルフ式らしい事が分かる。テイクアウトでも大丈夫そうだったので、中へ入った。
暖房の効いた店内には、控えめな音量でピアノのインストルメンタルが流れている。聞き覚えのあるメロディを口ずさんでみると、クリスマスによく聞く曲だった。タイトルは何だったか。
「ご注文はお決まりですか」
「……あっ、はい」
店員さんに声を掛けられ、我に返る。コーヒーを注文し代金を支払った。
すぐに出来ると言うので、そのままカウンターの前で待つことにした。時間も遅いからか店内ですごす人の数はまばらだった。
何気なく店の奥へ目を向けた。そのまま、視線が釘付けになる。
「お待たせしました」
「あ、どうも……」
差し出された温かいカップの紙スリーブ部分を持ち、もう一度奥の席を見た。
アイボリーのハイネックセーターを着た青年が一人、静かに読書をしていた。柔らかそうな前髪が目元にかかっている。どう見ても眞白だった。
ゆっくり席に近づく。何を読んでいるんだろう、と表紙を覗くように身をかがめたら目が合ってしまった。
「あ、ごめん」
驚いた様に本を閉じた眞白に、慌てて謝る。
「その……久しぶり」
何と言ったらいいか分からずそう言うと、眞白は小さく会釈を返してくれた。細い指が一本立てられる。唇の動きで、ひとり?、と聞いているのが分かって頷いた。この間と同じように、どうぞ、と微笑みながら向かいの席を指し示してくれたので腰かける。
「何、読んでたの?」
本を指差し、ゆっくりと話してみる。もしかしたら唇の動きで通じるかな、と思ったらやはり分かったのか、表紙をめくってタイトルの書かれたページを見せてくれた。
「あ、これ知ってる」
タイトルを指でなぞり、眞白を見た。あ、と眞白の唇が開く。読んだ?と聞かれたのが分かったので頷いた。
「普段そんなに恋愛小説は読まないんだけど。これ本当に良くてさ。何回も読んじゃった。すごく好きで……」
つい早口になって喋ってしまった。眞白が困った様に首を傾げる。
「あっごめん……だからその、つまり」
好き、と言いながら両手でハートを作って見せてみた。一瞬驚いた様に目を丸くした後、眞白がふき出す。
「えっ?いや、そうじゃなくて」
耳が熱くなる。好きと言ったらハートマークを作ってしまうのは、現役アイドルの性かも知れない。
それにしても、眞白は本当に笑うと可愛かった。白い歯が覗く口元を見ていたら、眞白はスマホを取り出し、文字を打って見せてきた。
『びっくりした。おもろいなあ、大知くん』
「いや、面白くないし……」
しどろもどろに否定しつつ、見せられたテキストに目がいく。
「そっか、ハルの幼なじみだもんね。眞白も関西弁なんだ」
俺が話したのに気づいて、眞白が画面を確認する。返事を打って、見せてくれる。
『はい。東京に来たのは大学生になってからです』
「あ、もういいよ敬語」
画面を指差す。
「関西弁の方が楽じゃない?」
画面を確認した眞白は、ちょっと戸惑った様子だったけれど、分かった、と唇を動かして胸を、トントン、と二回叩いた。
そして、ふと何か思いついたのか急いでテキストを打って俺に見せてきた。
『大知くん、今日は仕事やないの?』
「あ、うん。今日はハルと……あ!」
眞白のスマホ画面の端に表示された時間を見て目が丸くなった。
気づかないうちに、随分時間が過ぎてしまっていたらしい。
「戻らなきゃ、うわ」
焦って椅子から立ち上がる。
「またね!」
伝わったかどうか分からないが眞白に向かって言い残し、急いで店を出た。
一本目のラジオ収録が終わり、空き時間が出来た。
「俺、コーヒー買ってくる」
「好きやねー。行ってらっしゃい」
お菓子を頬張っていた悠貴に見送られ、控室を出る。廊下の片隅に置いてある自販機を見ると、無糖だけが売り切れていた。
「微糖、カフェラテ…甘いの、だめなんだよなあ」
独り言を呟きながら、スマホを出して時間を確かめる。まだ次の収録が始まるまで、結構時間があった。控室に戻る。
「ハル、ちょっと出てくるね」
「えー、何で。どこ行くん?」
「コーヒー、ブラックが無くてさ。外見てくるわ」
上着を手に取り、再び控室を出た。階段を降り、上着を羽織ってから扉を開けて外へ出る。
「さむ……」
慌てて前のファスナーを上げた。すっかり暗くなった空を見上げてから、どこかコンビニでも無いかと辺りを見回す。
すると、細い路地の先に『cafe』と書かれた看板が置かれているのが目に入った。ガラス張りの店内を覗くと、どうやらセルフ式らしい事が分かる。テイクアウトでも大丈夫そうだったので、中へ入った。
暖房の効いた店内には、控えめな音量でピアノのインストルメンタルが流れている。聞き覚えのあるメロディを口ずさんでみると、クリスマスによく聞く曲だった。タイトルは何だったか。
「ご注文はお決まりですか」
「……あっ、はい」
店員さんに声を掛けられ、我に返る。コーヒーを注文し代金を支払った。
すぐに出来ると言うので、そのままカウンターの前で待つことにした。時間も遅いからか店内ですごす人の数はまばらだった。
何気なく店の奥へ目を向けた。そのまま、視線が釘付けになる。
「お待たせしました」
「あ、どうも……」
差し出された温かいカップの紙スリーブ部分を持ち、もう一度奥の席を見た。
アイボリーのハイネックセーターを着た青年が一人、静かに読書をしていた。柔らかそうな前髪が目元にかかっている。どう見ても眞白だった。
ゆっくり席に近づく。何を読んでいるんだろう、と表紙を覗くように身をかがめたら目が合ってしまった。
「あ、ごめん」
驚いた様に本を閉じた眞白に、慌てて謝る。
「その……久しぶり」
何と言ったらいいか分からずそう言うと、眞白は小さく会釈を返してくれた。細い指が一本立てられる。唇の動きで、ひとり?、と聞いているのが分かって頷いた。この間と同じように、どうぞ、と微笑みながら向かいの席を指し示してくれたので腰かける。
「何、読んでたの?」
本を指差し、ゆっくりと話してみる。もしかしたら唇の動きで通じるかな、と思ったらやはり分かったのか、表紙をめくってタイトルの書かれたページを見せてくれた。
「あ、これ知ってる」
タイトルを指でなぞり、眞白を見た。あ、と眞白の唇が開く。読んだ?と聞かれたのが分かったので頷いた。
「普段そんなに恋愛小説は読まないんだけど。これ本当に良くてさ。何回も読んじゃった。すごく好きで……」
つい早口になって喋ってしまった。眞白が困った様に首を傾げる。
「あっごめん……だからその、つまり」
好き、と言いながら両手でハートを作って見せてみた。一瞬驚いた様に目を丸くした後、眞白がふき出す。
「えっ?いや、そうじゃなくて」
耳が熱くなる。好きと言ったらハートマークを作ってしまうのは、現役アイドルの性かも知れない。
それにしても、眞白は本当に笑うと可愛かった。白い歯が覗く口元を見ていたら、眞白はスマホを取り出し、文字を打って見せてきた。
『びっくりした。おもろいなあ、大知くん』
「いや、面白くないし……」
しどろもどろに否定しつつ、見せられたテキストに目がいく。
「そっか、ハルの幼なじみだもんね。眞白も関西弁なんだ」
俺が話したのに気づいて、眞白が画面を確認する。返事を打って、見せてくれる。
『はい。東京に来たのは大学生になってからです』
「あ、もういいよ敬語」
画面を指差す。
「関西弁の方が楽じゃない?」
画面を確認した眞白は、ちょっと戸惑った様子だったけれど、分かった、と唇を動かして胸を、トントン、と二回叩いた。
そして、ふと何か思いついたのか急いでテキストを打って俺に見せてきた。
『大知くん、今日は仕事やないの?』
「あ、うん。今日はハルと……あ!」
眞白のスマホ画面の端に表示された時間を見て目が丸くなった。
気づかないうちに、随分時間が過ぎてしまっていたらしい。
「戻らなきゃ、うわ」
焦って椅子から立ち上がる。
「またね!」
伝わったかどうか分からないが眞白に向かって言い残し、急いで店を出た。
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