5 / 52
第二話 コーヒーとラブストーリー
scene5 カフェ
しおりを挟む
―大知―
一本目のラジオ収録が終わり、空き時間が出来た。
「俺、コーヒー買ってくる」
「好きやねー。行ってらっしゃい」
お菓子を頬張っていた悠貴に見送られ、控室を出る。廊下の片隅に置いてある自販機を見ると、無糖だけが売り切れていた。
「微糖、カフェラテ…甘いの、だめなんだよなあ」
独り言を呟きながら、スマホを出して時間を確かめる。まだ次の収録が始まるまで、結構時間があった。控室に戻る。
「ハル、ちょっと出てくるね」
「えー、何で。どこ行くん?」
「コーヒー、ブラックが無くてさ。外見てくるわ」
上着を手に取り、再び控室を出た。階段を降り、上着を羽織ってから扉を開けて外へ出る。
「さむ……」
慌てて前のファスナーを上げた。すっかり暗くなった空を見上げてから、どこかコンビニでも無いかと辺りを見回す。
すると、細い路地の先に『cafe』と書かれた看板が置かれているのが目に入った。ガラス張りの店内を覗くと、どうやらセルフ式らしい事が分かる。テイクアウトでも大丈夫そうだったので、中へ入った。
暖房の効いた店内には、控えめな音量でピアノのインストルメンタルが流れている。聞き覚えのあるメロディを口ずさんでみると、クリスマスによく聞く曲だった。タイトルは何だったか。
「ご注文はお決まりですか」
「……あっ、はい」
店員さんに声を掛けられ、我に返る。コーヒーを注文し代金を支払った。
すぐに出来ると言うので、そのままカウンターの前で待つことにした。時間も遅いからか店内ですごす人の数はまばらだった。
何気なく店の奥へ目を向けた。そのまま、視線が釘付けになる。
「お待たせしました」
「あ、どうも……」
差し出された温かいカップの紙スリーブ部分を持ち、もう一度奥の席を見た。
アイボリーのハイネックセーターを着た青年が一人、静かに読書をしていた。柔らかそうな前髪が目元にかかっている。どう見ても眞白だった。
ゆっくり席に近づく。何を読んでいるんだろう、と表紙を覗くように身をかがめたら目が合ってしまった。
「あ、ごめん」
驚いた様に本を閉じた眞白に、慌てて謝る。
「その……久しぶり」
何と言ったらいいか分からずそう言うと、眞白は小さく会釈を返してくれた。細い指が一本立てられる。唇の動きで、ひとり?、と聞いているのが分かって頷いた。この間と同じように、どうぞ、と微笑みながら向かいの席を指し示してくれたので腰かける。
「何、読んでたの?」
本を指差し、ゆっくりと話してみる。もしかしたら唇の動きで通じるかな、と思ったらやはり分かったのか、表紙をめくってタイトルの書かれたページを見せてくれた。
「あ、これ知ってる」
タイトルを指でなぞり、眞白を見た。あ、と眞白の唇が開く。読んだ?と聞かれたのが分かったので頷いた。
「普段そんなに恋愛小説は読まないんだけど。これ本当に良くてさ。何回も読んじゃった。すごく好きで……」
つい早口になって喋ってしまった。眞白が困った様に首を傾げる。
「あっごめん……だからその、つまり」
好き、と言いながら両手でハートを作って見せてみた。一瞬驚いた様に目を丸くした後、眞白がふき出す。
「えっ?いや、そうじゃなくて」
耳が熱くなる。好きと言ったらハートマークを作ってしまうのは、現役アイドルの性かも知れない。
それにしても、眞白は本当に笑うと可愛かった。白い歯が覗く口元を見ていたら、眞白はスマホを取り出し、文字を打って見せてきた。
『びっくりした。おもろいなあ、大知くん』
「いや、面白くないし……」
しどろもどろに否定しつつ、見せられたテキストに目がいく。
「そっか、ハルの幼なじみだもんね。眞白も関西弁なんだ」
俺が話したのに気づいて、眞白が画面を確認する。返事を打って、見せてくれる。
『はい。東京に来たのは大学生になってからです』
「あ、もういいよ敬語」
画面を指差す。
「関西弁の方が楽じゃない?」
画面を確認した眞白は、ちょっと戸惑った様子だったけれど、分かった、と唇を動かして胸を、トントン、と二回叩いた。
そして、ふと何か思いついたのか急いでテキストを打って俺に見せてきた。
『大知くん、今日は仕事やないの?』
「あ、うん。今日はハルと……あ!」
眞白のスマホ画面の端に表示された時間を見て目が丸くなった。
気づかないうちに、随分時間が過ぎてしまっていたらしい。
「戻らなきゃ、うわ」
焦って椅子から立ち上がる。
「またね!」
伝わったかどうか分からないが眞白に向かって言い残し、急いで店を出た。
一本目のラジオ収録が終わり、空き時間が出来た。
「俺、コーヒー買ってくる」
「好きやねー。行ってらっしゃい」
お菓子を頬張っていた悠貴に見送られ、控室を出る。廊下の片隅に置いてある自販機を見ると、無糖だけが売り切れていた。
「微糖、カフェラテ…甘いの、だめなんだよなあ」
独り言を呟きながら、スマホを出して時間を確かめる。まだ次の収録が始まるまで、結構時間があった。控室に戻る。
「ハル、ちょっと出てくるね」
「えー、何で。どこ行くん?」
「コーヒー、ブラックが無くてさ。外見てくるわ」
上着を手に取り、再び控室を出た。階段を降り、上着を羽織ってから扉を開けて外へ出る。
「さむ……」
慌てて前のファスナーを上げた。すっかり暗くなった空を見上げてから、どこかコンビニでも無いかと辺りを見回す。
すると、細い路地の先に『cafe』と書かれた看板が置かれているのが目に入った。ガラス張りの店内を覗くと、どうやらセルフ式らしい事が分かる。テイクアウトでも大丈夫そうだったので、中へ入った。
暖房の効いた店内には、控えめな音量でピアノのインストルメンタルが流れている。聞き覚えのあるメロディを口ずさんでみると、クリスマスによく聞く曲だった。タイトルは何だったか。
「ご注文はお決まりですか」
「……あっ、はい」
店員さんに声を掛けられ、我に返る。コーヒーを注文し代金を支払った。
すぐに出来ると言うので、そのままカウンターの前で待つことにした。時間も遅いからか店内ですごす人の数はまばらだった。
何気なく店の奥へ目を向けた。そのまま、視線が釘付けになる。
「お待たせしました」
「あ、どうも……」
差し出された温かいカップの紙スリーブ部分を持ち、もう一度奥の席を見た。
アイボリーのハイネックセーターを着た青年が一人、静かに読書をしていた。柔らかそうな前髪が目元にかかっている。どう見ても眞白だった。
ゆっくり席に近づく。何を読んでいるんだろう、と表紙を覗くように身をかがめたら目が合ってしまった。
「あ、ごめん」
驚いた様に本を閉じた眞白に、慌てて謝る。
「その……久しぶり」
何と言ったらいいか分からずそう言うと、眞白は小さく会釈を返してくれた。細い指が一本立てられる。唇の動きで、ひとり?、と聞いているのが分かって頷いた。この間と同じように、どうぞ、と微笑みながら向かいの席を指し示してくれたので腰かける。
「何、読んでたの?」
本を指差し、ゆっくりと話してみる。もしかしたら唇の動きで通じるかな、と思ったらやはり分かったのか、表紙をめくってタイトルの書かれたページを見せてくれた。
「あ、これ知ってる」
タイトルを指でなぞり、眞白を見た。あ、と眞白の唇が開く。読んだ?と聞かれたのが分かったので頷いた。
「普段そんなに恋愛小説は読まないんだけど。これ本当に良くてさ。何回も読んじゃった。すごく好きで……」
つい早口になって喋ってしまった。眞白が困った様に首を傾げる。
「あっごめん……だからその、つまり」
好き、と言いながら両手でハートを作って見せてみた。一瞬驚いた様に目を丸くした後、眞白がふき出す。
「えっ?いや、そうじゃなくて」
耳が熱くなる。好きと言ったらハートマークを作ってしまうのは、現役アイドルの性かも知れない。
それにしても、眞白は本当に笑うと可愛かった。白い歯が覗く口元を見ていたら、眞白はスマホを取り出し、文字を打って見せてきた。
『びっくりした。おもろいなあ、大知くん』
「いや、面白くないし……」
しどろもどろに否定しつつ、見せられたテキストに目がいく。
「そっか、ハルの幼なじみだもんね。眞白も関西弁なんだ」
俺が話したのに気づいて、眞白が画面を確認する。返事を打って、見せてくれる。
『はい。東京に来たのは大学生になってからです』
「あ、もういいよ敬語」
画面を指差す。
「関西弁の方が楽じゃない?」
画面を確認した眞白は、ちょっと戸惑った様子だったけれど、分かった、と唇を動かして胸を、トントン、と二回叩いた。
そして、ふと何か思いついたのか急いでテキストを打って俺に見せてきた。
『大知くん、今日は仕事やないの?』
「あ、うん。今日はハルと……あ!」
眞白のスマホ画面の端に表示された時間を見て目が丸くなった。
気づかないうちに、随分時間が過ぎてしまっていたらしい。
「戻らなきゃ、うわ」
焦って椅子から立ち上がる。
「またね!」
伝わったかどうか分からないが眞白に向かって言い残し、急いで店を出た。
20
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる