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第二話 コーヒーとラブストーリー
scene4 移動車内
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―大知―
車の窓越しに見える景色は、すっかり冬の気配をまとい始めていた。
どうしてそんな風に思ってんだろう、と考えてみる。藍色を濃くした空の色のせいだろうか。陽が落ちる時間が早くなった気もする。
がさ、と物音がして車内へ視線を戻した。通路を挟んで反対側の席で居眠りをしている悠貴を見る。
鞄にストラップで繋がっているパスケースがずり落ちそうになっていた。
「これ、こんなところに着けてたらまた落とすよ」
声を掛けながら、何気なくパスケースを取ってひっくり返す。眞白とのツーショットを見ていたら、悠貴の眠そうな声が降ってきた。
「…何、大知くん。そんなに眞白の事が気になるん?」
「は、え。いや」
慌てて手を離す。パスケースが揺れて悠貴の膝元に当たった。焦った事を誤魔化すように、窓の外へ視線を向ける。
ラジオ収録のスタジオが見えてきていた。『star.b』が毎週二人ずつパーソナリティを務める番組で、今日は悠貴と俺で二本撮りの日だ。
「……眞白、くんて」
「ん?」
悠貴が眠そうに目を擦る。
「その、耳全く聞こえないの?補聴器つけてたよね」
補聴器を着けているなら、少しでも聞こえているんじゃないかと思った。なのにあの日、眞白は一言も声を発さなかったのが気になっていた。
「あー、どうなんやろ……」
予想に反して、歯切れの悪い答えが返ってくる。
「たぶん、少しは聞こえとると思うよ」
「そうなの?」
「わからん。眞白、耳の事はほとんど自分から話さへんからなあ」
ふあ、と大きな欠伸と共に悠貴が伸びをする。車がスタジオの地下駐車場へ入って行く。
「大知くん、そんなに気になるなら眞白に直接聞いたらええやん」
「えっ」
「連絡先教えよか?」
言いながら本当にスマホをポケットから出そうとするので止めた。
「いや、いいよ」
「そう?」
「うん、ごめん。余計なこと聞いて……」
車が停止する。扉が開けられる音がしたので、急いで自分の鞄を手に持ち車から降りた。
振り向くと、後から降りてきた悠貴の鞄の先で揺れるパスケースの中の、眞白と目が合った。
車の窓越しに見える景色は、すっかり冬の気配をまとい始めていた。
どうしてそんな風に思ってんだろう、と考えてみる。藍色を濃くした空の色のせいだろうか。陽が落ちる時間が早くなった気もする。
がさ、と物音がして車内へ視線を戻した。通路を挟んで反対側の席で居眠りをしている悠貴を見る。
鞄にストラップで繋がっているパスケースがずり落ちそうになっていた。
「これ、こんなところに着けてたらまた落とすよ」
声を掛けながら、何気なくパスケースを取ってひっくり返す。眞白とのツーショットを見ていたら、悠貴の眠そうな声が降ってきた。
「…何、大知くん。そんなに眞白の事が気になるん?」
「は、え。いや」
慌てて手を離す。パスケースが揺れて悠貴の膝元に当たった。焦った事を誤魔化すように、窓の外へ視線を向ける。
ラジオ収録のスタジオが見えてきていた。『star.b』が毎週二人ずつパーソナリティを務める番組で、今日は悠貴と俺で二本撮りの日だ。
「……眞白、くんて」
「ん?」
悠貴が眠そうに目を擦る。
「その、耳全く聞こえないの?補聴器つけてたよね」
補聴器を着けているなら、少しでも聞こえているんじゃないかと思った。なのにあの日、眞白は一言も声を発さなかったのが気になっていた。
「あー、どうなんやろ……」
予想に反して、歯切れの悪い答えが返ってくる。
「たぶん、少しは聞こえとると思うよ」
「そうなの?」
「わからん。眞白、耳の事はほとんど自分から話さへんからなあ」
ふあ、と大きな欠伸と共に悠貴が伸びをする。車がスタジオの地下駐車場へ入って行く。
「大知くん、そんなに気になるなら眞白に直接聞いたらええやん」
「えっ」
「連絡先教えよか?」
言いながら本当にスマホをポケットから出そうとするので止めた。
「いや、いいよ」
「そう?」
「うん、ごめん。余計なこと聞いて……」
車が停止する。扉が開けられる音がしたので、急いで自分の鞄を手に持ち車から降りた。
振り向くと、後から降りてきた悠貴の鞄の先で揺れるパスケースの中の、眞白と目が合った。
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