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第一話 落とし物を届けに
scene1 パスケース
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―大知―
木枯らしが吹きつけた。
すっかり冬の気配をまとった空気に息を震わせながら、ひんやりと冷えたレッスン所の扉に手をかける。
履き潰しすぎて柔らかくなったスニーカーを脱いで靴箱に片付け、練習着の入ったリュックを背負い直す。廊下の突き当たりにある練習室からは、ビートの早い音楽が漏れ聞こえていた。
「お疲れー」
声をかけながら戸を開けると、鏡の前で振り付けの確認をしていた奏多と碧生が振り返った。
「お疲れっす、大知くん」
「早かったね」
「あっつー」
着ているTシャツをばたばたとさせながら、千隼がオーディオ機器のスイッチを止めた。音楽がやむ。
「うん、思ったより雑誌の撮影終わるの早かった」
リュックを荷物置きに使っている机に下ろしながら広い練習室を見回す。
「ハルと瞬は?」
「ハルは大学のテストがあるらしいで。さっき慌てて出て行ったわ」
汗を拭きながら奏多が答えてくれる。東京生活が長いからか普段は標準語だけど、たまに地元の関西訛りが出る。
ドアノブが回る軽い音がして練習室の戸が開いた。
「あ、大知くん来たんだ」
「瞬。お疲れ」
「お疲れ様ですー」
瞬が長い前髪をかきあげながら練習室に入ってくる。切れ長の二重の目元が印象的な美青年で、同性ながら見惚れてしまうような美貌の持ち主だ。
「……ん?」
瞬の視線がふと、荷物置きの机の下へ向いた。
「どした?」
聞くと、瞬は華奢な長身を屈めて机の下から何かを拾い上げた。
「何それ。パスケース?」
「ハルくんのだね」
瞬が見せてくれた面には、かしこまった表情をしたハル―悠貴が写った学生証が挟まっていた。
「そそっかしいな、あいつ」
スポーツドリンクの蓋を開けながら、碧生が呆れたように言う。
「後で渡してあげれば良いんじゃない。テスト終わったら戻ってくるでしょ」
「いや、まずいと思うよ」
瞬の言葉に俺も頷く。
「テスト受けに行ったんでしょ。学生証無いと困ると思う」
「そうなんだ?大学生のことは分かんないからな」
高校を卒業後、すぐに上京して歌手を目指したという碧生が首を傾げる。
「なら、届けてあげた方がいいんちゃうか」
奏多が言うと、グループ最年少の千隼が元気よく手を上げた。
「はい!俺行ってくるよ」
「千隼、大学の場所どこなのか知ってんの」
奏多に聞かれ、千隼は元気よく、分かんなーい、と言って笑った。
「俺、行ってくるよ」
瞬の手からパスケースを取る。
「同じ大学だったし、分かるから」
「あー、そっか。大知くんの母校やったっけ」
「母校って言い方が合ってるか分からないけど。中退だし……」
パスケースを上着のポケットに入れ、リュックから財布とスマホだけを取り出してズボンの後ろポケットに差す。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「うん、お願いします」
「いってらっしゃーい」
ぶんぶん手を振ってくる千隼に苦笑して手を振り返し、練習室を出た。
木枯らしが吹きつけた。
すっかり冬の気配をまとった空気に息を震わせながら、ひんやりと冷えたレッスン所の扉に手をかける。
履き潰しすぎて柔らかくなったスニーカーを脱いで靴箱に片付け、練習着の入ったリュックを背負い直す。廊下の突き当たりにある練習室からは、ビートの早い音楽が漏れ聞こえていた。
「お疲れー」
声をかけながら戸を開けると、鏡の前で振り付けの確認をしていた奏多と碧生が振り返った。
「お疲れっす、大知くん」
「早かったね」
「あっつー」
着ているTシャツをばたばたとさせながら、千隼がオーディオ機器のスイッチを止めた。音楽がやむ。
「うん、思ったより雑誌の撮影終わるの早かった」
リュックを荷物置きに使っている机に下ろしながら広い練習室を見回す。
「ハルと瞬は?」
「ハルは大学のテストがあるらしいで。さっき慌てて出て行ったわ」
汗を拭きながら奏多が答えてくれる。東京生活が長いからか普段は標準語だけど、たまに地元の関西訛りが出る。
ドアノブが回る軽い音がして練習室の戸が開いた。
「あ、大知くん来たんだ」
「瞬。お疲れ」
「お疲れ様ですー」
瞬が長い前髪をかきあげながら練習室に入ってくる。切れ長の二重の目元が印象的な美青年で、同性ながら見惚れてしまうような美貌の持ち主だ。
「……ん?」
瞬の視線がふと、荷物置きの机の下へ向いた。
「どした?」
聞くと、瞬は華奢な長身を屈めて机の下から何かを拾い上げた。
「何それ。パスケース?」
「ハルくんのだね」
瞬が見せてくれた面には、かしこまった表情をしたハル―悠貴が写った学生証が挟まっていた。
「そそっかしいな、あいつ」
スポーツドリンクの蓋を開けながら、碧生が呆れたように言う。
「後で渡してあげれば良いんじゃない。テスト終わったら戻ってくるでしょ」
「いや、まずいと思うよ」
瞬の言葉に俺も頷く。
「テスト受けに行ったんでしょ。学生証無いと困ると思う」
「そうなんだ?大学生のことは分かんないからな」
高校を卒業後、すぐに上京して歌手を目指したという碧生が首を傾げる。
「なら、届けてあげた方がいいんちゃうか」
奏多が言うと、グループ最年少の千隼が元気よく手を上げた。
「はい!俺行ってくるよ」
「千隼、大学の場所どこなのか知ってんの」
奏多に聞かれ、千隼は元気よく、分かんなーい、と言って笑った。
「俺、行ってくるよ」
瞬の手からパスケースを取る。
「同じ大学だったし、分かるから」
「あー、そっか。大知くんの母校やったっけ」
「母校って言い方が合ってるか分からないけど。中退だし……」
パスケースを上着のポケットに入れ、リュックから財布とスマホだけを取り出してズボンの後ろポケットに差す。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「うん、お願いします」
「いってらっしゃーい」
ぶんぶん手を振ってくる千隼に苦笑して手を振り返し、練習室を出た。
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