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3章 絶対にかかってはいけない魔法

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『月の扉を開くのに、___“恋”、なんて、“感情”は邪魔なだけだからね』


世界を放浪する炎の魔導士は語りだす。はるか昔の、いにしえの物語を__.......。





むかし、むかし、この世界に、『ルークス』も『エクリプス』の二つの国も存在せず、いくつもの小国に分裂していた頃.......。

緑豊かな森とどこまでも澄み渡った大きな美しい湖のほとりにそれはそれは豊かで栄えた国があったそうだよ。その国には20歳ほどの聡明な王子がいて、民からも愛され、慕われていた。争いもなく、まさしく絵にかいたような平和な国。誰しもその平和は永遠トワに続くだろうと、思っていた。



......__けれども、運命の歯車は残酷にも狂ってしまったんだ。



ある晩、その国の湖に今までに誰も見たことがないほど大きな月が映し出された。それはそれは大きな月で、大きな湖が覆いかぶさるほどだったそうだよ。

次第に木々が揺れ始め、不吉めいたその風に国民たちは不安を口にし始めた。胸騒ぎがした王子はそんな民たちを憂い、王子の身を案じた国王の制止を振り払ってまで、単身湖のほとりまで馬を走らせた。

湖のほとりをひとしきり走らせた王子の目の前に、唐突に、気を失っている一人の娘が現れた。そう、イチカちゃんと同じチキュウからやってきた娘だ。湖に映された大きな月が、扉だったんだろうね。突然現れた娘に驚いた王子が湖をみれば、先ほどまで覆うほどだった月が、役割を終えたかのように小さくなっていたそうだよ。

今ほど文明が発達していない時代。得体の知れない者は国に災いをもたらすかもしれない、だから即刻殺すなんていうのも当たり前の時代だ。

けれども、心優しい王子は娘を殺さず城に連れ帰った。あまつさえ、倒れていた娘を介抱し、弱り切った娘を癒すため王子が施した治癒魔法をかけてやったそうだよ。

だが、娘には治癒魔法が効かなかった。さっき説明した通り、チキュウ人は魔力がないからだ。ほかの国の情報なんて、得る手段もないに等しい時代。ほかの国にチキュウ人がやってきていても、魔法が効かないなんてことも知り得ようもない。城の者が薄気味悪く思うのも仕方がないよね。

王子は治癒魔法が効かない娘を放ってはおけなかったのだろう。甲斐甲斐しく、娘の元へ通い、王子の介抱の甲斐あって、娘は自由に動けるまでに回復した。

すっかり元気になった、娘は元の世界に帰る方法はないか、と王子に尋ねた。知る術もない王子は、娘を元のために帰る方法を模索した。娘は自らの故郷の話を王子によくしていたそうだよ。娘の帰りたい想いが伝わり、王子も懸命に手掛かりを探した。

娘も王子と同じように優しい心の持ち主で、穏やかな王子と気が合ったようでね。
いつしか、王子は娘と過ごす時間が心の拠り所になっていたんだ。

だから、娘を元の世界へ返すための方法を探す一方で、娘に元の世界へ戻ってほしくないという相反する想いを抱いていた。





......____手掛かりがつかめないまま、娘がこの世界に迷い込んでから、ひと月ほど経った頃。突然、あの晩と同じように湖を月が覆った。

元の世界へ戻る手掛かりを探していた娘と王子は二人で急いでその湖へ向かったんだ。

幻想的なその光景の前に、王子は思ったそうだよ、『月とともにやってきた彼女は、月とともに去ってしまうのではないか』、とね。
王子の予感は当たっていた。だって、月の扉が開いたら、娘は元の世界に戻れるからね。




.......______けれどもそうはならなかった。
いつしか娘も王子に恋心を抱き、王子を愛してしまった娘は、王子と一緒にいるために、と願っていたんだ。









それからしばらくして、娘と王子は永遠の愛を誓いあい、祝言をあげた。
微笑む愛しい娘の手を取り、王子はこれから始まる二人の幸せな未来を想像しただろう。



......_____けれども、そうはならなかった。何故かって?
人間は醜い。魔力が効かない得体の知れないよそ者の血が王家に入り込むことが許さなかった者たちがいたんだ。


その者たちは、王子がいない隙を狙って、娘を殺す計画を立てた。いなくなった娘は元の世界に戻ったのだとでもいえばいいからね。


だから、王子が公務で城を留守にしている間を狙って娘を刺し殺した。胸を貫かれた娘は声を発することもできず、力なく倒れた。計画は無事、遂行されるかに思われた。




......____だが、予想だにしていなかったことが起きた。予定より早く王子が早く城に戻ってしまったんだ。けれども、戻るのがわずかに遅かった。



血塗られた娘の姿をみて、王子が何を思ったのかは想像に難くないよね。
抱き起こした娘の身体はまだ温かくて、王子が彼女から流れ出る血を止めるために施した治癒魔法は意味をなさなくて。

...__次第に娘の体は冷たくなり、やがて娘は息絶えた。

自らの手を染めている愛しい娘の流した血は、王子の心を壊すには十分すぎた。王子は真っ赤に染まった娘をだきなら、その場にいた娘を殺した者たちを全て殺してしまったんだ。王子と娘の周囲の床に飛び散った鮮血が、まるで娘を弔う赤い薔薇のようだったと当時の記録に残っているほどで、それれほど凄惨な状況だったんだろうね。

あれだけ聡明で心優しかった王子はだだの暴君になり果て、豊かな森は果て、美しい街並みは崩壊し、人々は息絶えて、澄み渡った湖は血で染まり、この世でありながら、地獄を現したようなその国は、何も残らなかった。

全てを破壊しつくした王子は、娘のあとを追うようにその国から消えてしまったそうだよ。







ブレイブが語った物語_____.......

......._____それは悲劇としかいいようがない、悲しい恋の結末だった。
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