脱サラニートになるつもりが、白魔導士の婚約者になりました

九条りりあ

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3章 絶対にかかってはいけない魔法

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「.......__それは恋、だよ」



ブレイブの予想だにしない一言に一瞬思考停止。

「___恋、ですか?」

私はブレイブの言葉をただ一言オウム返しに返す。

(.......__コイって、あの、“恋”のことだよね?)

傍らに立っているライトも思いもよらなかったのかだろう、同じように呆けていた。

元の世界に戻るためにかかってはいけない魔法というのが、“恋”とは一体どういうことなのだろうか。

(恋の魔法なんてあるの??例えば、異性をメロメロにする的な??)
(でも、私には魔法は効かないっていっていたし、恋の魔法ではなく、その言葉通りの“恋”という感情のこと??)

ブレイブの方に視線を向ければ、先ほどの至極真面目そうな表情から打って変わって、今度はどこか面白そうに私とライトを見比べていた。ブレイブの意図も、その言葉の意味もわからず、言葉が続かない。

(かかってはいけない魔法が、“恋”というのは一体どういうことなのだろうか)

そんなことを思い、「あの__」と口を開けかけた瞬間、今度は私の目の前を白い何かが横切った。

(えっ!?何!?)

ついで、“うっ”と目の前から声を漏らした声が聞こえたかと思うと、何故だか目の前にいたはずのブレイブの姿が消えた。

「あれ!?ブレイブさん!?」

急いでブレイブの姿を探せば、座っていたソファーから落ちたのだろうか。「いたたたた___.......」とブレイブが上体を起こし

「___....これは、いいパンチだ、ルビー。これなら世界を狙えるぞ」

なんて言いながら、右手の親指を立て、左手で頬を摩っている。

(あぁ、なるほど...)

ブレイブの視線の先を辿ることで、なんとなく状況を把握した。

「イチカは真剣な話をしているんだもんね!!」

ルビーが先ほどまでブレイブの座っていたソファーの肘掛辺りに少し怒ったように座っていたからだ。右足を“ビシっ!”立て、目の前にいる人物に言い放つルビーをみて、原因を何となく理解する。どうやら、ライトの肩の上に乗っていたルビーがその高さを利用して、ブレイブ目掛けて、飛んだのだろう。

よくよくブレイブの姿を見ればほんのり頬にルビーの肉球が薄っすらとついている。その様子を少し呆れた様子でライトがみていた。

「あっ!!ライトもルビーも僕が、適当なことを言っているって思っているでしょ?」
「...__否定はしない」
「“たらし”の“てれんてくだ”というやつだもんね!」
「えぇ!?二人とも酷ーーい!!」

なんて言いながら、当のブレイブはルビーの肉球のついた頬をぷくーと膨らませた。対するライトとルビーはにべもない。

(もしかして、これブレイブさんの冗談!?からかわれたってこと?)

そんなことを心の中で思っていると

「でも、かかってはいけない魔法に関しては、本当の本当の大真面目に言っているんだけどなぁ~~」

とブレイブは心外そうに言い放った。

つまり、彼の言葉が噓偽りがないのならば、かかってはいけない魔法が、”恋”っていうのは、本当ということになる。にわかに信じられない思いで、彼を見つめていると、翡翠の瞳がこちらを向いた。急に視線が合って、何をいっていいのかわからなくなる。

「あの__.......かかってはいけない魔法が、“恋”っていうのは?」

そして、思いついたままの疑問をぶつけた。

「僕のいうこと、信じてくれるんだっ?」

ブレイブは、その翡翠の双眼を嬉しそうに細める。そんな姿も絵になるから美形というのは羨ましい。

「ほらー!二人ともイチカちゃんを見習ってよ!!」
「お前の日頃の行いだろう」
「ブレイブの日頃の行いだもんね!」

ライトとルビーに抗議するも取り付く島もない。

「もう!本当、息ぴったりなんだからなぁ~」

やれやれというように肩を竦めてから、座り込んだまま私を見上げ、“彼”はどこか私を試すように首を傾げながらこう言った。






「月の扉を開くのに、___“恋”、なんて、“感情”は邪魔なだけだからね」、と。翡翠色の瞳が妖しく光った。
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