脱サラニートになるつもりが、白魔導士の婚約者になりました

九条りりあ

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1章 出会ったのは白魔導士

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「魔法が効かない……?」

 目の前の人物の発言を私はオウム返しに繰り返す。

 けれど、腑に落ちることがあった。

(蛇人間も言っていた。「魔法を無力化したのか?」って)

 異形のあの生き物が放った悪魔の鞭イービルウィップ、あれが魔法というならば、私にそれは確かに効かなかった。

「じゃあ、ボクが魔法を使おうとして出来なかったのも?」
「あぁ、チキュウ人を対象とする魔法は無力化され、チキュウ人に触れられている場合、魔法は発動しないのだと聞いている」

 キョトンと首を傾げるルビーに彼は1つ頷いてみせた。

「ファンタジアには大きく分けて2つの国がある。1つは、俺たちがいるこの『ルークス』。そして、もう一つが魔王が率いる『エクリプス』」
「さっきの生き物が連れて行こうとしたところですか?」

 私を捕まえて『魔王様のところへ連れて行く』と確かそんなことを言っていたことを思い出して私は尋ねた。すると、『あぁ』と私の目を見て、少し悲しそうな表情を浮かべた。

「さっきのは、魔王が操るディアボルス。元は人間だった者たちさ」
「元は人間……だったんですか?」

 彼の言葉に私は驚きを隠せない。衝撃的な一言に私は言葉を失う。

「死んだ人間の魂に魔王の魔力が注がれると人ならざるものに生まれ変わる。姿形だけでなく、記憶まで失くしてしまう。自然の摂理から外れた魔王の操り人形、それがディアボルスの正体さ」
「そんな……」
「魔王はこの国の人たちを攫い、命を奪って、力を巨大にしてきた」

 彼はまるで不甲斐ない自分を責めるようにぐっと自らの拳を握る。何かに耐えるような表情を浮かべる彼に私はかける言葉を見つけられない。

  そして、ハッとしたように私を見てから困ったように笑う。

「……キミはまだこの世界のことを知らないのに、感情的になってしまったね。ごめんね」
「……いえ」

 私がそういうと彼は『話を戻すね』と前置きして、真剣な眼差しを向けた。

「魔王は力を巨大にし、このファンタジアの世界を自分の支配下に置くつもりだ」
「この世界を支配下に……」
「今のところの戦力は五分と五分だ。ディアボルスは数は多いが知能が低い。そして、魔力も高くはない。だから、一方的に攻め込まれはしていない。優秀な魔道士たちがこの国を守っているから」

 そう言って彼は『だからこそ……』と声を低めた。

「魔法を無力化できるキミという存在が魔王に知られたら、キミは狙われることになる」

そして、深刻な表情を浮かべて、ただ一言そう告げた。
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