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1章 出会ったのは白魔導士
03
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♢ ♢ ♢
「ハァ……ハァ……ハァ……」
私は肩で息をしながら濡れてしまった髪をギュッと束ねて水を搾り取った。腰まである髪はそれでもポタポタと水滴が垂れる。
(何が起きたの?)
自室から突然水の中へ落ちてしまった私は、どうにかこうにか体を動かして岸まで泳いだ。濡れてしまった服が体にまとわりついて気持ちが悪い。
「寒い――……」
おまけに夜風が当たり、体温が奪われていく。思わず両手で自らを抱いた。
(どうしてこんなことになったの?)
衣服から伝わる冷たさが、これはまぎれもなく現実なのだと伝えてくる。
「――……っ」
混乱してしまいかけていた頭を一つ横に振ってどうにか落ち着けさせる。
(とにかく、冷静にならないと――……!!)
ここまでの経緯を思い起こしてみる。
仕事を辞めて、あのクソみたいな世界と関わらないように脱サラし、あとは自室にで必要最低限の外出をし、ニートになるつもりで帰宅した。いつものように扉を開けたはずなのに、目の前に広がっていたのは信じられない世界だった。
月が部屋の中に映し出されていた……、否、部屋の中に水面に映った月が浮かび上がっていたのだ。
「それから、風が急に吹いて――……」
そうだ。風に押し出されるようにして、この湖に落ち込んだんだ。のそのそと立ち上がり、背後に広がっていた湖を見渡す。湖の周りには木々が生い茂り、人気はない。
「どうしよう……、戻れないの?」
それにここはどこだろう。足元には草が生い茂り、空には数えきれないほどの星が瞬いている。
――ガサっ
突然、音がした。
「!?」
私のすぐ背後で草が擦れて何かがいる気配がする。
(何――……!?)
一瞬で心の中が恐怖に引き戻された。体が震えてしまう。
(熊とかだったらどうしよう――……?)
口元を両手で覆って、声が出ないように息を殺した。
(気が付かないで――……)
身を小さくし固く目を閉じる。
(あれ?気のせい――……?)
それから1分ほどは経っただろう。けれど、いくら待ってもそれ以上何も起きないし、何かがこちらにやってきている音がしない。
(草が擦れただけだったのかも)
そう結論付けて、私は勇気を振り絞って恐る恐る振り返った。
「わっ!!」
そして、私は目に入ってきたものを見て勢いよく尻餅をついた。
何もいないと思っていた場所に、“何か”がいたからだ。けれど、私が想像していたものとは違ってはるかに小さい。
「なんだ――……」
それは、白い美しい猫だった。先ほどまで恐怖で動けなかった私なんて露知らず、何事もなかったかのように自らの毛を整えるように丁寧に舐めていた。
(小さいから子猫かな?)
大きさは私の両手を合わせたほどしかない。
「よかった――……」
そう小さく呟くと座り込んだ私に気が付いたのか、その小さな足でトコトコと私の元へ歩いてやってきた。
「びっくりしたんだからね――……」
座り込んでいる私の元までやってきたかと思うと、私の膝辺りで体を摺り寄せてくる。文句を言いたいのに、その姿を見たらもう何も言えない。ひょういっと抱き上げると思ったよりも重く、胸当たりで抱くとドキドキと一定の心音が刻まれているのが聞こえる。柔らかい毛並みを撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
強張っていた体の力がどっと抜けた。安堵のためのため息を一つついた時だった。
「オマエ……オイシソウダナ……」
背後から聞こえたその声を聞いたとき、しゃがれた老爺のような声だと思った。
――ふと視線を落とすと、いつの間にか足元に人影が一つ浮かび上がっていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
私は肩で息をしながら濡れてしまった髪をギュッと束ねて水を搾り取った。腰まである髪はそれでもポタポタと水滴が垂れる。
(何が起きたの?)
自室から突然水の中へ落ちてしまった私は、どうにかこうにか体を動かして岸まで泳いだ。濡れてしまった服が体にまとわりついて気持ちが悪い。
「寒い――……」
おまけに夜風が当たり、体温が奪われていく。思わず両手で自らを抱いた。
(どうしてこんなことになったの?)
衣服から伝わる冷たさが、これはまぎれもなく現実なのだと伝えてくる。
「――……っ」
混乱してしまいかけていた頭を一つ横に振ってどうにか落ち着けさせる。
(とにかく、冷静にならないと――……!!)
ここまでの経緯を思い起こしてみる。
仕事を辞めて、あのクソみたいな世界と関わらないように脱サラし、あとは自室にで必要最低限の外出をし、ニートになるつもりで帰宅した。いつものように扉を開けたはずなのに、目の前に広がっていたのは信じられない世界だった。
月が部屋の中に映し出されていた……、否、部屋の中に水面に映った月が浮かび上がっていたのだ。
「それから、風が急に吹いて――……」
そうだ。風に押し出されるようにして、この湖に落ち込んだんだ。のそのそと立ち上がり、背後に広がっていた湖を見渡す。湖の周りには木々が生い茂り、人気はない。
「どうしよう……、戻れないの?」
それにここはどこだろう。足元には草が生い茂り、空には数えきれないほどの星が瞬いている。
――ガサっ
突然、音がした。
「!?」
私のすぐ背後で草が擦れて何かがいる気配がする。
(何――……!?)
一瞬で心の中が恐怖に引き戻された。体が震えてしまう。
(熊とかだったらどうしよう――……?)
口元を両手で覆って、声が出ないように息を殺した。
(気が付かないで――……)
身を小さくし固く目を閉じる。
(あれ?気のせい――……?)
それから1分ほどは経っただろう。けれど、いくら待ってもそれ以上何も起きないし、何かがこちらにやってきている音がしない。
(草が擦れただけだったのかも)
そう結論付けて、私は勇気を振り絞って恐る恐る振り返った。
「わっ!!」
そして、私は目に入ってきたものを見て勢いよく尻餅をついた。
何もいないと思っていた場所に、“何か”がいたからだ。けれど、私が想像していたものとは違ってはるかに小さい。
「なんだ――……」
それは、白い美しい猫だった。先ほどまで恐怖で動けなかった私なんて露知らず、何事もなかったかのように自らの毛を整えるように丁寧に舐めていた。
(小さいから子猫かな?)
大きさは私の両手を合わせたほどしかない。
「よかった――……」
そう小さく呟くと座り込んだ私に気が付いたのか、その小さな足でトコトコと私の元へ歩いてやってきた。
「びっくりしたんだからね――……」
座り込んでいる私の元までやってきたかと思うと、私の膝辺りで体を摺り寄せてくる。文句を言いたいのに、その姿を見たらもう何も言えない。ひょういっと抱き上げると思ったよりも重く、胸当たりで抱くとドキドキと一定の心音が刻まれているのが聞こえる。柔らかい毛並みを撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
強張っていた体の力がどっと抜けた。安堵のためのため息を一つついた時だった。
「オマエ……オイシソウダナ……」
背後から聞こえたその声を聞いたとき、しゃがれた老爺のような声だと思った。
――ふと視線を落とすと、いつの間にか足元に人影が一つ浮かび上がっていた。
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