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1章 出会ったのは白魔導士
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♢ ♢ ♢
会社から電車に揺られること20分。そして、最寄り駅から5分ほど歩いた場所にある3階建てのアパートの一番奥にある角部屋。そこが、私が借りている部屋だ。
今宵は満月。電灯などなくても、外はほんのりと明るい。
「大きな月ね――……」
ふと夜空を見上げて私は小さく呟いた。真円を描いたソレはいつもよりも大きい気がする。何か天変地異でも起きるのではないだろうかなどと、柄にもない詩人めいたことを考えてみる。まぁ、これは言いすぎかと月を見やっていた私は、視線を扉に映した。
もとは綺麗な水色だった扉はいつの間にか灰色がかってしまった。まるで私みたいだなと自嘲してしまったのはいつの日だったか。
(けれど――……)
「やっとこの日が来た――……」
私は310号室と書かれたアパートの扉を見つめて小さく独り言ちた。
そう、今日は苦しみしか与えてこられなかった6年間を過ごした会社の退社日。
これからは毎朝起きるたびに何を言われるのだろうと怯えなくてもいいし、毎晩涙で枕を濡らす必要もない。
「ふっ――……」
鼻で笑って私は目を閉じた。
(さらばだ、現実よ)
そう心の中で思って私はゆっくりと目を開けた。
こんなクソみたいな世界からはおさらばだ。
カギを差し込めばガチャリと音がした。ドアノブに手をかけ、時計回りに力を入れて回す。そのまま手前にドアノブを引けば、目の前に映し出されるのは傘立てに一本だけさしてある紺色の傘、無造作に置いてあるスニーカー、味気ない我が家の玄関――……
「何よ、これ」
……――のはずだった。私は普通では考えられない光景に思わず目を疑った。何故なら
「どうして月が?部屋の中に――……?」
眼下に映し出されたのは先ほど見上げていた大きな月。真円を描いた満月だ。それが時折ゆらゆらと揺らめいていた。アパートの床が月をこんなにもはっきりと大きく映し出すことなどありえない。よくて玄関から入ってきた月明かりで玄関周りに置いてあるものが見えるくらいだ。
そして、なぜゆらゆらと不規則に揺れている?思わず覗き込んでソレが水面に映し出された月なのだとすぐに気がついた。
(なんで、家の中に水が?)
おまけに家の周りに木々などほとんどないはずなのに葉のざわめきが耳につく。
(ありえない……!)
急に恐ろしくなり、私は慌てて扉を閉めようとドアノブに力を入れた。
――その時だった。
「えっ?」
急に足元がふらついて前へ押し出された。突風が背後から吹き込んだんだとパニック状態に陥った中で、他人事のように分析した。おまけに慌てて引きかけていた扉に押される形で勢いがつく。
ふいに足元に感覚がなくなった。あとは重力の法則に従うだけ。
「しまっ――……」
ドボンという大きな音と共に冷たい感覚が体中を支配した。
会社から電車に揺られること20分。そして、最寄り駅から5分ほど歩いた場所にある3階建てのアパートの一番奥にある角部屋。そこが、私が借りている部屋だ。
今宵は満月。電灯などなくても、外はほんのりと明るい。
「大きな月ね――……」
ふと夜空を見上げて私は小さく呟いた。真円を描いたソレはいつもよりも大きい気がする。何か天変地異でも起きるのではないだろうかなどと、柄にもない詩人めいたことを考えてみる。まぁ、これは言いすぎかと月を見やっていた私は、視線を扉に映した。
もとは綺麗な水色だった扉はいつの間にか灰色がかってしまった。まるで私みたいだなと自嘲してしまったのはいつの日だったか。
(けれど――……)
「やっとこの日が来た――……」
私は310号室と書かれたアパートの扉を見つめて小さく独り言ちた。
そう、今日は苦しみしか与えてこられなかった6年間を過ごした会社の退社日。
これからは毎朝起きるたびに何を言われるのだろうと怯えなくてもいいし、毎晩涙で枕を濡らす必要もない。
「ふっ――……」
鼻で笑って私は目を閉じた。
(さらばだ、現実よ)
そう心の中で思って私はゆっくりと目を開けた。
こんなクソみたいな世界からはおさらばだ。
カギを差し込めばガチャリと音がした。ドアノブに手をかけ、時計回りに力を入れて回す。そのまま手前にドアノブを引けば、目の前に映し出されるのは傘立てに一本だけさしてある紺色の傘、無造作に置いてあるスニーカー、味気ない我が家の玄関――……
「何よ、これ」
……――のはずだった。私は普通では考えられない光景に思わず目を疑った。何故なら
「どうして月が?部屋の中に――……?」
眼下に映し出されたのは先ほど見上げていた大きな月。真円を描いた満月だ。それが時折ゆらゆらと揺らめいていた。アパートの床が月をこんなにもはっきりと大きく映し出すことなどありえない。よくて玄関から入ってきた月明かりで玄関周りに置いてあるものが見えるくらいだ。
そして、なぜゆらゆらと不規則に揺れている?思わず覗き込んでソレが水面に映し出された月なのだとすぐに気がついた。
(なんで、家の中に水が?)
おまけに家の周りに木々などほとんどないはずなのに葉のざわめきが耳につく。
(ありえない……!)
急に恐ろしくなり、私は慌てて扉を閉めようとドアノブに力を入れた。
――その時だった。
「えっ?」
急に足元がふらついて前へ押し出された。突風が背後から吹き込んだんだとパニック状態に陥った中で、他人事のように分析した。おまけに慌てて引きかけていた扉に押される形で勢いがつく。
ふいに足元に感覚がなくなった。あとは重力の法則に従うだけ。
「しまっ――……」
ドボンという大きな音と共に冷たい感覚が体中を支配した。
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