脱サラニートになるつもりが、白魔導士の婚約者になりました

九条りりあ

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1章 出会ったのは白魔導士

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♢ ♢ ♢




――さて、『世の中』というものを一単語で表せと問われたら貴方ならどう答えるだろうか。
私ならただ一言、『クソ』だと即答する。

 おっと、いきなり毒づいてしまい申し訳ない。私としたことが。大変失礼した。

 私の名前は『野々原 一花(ノノハラ イチカ)』。

 野に咲く一輪の花のように清く正しく生きなさいと両親から名付けられ、この世に生を受けて早29年。あと一年ほど経てば、めでたく三十路の仲間入りを果たすことになるごくごく普通のどこにでもいるような女。それが私だ。

 地元の高校、大学へと進み、社会という荒波にもまれて、いつの間にか六年の月日が流れていた。

 上司からの罵詈雑言。会社を牛耳るヒステリお局様から濡れ衣を着せられ押し付けられたミスは数知れず。同僚なんてとばっちりを受けたくないから見てみぬふりだ。

――苦しんだこの六年間、私を助けてくれるような人は一人もいなかった。

 耐えに耐えた、耐え忍んだ六年間。威嚇するようにたてられた音にビクつき、人の機嫌を伺い過ごした日々は、本当に本当に地獄のようだった。

 体調を崩したとしても『それはキミの体調管理が悪いだけ』と責められ悪化していく身体を休日までの我慢だと奮い立たせ、休日の日までカウントしながら無理やり出社するなんて当たり前。

ひたすら心を殺し、身体に鞭を振るって、気が付けば私ははりついたような薄っぺらい笑顔しか浮かべることができなくなっていた。




♢ ♢ ♢




【年上を敬う】

 日本の和の心として象徴される言葉の一つだ。あぁ、それはそれは殊勝な心がけで、とても立派だとは思う。

 けれど、だからと言って年長者が年下に自分の鬱憤を晴らすために怒鳴りつけていいなどと都合よく解釈するのは全くもってお門違いだ。

 この国は縦社会と言われる。全くもってその構造には心底反吐がでる。世間はやれ『平等』だなどとのたまうけれど、世の中は常に理不尽で弱者は強者に蹂躙されるのがこの世の定めだ。

 毎日のように心をすり減らしながら『私は一体何のために生きているのだろう』そう思った。生きがいなんて笑えるくらいなくて、気が付けば私の心の中は『空っぽ』になっていた。

 そんな毎日に嫌気がさして、私が上司に退職届なるものを叩きつけたのは二週間ほど前のこと。

 鳩が豆鉄砲を食ったような上司の顔は本当に傑作だった。

 貴方も覚えていたらいい。本気で仕事を辞めたいのならば退職願ではなく、退職届を書くことだ。退職届は退職願と違い、会社に退職の可否を問わずに会社を退職することができる。退職届を出して辞めるななどという会社があるならば、それは出すとこ出しても構わないサインだ。

 さて、話が少しそれてしまったので戻すとしよう。

退職届を上司に叩きつけた私は二週間後に辞めることになった退社日までギスギスと嫌味を言われる覚悟で退職届を退出した。けれども、どうしたことか、私への嫌がらせは今までが嘘だったかのようにぴたりと止んだ。

毎日のように私を罵倒し、一声で私を恐怖で支配していたその口で上司は甘言を吐き、ヒステリお局様は上長や異性へこびへつらうときの猫なで声で私に話しかけてきた。

大方、私が辞めた後の世間体を気にしてか、上長から何か言われたのかもしれない。あるいは両方か。

まぁ、辞める私としてはどちらでもいいのだけれども。

この世の中の人々は自分を守るためならば、当たり前のように平気で偽りの仮面を被る。

世の中は嘘や欺瞞であふれ、まったくもってこの世は『クソ』だということに尽きる。

それ以外の形容の仕方があれば教えてほしいくらいだ。

 そんなクソみたいな世界でもう一度働くなんて芸当、私はまっぴらごめんだ。だから、仕事を辞めて、私はこんなクソみたいな世界遮断してしまうことにした。

――私は『脱サラニート』になる道を選んだ
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