三次元はお断りっ！！

出会いは偶然？それとも必然？

09

*　*　*











   毎週土曜日朝14時。待ち合わせ場所は小さな公園。





『“アオちゃん”、本当に来てくれたんだ！』
『そんなに、急ぐと転んじゃうよ！？』

　初めての待ち合わせでは私を認めるなり、溢れるような笑みを浮かべて嬉しそうに駆け寄ってきたっけ？



『蓮くんの蓮って、蓮華の蓮、なんだね！私の蓮見も、蓮華の蓮って書くんだよ』
『アオちゃんと一緒！？』
『うん、そうだよー！』
『えへへ、なんだか、嬉しいな』

『シュウショクカツドウ？』
『そう、就職活動。要するに働く会社探しかな？』
『“アオちゃん”、どこで働くの？』
『なるべく、この辺にするつもりだよ。実家も近いし、住み慣れた街だしね。蓮くんは将来、何になりたい？』
『お父さんみたいな弁護士さん！』
『蓮くんは、お父さんのこと好きなんだね』
『うん！大好き！』

　色々なことを話した。自分のこと。学校の話。大好きだったお母さんの話。尊敬しているお父さんの話。




『もしもし、蓮です』
『もしもし、葵です。蓮くん、どうしたの？』
『……それが、明日お父さんがお仕事休みなんだ』
『なんで、蓮くん暗いの？お父さんがお休みならよかったじゃん！お父さんにたくさん甘えておいで！』
『だって……』

　そう電話越しに言いよどんだかと思えば今度は蓮くんが困ったように“アオちゃんに会えないから”と口にする。正直、この言葉が嬉しかったのは秘密だ。『お父さんと何したか、来週教えて』というと、『うん』と弾んだ声が聞こえて蓮くんが目の前にいないことをいいことに、ついつい顔が緩んでしまった。





『“アオちゃん”、見てみて。僕、最上級生になったんだ』
『おめでとう、蓮くん』

　学年が上がって、新しくなった名札を見せてきたこともあったっけ？そんな蓮くんの頭を撫でると、蓮くんはどこか誇らしげに唇を釣り上げていた。





『学校の家庭科の授業のときに作ったんだけど……』
『わざわざ持ってきてくれたの！？』
『“アオちゃん”、この前、本屋さんで働くことが決まったっていってたでしょ？そのお祝い』
『そっか、ありがとう』

　手作りのクッキーを持ってきてくれたこともあった。





『これ、僕にくれるの！？ありがとう、“アオちゃん”！！』
『ふふふ……、そんなに喜んでもらえるなんて。作ってきた甲斐があったよ』

　お返しに持っていったチョコレートを目の前に嬉しそうに目を輝かせていたっけ？




『もう、こんな時間か……』
『今日もあっという間だったね。暗くなる前に帰ろうっか』

　 辺りが茜色に染まる。

『……また、来週も会ってくれる？“アオちゃん”』

　蓮くんは必ず次回の約束を口にする。私が『もちろん』と笑うと、蓮くんはいつも嬉しそうに笑っていた。




『“アオちゃん”が来てくれるから、土曜日が楽しみなんだ』
『私も蓮くんとお話できるの楽しみなんだよ』

　毎週土曜日、いつの間にか私にとってもかげがえのない時間となっていた。



  こんな日常がずっと続くとこの時の私は思っていたんだ。


   けれど、永遠なんてものはないんだ。






*　*　*







　季節は巡り、私を姉のように慕ってくれる蓮くんを、年の離れた弟に見守ながら過ごして半年ほど経った真夏の暑い日。






ーーそれは、突然訪れた。