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出会いは偶然?それとも必然?
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* * *
『蓮くんのおかげで少し元気になったよ』
辺りを見れば人気がなく、暗闇に包まれていた。蓮くんの屈託のない笑みに救われた私は、座っていたブランコを降りて、蓮くんの乗っているブランコの前に立つ。
『家まで送るよ。お母さんとお父さんも心配しているだろうし。もし、遅くなって漣くんが怒られるってことになるなら、私のせいだから私が謝るから』
しゃがみ込んで蓮くんと視線を同じくする。すると、蓮くんは少しだけ困った表情を浮かべて、口を開いた。
『お母さんはお空の上にいて、お父さんはお仕事でいつも忙しいんだ』
『え……?』
1年ほど前に母が亡くなってしまい、父子家庭になったらしい。父親は弁護士らしく、あまり家に帰らない日も少なくはないそうだ。平日は友人達と遊べるが、家に帰ると父親が仕事のため一人でいることが多いのだという。
『だから、家に誰もいなくて、いつも一人なんだ。でもね、休みの日はね、僕とたくさん遊んでくれるんだ』
寂しいはずなのに、それをぐっと我慢している彼の様子に心を打たれた。自分の悲しみを隠して、私を元気付けてくれた。否、自分が辛いからこそ、人の痛みに気づく優しさを持っているんだ。
(私に何かできることはないだろうか)
蓮くんの健気な姿にそんな気持ちがふつふつと湧いてくる。
『そうだ!蓮くん!』
あることを閃いた。私は眉をハの字にさせていた蓮くんの目の前で手を叩いた。
(私に出来ること!)
『毎週土曜日、この公園で私とお話しよう!』
『え?』
今度は蓮くんはその大きな瞳を目をパチパチと瞬かせた。
『平日と日曜日は学校とかバイトが入ってるし、蓮くんも学校があるでしょ?土曜日はバイトも一日お休みだから。蓮くんのお父さんが仕事の土曜日、この公園で』
『……お姉さんが、僕と一緒にいてくれるの?』
『蓮くんが嫌じゃなかったらね』
私がそう言って片目をつぶると蓮くんはパァと顔を輝かせた。
(クスッ……、わかりやすい)
素直な蓮くんに思わず口元を緩めてしまう。
『お姉さん、ありがとう!』
嬉しそうに顔を綻ばせている蓮くんに
『“葵”』
私は口元に添えた人差し指を天に向けてそう言った。
『私の名前は蓮見葵。蓮くんの名前聞いたのに、私の名前名乗ってなかったから』
すると蓮くんは“アオイ”と私の名前を口の中で転がす。そして、少し考えるそぶりを見せた。
『じゃあ、お姉さんのこと“アオちゃん”って呼んでいい?』
そう言って蓮くんはブランコから立ち上がった。ブランコに座った蓮くんと同じ視線にしていたせいで、今度は私が見上げる形になる。しゃがみこんでいる私はそのまま立ち上がった蓮くんを見上げながら、うん、と1つ頷いた。連くんは、『えへへ』とはにかむ。嬉しそうだ。
『お父さんが土曜日お休みの時はここに連絡して。あとは、蓮くんが土曜日に用事がある時とか。それ以外は来るから』
カバンの中からメモ帳を取り出して私はババっと携帯電話の番号を書き記した。そして、蓮くんに渡すと蓮くんは大切な宝物のように丁寧に折りたたんでコートのポケットの中に入れる。蓮くんは人懐っこい笑みを浮かべて口を開いた。
『約束だよ。“アオちゃん”』
『うん、約束!』
小さな小指を出してくる蓮くんの小指に自らの小指を絡ませて指切りげんまんをした。
ーーこれが、9年前出会った“あの”蓮くんとの出会った遠い日の話
『蓮くんのおかげで少し元気になったよ』
辺りを見れば人気がなく、暗闇に包まれていた。蓮くんの屈託のない笑みに救われた私は、座っていたブランコを降りて、蓮くんの乗っているブランコの前に立つ。
『家まで送るよ。お母さんとお父さんも心配しているだろうし。もし、遅くなって漣くんが怒られるってことになるなら、私のせいだから私が謝るから』
しゃがみ込んで蓮くんと視線を同じくする。すると、蓮くんは少しだけ困った表情を浮かべて、口を開いた。
『お母さんはお空の上にいて、お父さんはお仕事でいつも忙しいんだ』
『え……?』
1年ほど前に母が亡くなってしまい、父子家庭になったらしい。父親は弁護士らしく、あまり家に帰らない日も少なくはないそうだ。平日は友人達と遊べるが、家に帰ると父親が仕事のため一人でいることが多いのだという。
『だから、家に誰もいなくて、いつも一人なんだ。でもね、休みの日はね、僕とたくさん遊んでくれるんだ』
寂しいはずなのに、それをぐっと我慢している彼の様子に心を打たれた。自分の悲しみを隠して、私を元気付けてくれた。否、自分が辛いからこそ、人の痛みに気づく優しさを持っているんだ。
(私に何かできることはないだろうか)
蓮くんの健気な姿にそんな気持ちがふつふつと湧いてくる。
『そうだ!蓮くん!』
あることを閃いた。私は眉をハの字にさせていた蓮くんの目の前で手を叩いた。
(私に出来ること!)
『毎週土曜日、この公園で私とお話しよう!』
『え?』
今度は蓮くんはその大きな瞳を目をパチパチと瞬かせた。
『平日と日曜日は学校とかバイトが入ってるし、蓮くんも学校があるでしょ?土曜日はバイトも一日お休みだから。蓮くんのお父さんが仕事の土曜日、この公園で』
『……お姉さんが、僕と一緒にいてくれるの?』
『蓮くんが嫌じゃなかったらね』
私がそう言って片目をつぶると蓮くんはパァと顔を輝かせた。
(クスッ……、わかりやすい)
素直な蓮くんに思わず口元を緩めてしまう。
『お姉さん、ありがとう!』
嬉しそうに顔を綻ばせている蓮くんに
『“葵”』
私は口元に添えた人差し指を天に向けてそう言った。
『私の名前は蓮見葵。蓮くんの名前聞いたのに、私の名前名乗ってなかったから』
すると蓮くんは“アオイ”と私の名前を口の中で転がす。そして、少し考えるそぶりを見せた。
『じゃあ、お姉さんのこと“アオちゃん”って呼んでいい?』
そう言って蓮くんはブランコから立ち上がった。ブランコに座った蓮くんと同じ視線にしていたせいで、今度は私が見上げる形になる。しゃがみこんでいる私はそのまま立ち上がった蓮くんを見上げながら、うん、と1つ頷いた。連くんは、『えへへ』とはにかむ。嬉しそうだ。
『お父さんが土曜日お休みの時はここに連絡して。あとは、蓮くんが土曜日に用事がある時とか。それ以外は来るから』
カバンの中からメモ帳を取り出して私はババっと携帯電話の番号を書き記した。そして、蓮くんに渡すと蓮くんは大切な宝物のように丁寧に折りたたんでコートのポケットの中に入れる。蓮くんは人懐っこい笑みを浮かべて口を開いた。
『約束だよ。“アオちゃん”』
『うん、約束!』
小さな小指を出してくる蓮くんの小指に自らの小指を絡ませて指切りげんまんをした。
ーーこれが、9年前出会った“あの”蓮くんとの出会った遠い日の話
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