三次元はお断りっ!!

九条りりあ

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出会いは偶然?それとも必然?

06

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* * *







  込められていた力が緩められ、彼は僅かに身を引いた。すぐそばにあった顔が今は見上げればならない位置にあり、私を見下ろしていた。それと同時に甘酸っぱい柑橘の香りが遠ざかり、彼の顔がはっきりと見えた。

(……やっぱり!)

 そして、 彼の驚いた表情を見て確信する。きっと図星だったのだろう。私の予想は正しかったのだ。

  やはり、彼は帰国子女だったのだ。きっとここ最近日本に帰ってきたのだろう。欧米の人たちは親愛の証として、相手に抱きつく、つまりはハグをする文化がある。日本ではその文化がないのをきっと帰国したばかりでこの人は知らないのだ。帰国子女だと看破され、驚いているのだ。

 ふふふ、これは有名な某小学生探偵張りの名推理ではなかろうか。

(と、それはさておき……)

 帰国子女なら抱きついてしまうのも仕方がない。ここは日本人として一つちゃんと教えておくべきだ。

「日本では初対面の人に抱きつく文化はないんですよ」

(あれ?何、その顔……)

 だというのに件の彼はどこかショックを受けたような顔をする。

(あぁ、そっか)

 けれどすぐ何故彼がショックを受けたのか、わかった。きっと、カルチャーショックを受けているのだ。うんうん、違う文化に戸惑っているんだろう。

「日本では抱きつくのはすごく仲のいい人とか親しい人だけなんですよ」

 ここは一つ文化の違いをきちんと指摘しておいた方がいい。そう思って日本の文化について言及すると……。

(今度は拗ねた……?)

 何故だ。拗ねる要素などないはずなのに。わずかに頬をふくらませて目を伏せた。おまけに肩を落とす。その様子が何となく叱られた子犬のようで、罪悪感が湧いてくる。 

「ほ、ほら、貴方みたいなカッコイイ男の人から抱きつかれたら女の子は勘違いしてしまうかもしれないし。あ、だからと言って私は都合のいい勘違いなんてしてませんよ」

 慌ててそういうと彼は何故か一瞬目を大きく見開いた。けれど、次の瞬間には『ははっ、カッコイイか』と嬉しそうに笑いだした。それがまるで花が咲いたように綺麗に笑うもんだから思わず見惚れてしまう。頬に赤みが差し、照れているように見えるのは気のせいだろうか。

「“男の人”か……。ずいぶん、進歩した」

 対して、彼は口元に笑みを浮かべたまま、感慨深げに私を見降ろした。

(進歩……?)

 彼の言葉の意図がわからずただただ彼を見上げていると

「俺たちは初対面じゃないよ」

と私の唇に自らの右手の人差し指を当てる。その所作があまりにも自然で私はされるがままで。

(初対面、じゃない?)

 触れられている人差し指を目で追うと“彼”は口元を緩めていた。

「“あの頃”はずっと俺を年の離れた“弟”扱いしてたっけ?」
「“あの頃”……?貴方は一体……?」

 昔を懐かしむような声色で紡がれる彼の言葉に私が問うと、私の唇から人差し指を外して、彼はどこか悪戯っぽく笑って今度は私の唇に当てていた人差し指をそのまま自らの唇に押し当てた。そして、まるで秘め事のように自らの名を口にした。

れんだよ、 天海蓮あまみれん

(蓮……)

  どこかで聞いた響きだと思った。何かが引っ掛かり記憶を辿っていると、甘酸っぱい柑橘系の匂いがまた鼻孔を刺激した。

「もしかして、俺のこと、忘れちゃった?」
「っ!?」

  いつの間にか先ほどまで見上げていた顔が触れんばかりの位置にあって、私は息を飲んだ。

「それに“アオちゃん”だけは都合のいい勘違いをしてもいいんだよ?」

 どこか甘い響きを含んだその言葉に不覚にもドキリとしてしまう。それと同時に“アオちゃん”という響きにも懐かしさがこみ上げてくる。

  そんな私の心中など知らないのだろう。彼はしゃがんで私の顔を覗き込むように上目遣いでじぃと見上げてきた。眩しそうに見上げる彼の澄み切った瞳に私が映り込む。それがかつて同じように大きな瞳で私を見上げていたある人物と重なった。



* * *




『僕は“アオちゃん”の笑顔が好きなんだ。だから、僕がいなくても、“また”泣いちゃ、駄目だからね』




* * *




「もしかして、“あの”蓮くん!?」

  9年前、先輩の浮気現場を見た夜の公園で出会った小さな小さな男の子と。
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