三次元はお断りっ!!

九条りりあ

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出会いは偶然?それとも必然?

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「会いたかった……、“アオちゃん”」

  彼の言葉に私は為されるまま抱かれて身を固くするしかない。混乱して何もしない私をいいことに、彼はギュッと抱く力を込める。密着しているところが熱く、上手く声が出ない。甘酸っぱい香りがさらに濃くなった。

  一体全体どうしてこうなった!?

  いつも通り出勤して、いつも通り業務をしていただけのこと。そしていつも通り何事もなく終わる……はずだった。なのに何故……。

  イケメンにきっちりホールドされているのだろう。耳のそばで吐かれる吐息に私はこころ穏やかではない。

   自分はもしかして夢を見ているのだろうか?否、夢なはずはない。ドキドキと心臓はうるさいし、触れている箇所が熱くて仕方がない。それらがこれはまぎれもない現実だと教えてくれる。

  とてもじゃないけど冷静にはいられない。自分の身体なのに自分の身体じゃないみたいだ。どう呼吸していいかわからない。顔が熱い。まともに顔が見れない。

  29歳蓮見葵、どうなっちゃうの!?






✳︎  ✳︎ ✳︎








「…………」

  などという乙女モード炸裂なことには私はならない。そこまでおめでたい頭はしていない。私は至って冷静だ。だから、冷静に物事を把握する。そして、対応する。

(さて、どうしてこうなったのだろう?)

  まずは、状況を整理しよう。

  1つだけハッキリしているのはこれは夢でも私の妄想でもないこと。夢と妄想ならジーク様に思う存分抱きしめてもらいたいから。あの切れ長の二重で見つめられ、逞しい腕で抱かれたい。なんなら、ジーク様割れた腹筋でも触らせてもら……げふん、げふん。話が脱線しそうなので、この辺で留めておく。

  とどのつまり、今私がキラ爽イケメンに抱きしめられているのはまぎれもない現実である。あと付け加えておくと力強く抱かれているのは脚色でもなんでもない。現に力強く抱かれすぎて少々息苦しいだ。そして、柑橘系の香りが濃いくらいの距離にいて、さっきから吐息が髪に当たってくすぐったいのも事実である。

(本当、イケメンだなぁ)

  間近で見ると顔が整っているのがよくわかる。

(でも、何故かどこかで見たような気もするんだよね?)

  でも、一体、どこで?これだけの美形だ。一度見れば忘れない気もするのだけれども。

  黒い髪は少し長めではあるが清潔感があり、首に触れる毛先は柔らかい。鼻筋は通っているし、まつげは長くて、ぱっちり二重だし。その二重瞼は何故か何かを噛みしめるように今は閉ざされているが。けれど、それもまた絵になるわけで……。さぞ、おモテにおなりだろう。10人いれば10人は振り向くほど容姿が整っている。まるで、モデルみたいな……!

(はっ!もしかして……!!)

  私は左右に素早く目を動かした。“あるもの”を探すために。

(これは、今流行りのドッキリ、というやつではないだろうか?)

  よくテレビとかでやってる。けれど、どうやらカメラのようなものが設置されている様子もない。

(どういうこと?)

   今の若者が意味もなく冴えないアラサー書店員に抱きつくだろうか。

(はっ!もしかして……!!)

  今度は彼の背後を注視する。何故なら、罰ゲームでこんなことをさせられているのかと思ったから。

(あれ?誰もいない……)

  けれど、そこには誰もいなかった。隠れている気配もない。

(これでもないと……)

  じゃあ、何なのだ。イケメンから抱きしめられる理由がな……。そこまで考えて私はあることに思い至った。

(はっ!もしかして……!!この人は!!)

   理由はこれしかない。確信めいたものがあった。私は閃いたことを開いた。

「もしかして、帰国子女の方ですか?」

  抱かれている力が緩むのがわかった。
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