三次元はお断りっ!!

九条りりあ

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出会いは偶然?それとも必然?

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* * *









  開店は11時。ぽつりぽつりとお客さんが店の中に入ってくる。今日は平日の金曜日の昼間ということもあり、店内は比較的空いている。

  レジには茜さん。そして私と光くんは手分けして店内で本の在庫を確認しながら陳列していた。ちなみに店長はというと絶賛気絶中だ。休憩室のソファーで伸びている。うなされているようだったので、悪夢でも見ているのだろうか。寝言で『女が……怖い』などと言っていた。南無。ご愁傷様である。彼の女嫌いはますます加速することだろう。





「あれ?桜祭りのポスター?」

  担当分のエリアが終わったので、光くんの加勢をしようと店の入り口付近にある雑誌エリアに来ると光くんが店の入り口の扉にポスターを貼っているところだった。私に気が付いたのか光くんはというとひょいと扉から顔を覗かせる。

「さっき回覧板が回ってきたんで自分が貼っているんでござる」
「そうなんだ。ありがとう!」

 桜まつり。その名の通り、桜が見頃になる四月下旬にこの近くで行われるお祭りのこと。出店や花火なんかもあがるそれなりに大きな祭りだ。河川敷に沿って咲く夜桜は特に見物である。

「もう、そんな時期か~」

 ポスターの日付を見ると来週の土曜日開催になっている。去年の桜祭りがつい先日あったような気さえするのだけれども。一年があっという間に感じてしまうのはどうしてだろうか。

(うん、これ以上考えるのは辞めよ。……年は取りたくないものだ)

 物思いにふけっていると光くんはポスターを貼り終えたらしい。私は何げなく彼に問いかけた。

「光くんはこの桜まつり行くの?」
「花見をしながら、『平プリ同盟』の面々とオフ会をするでござるよ」

 『平プリ同盟』とは光くんが所属する『平安時代のお嬢様プリンセス』の同人サークルのこと。ちなみに『平プリ』とは『平安時代のお嬢様プリンセス』の略のことである。ちなみに光くんはそこで小説を書いているとのこと。イラストも得意で自分の小説の表紙まで作ってしまうほど。

「同志たちと『平プリ』について語明かすでござる」
「そうなんだ、楽しそうだね!」
「オールナイトするでござるよ」

 光くんはとてもイキイキしている。楽しみで待ちきれないという様子だ。

「葵氏はいかれないでござるか?」

 眼鏡をくいっとあげる仕草をして光君は首を傾げる。

(来週の土曜日は確か……)

 シフトは入っていなくて休みの日だった。けれど、その日は麗子姉は彼氏と旅行に行くと言っていたし、友人達は結婚しているので誘いずらいし……。とどのつまり……。

「たぶん、行かない……かな?」

 人も多いし、一人で行ってもという気もするし。

「だから光くん私の分まで楽しんで来て!」

 来週の土曜日の予定が決まった。祭りに一人で行くよりも、家に引きこもってジーク様を堪能する方が私にとっては有意義な過ごし方だ。





* * *









 ふと店の時計を見ると14時20分を指していた。

「そろそろ、休憩時間ね」

 仕事に集中すると時間が経つのが早い。残り10分ほどで休憩時間である。気絶から目覚めた店長と入れ替わるように、まず茜さんが休憩を取った。そして茜さんがレジに戻り、今度は光くんが休憩を取っている。光君の休憩時間が終われば、次は私の番だ。全員が一気に休憩を取るわけにはいかないので人の少ないこの時間に一人ずつお昼休憩を取っている。

 この店では休憩時間の一時間はきっちりと休むように先代の店長から達しがあるので、休憩時間はご飯を食べれば残った時間は好きに過ごしていい。とどのつまり、『ジーク様タイム』。今頃、光くんも『美琴姫』に癒されているだろう。

 ちなみに店長は気絶した経緯を覚えておらず『何で寝ていたんだ?』と首をひねっていたっけ。光くんは本当に知らなかった。私は何も言わなかった。茜さんもふふふと微笑むだけだった。つまりは真相は永遠に謎のままである。その店長の休憩時間はというと『女からの逃避時間』に当てられており、その時間休憩室から一歩も出ない。今は、女性客に話しかけられないように喋りかけるなオーラを放ちながらパソコンで在庫の入力をしている。お客にしゃべりかけるなオーラ出す店長とは?と思ったけれども、流石女性。そんなオーラ、物ともせずきゃいきゃいと店長に話しかけていた。顔がいいって大変なんだな、とそんなことを考えながら店内の端っこで本にビニールをかけている作業をしていると

「あの、すみません」
「はひっ!!!」

突然声をかけられて心臓がドキリとする。おまけに背筋がピンと張った。しまった、少しぼんやりしてた。

 っていうか、年甲斐もなく何が『はひっ!!!』だよ。『はひっ!!!』って。と心の中で突っ込みながら声のした方を向くと

(うわぁ、眩しい……)

そこには店長にも負けて劣らぬイケメンが立っていた。一言で表すなら『キラキラ爽やかボーイ』、この言葉がぴったりだ。店長とは違ったタイプのイケメンだ。その『キラ爽ボーイ』(長いので略した)は端正な顔をしていて、モデルといってもいい風な容姿をしている。身長は高くて、鼻筋は通っている。『気難しそうで近寄りがたいイケメン』のタイプの店長に対して、今どきの言葉で表すならば『リア充』というカテゴリーに間違いなく分類される系のイケメンだ。

 年は店長よりもはるかに下で、年の頃は20も言っていないかもしれない。ジーパンにTシャツの上からジャケットを羽織っている。甘いマスクでどれほどの女を虜にしたのだろう。今時の若者という感じだ。まぁ、それは私には関係ないことなのだけれども。

(それよりも、若けーな、おい)

 髪も艶々しているし、何食べたらそんなに肌が綺麗になるの?こちとら、そろそろ白髪が出てくるんじゃないかってびびっているくらいだからな。肌も一夜美容液つけ忘れたら次の日が乾燥してしまうくらいには衰えて……。

 けれど、何故だろう。どこかで彼を見たことがあるような気がした。つい、まじまじと見てしまう。対して、相手もどうしてだか息を飲んだように目を見開いた。彼の澄んだ瞳と目が合う。

(え?何か、変?)

「あの……、どうされました?」

 恐る恐る尋ねた次の瞬間、『へ?』という間の抜けた声を出してしまう。何故なら体が大きく傾いたから。“何か”に引っ張られ覆いかぶされたのである。視界が遮られて、おまけに香ってくる匂いも無機質な本の香りから甘酸っぱい柑橘系の香りが鼻につく。

(ななななな、何が起こった!?)

 頬に当たる壁?もなんだか生暖かい。

(転んだわけじゃ……ないんだよね?痛くないし……)

 状況が理解できずに思わず固まっていると左耳のすぐ傍で『ふっ……』というような吐息が聞こえる。

「会いたかった……、“アオちゃん”」

  件の“キラ爽ボーイ”の腕の中にいると理解するまで数秒を要した。

ーーでも、何故だろう。抱きつかれる瞬間、懐かしさを感じたのは。
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