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出会いは偶然?それとも必然?
01
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――『恋』とは何か。
とある辞書には「異性に愛情を寄せること。その心」などと記載がある。つまり、女性なら男性に、男性なら女性に愛の情を抱くということである。
けれども果たしてそれは正しい意味を成しているのか。否、そんなことはあるまい。女性が女性を、男性が男性を愛する同性愛者の人たちもいる。
人の数だけ恋の数があり、その恋の形も千差万別である。
したがって、『恋』というものを定義付けるならば『自分以外の他者に愛情を寄せること。その心』という表記が正しいと言えよう。
さて、ここまで長々と『恋』について語ってきたけれど、とどのつまり何が言いたいのかと申しますと、前述の定義からいうなれば、『私はどうやら恋をしているらしい』ということを言いたいだけなのだ。
* * *
『笑った顔も怒った顔もお前の全てが愛おしい。お前の傍で一緒に過ごすための権利をこの俺にくれないか?』
「……ーーっ!!」
耳に入ってくる甘い囁きに私の心中は穏やかではない。胸の中心が熱くて、ドキドキと音を立てている。おかげで上手く言葉もでない。
『……ーー俺と結婚してほしい』
「……ーーっ!?」
それはずっとずっと待ち望んでいた結末。
『お前とじゃなきゃ、嫌なんだ!』
「……ーーっ!!!!!!」
“彼”の言葉に目頭が熱くなった。普段は自信家で意地悪な言葉をかけてくるザ・俺様系なのに、その顔はずるい。真剣なまなざしは思わず見惚れてしまう。胸に甘い痺れが広がっていく。
「そんなの、私もに決まっている!!」
“彼”のプロポーズの言葉に私は即答する。嬉しさのあまり両手で顔を覆った。
(やっと……やっと……、ここまで来た……!!)
噛みしめるように目をつぶり覆っていた両手を顔の前から退けると
「……ーーあぁ」
大好きな人が私に向けて右手を差し伸べている。二重瞼の切れ長の瞳に優しい色を湛えて。柔らかそうな亜麻栗色を風で揺らしながら微笑んでいる。
(幸せすぎる!!)
私はもちろんその手のひらの上に自分の手のひらを乗せて“愛しい人”を見た。すると彼はそのまま手を引いて私を自らの胸へ誘った。
『……ーーありがとう』
かすれるように囁かれた言葉は今にも消え入りそうなのに甘い響きを含んでいる。心地よいその音に酔いしれ
「素敵ーー……!!“ジーク様”!!!」
うっとりしながら愛しい人の名を口にした。
ーー途端、“曲調”が変わり、“画面”にキャストの名前が流れ始めた。
「良作過ぎる……!!ほんと、公式、神か!!!」
私は手にしているスマートフォンの画面を見つめた。美しい音色を背景に“ジーク様”との思い出の美麗スチルが“画面”に映し出されている。
「ジーク様、イケメンすぎる……!!」
不敵に笑うジーク様。少し寂し気な表情を浮かべるジーク様。どこか恥じらったようにはにかむジーク様。瞳に様々な表情を浮かべたジーク様が映り込む。
「尊い、つらい……」
“愛しい人”を目の前に『はぁ』とため息がでる。
ーー紹介しよう。“彼”の名前は“ジーク・バートン”。亜麻栗色に藤色の瞳。端正な顔つきで服の上からでもわかるほどに筋肉が付いている。
脱ぐとすごいんだ、これが!!6つに割れた腹筋がだな……、っといかんいかん。話が脱線してしまう。一つだけ名誉のために言っておくと覗きとかやましいことは断じてしていないからね!ジーク様が湯あみしているのに気がつかなくて、間違って浴室に入り込んでしまった時に目にしただけだから!
とにもかくにも“彼”こそがこの世で私が最も“愛している人”!恋してやまない“騎士様”だ。
『騎士様は偽りの婚約者』という異世界を舞台にした恋愛ゲーム、いわゆる乙女ゲームの攻略キャラの1人である。唯我独尊系俺様ジーク様と親同士の勝手な都合で婚約させられてしまうヒロイン。最初は反発するジーク様とヒロインだったが、次第に惹かれあっていく割と王道の恋愛ゲーム。
今の状況を正確に表すとするとスマートフォンのアプリゲーム内の推しにプロポーズをされ、エンドロールを見ている。つまり、私が今体験したのは乙女ゲーム内のハッピーエンドというやつだ。
あ!今、笑った奴、表に出ろ!!
私のジーク様への本気の愛は本物だ。例えばジーク様の誕生日の4月9日は給料のほとんどを費やして集めたジーク様のグッズを部屋中に飾って盛大な生誕祭を催したし(もちろんケーキも焼いた)、リリース1周年を迎えた12月24日に発売された『騎士様は偽りの婚約者』のゲーム内で“彼”とヒロインがはめている婚約指輪はもちろん買った。こちとら人生捧げているんだ!
『自分以外の他者に愛情を寄せること。その心』というのが恋の定義ならば画面の奥のジーク様に全力で愛情を注いでいる私はジーク様に恋をしていると言っても過言ではない。
趣味は乙女ゲーム。休日は大抵これで一日が過ぎ去っていく。まぁ、いわゆるオタク女子というカテゴリーに分類されるギリ20代の独身女。それが私こと蓮見葵。ゲーム内世界ではとある下級貴族の令嬢の設定ではあるが、現実世界では日本の首都東京で一介の書店員をやっているアラサー女である。1DKの部屋に一人暮らしだ。日がな一日ゲームをしていても咎めるものもいない。
「二次元至高すぎる……!!」
ギリ20代の独身女蓮見葵、絶賛オタライフ満喫中。
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