上 下
57 / 57
王子様は誰のもの!?

05

しおりを挟む
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢






「王子はんが想っていたエレナはんへの“お・も・い♡♡」

「私への、おもい?」

(それは、どういうことなの?)

思いもよらないシモンの言葉に思考がうまく働かない。思わずシモンの言葉をオウム返しに繰り返す。そんな私を見下ろしながらシモンは面白がるように私を見やると

「王子はんとエレナはんが出会ったことで、二人の“恋”が始まったんやろー?」

ハートのポーズを描いた両手を左右に振って、ニヤニヤと笑う。

「出会ってからずーと、王子はんはエレナはんのことだけ、想ってきたんやろー?」

おまけに片目を瞑ってウインクまでする始末だ。

シモンの真意がわからない。一体、シモンは何を考えているのだろうか。この問いの意味は一体何なのか。

(何がいいたいの?)

シモンの言葉に惑わされてはだめだ。私の反応を揶揄っているだけなのだ。

一旦、落ち着いて頭の中で話を整理しなければ。シモンは、レイ君の私への想いに対して魔法をかけたと言っていた。しかも、それを忘れてもらったと。そして、今は出会った日のことを話し出したわけで。

(......___もしかして!!)

散らばっていたパズルのピースが当てはまり、私はとある結論に辿り着く。

(そんな....まさか___.......!!)

そこまで思い至って、私は思わずレイ君に視線を落とした。

(......___レイ君は、私のことを)

私は気を失っているレイ君をぎゅっと抱きしめながら、シモンを怒りを込めて見返した。対するシモンは、ご名答と言わんばかりに愉快そうに笑う。

「.......___だから、王子はんの中のエレナはんとの記憶をなくしたら、どうなるんやろーって思ったんですわ」

そういって私とレイ君を見比べるシモン。

(そんな、ことのために___.......)

ギリッと唇を噛みしめる私に対して、シモンはどこ吹く風だ。まったく気にも止めていない。

「“積み重ねた想い”なんてあやふやなもん、なくなった方が、すっきりすると思わへん?」

そして、シモンは楽しくて楽しくて仕方がないように満足げに口元を歪ませた。




「つまり、今のレイ殿下は、“エレナはんの王子様”じゃなくなったってこと♡♡」


....____そう、シモンが言い切った瞬間だった。







「.....っ!」


肩にのしかかっていた重さがわずかになくなり、私の肩に回されていた腕がわずかに動いたのは。たまらず私はシモンからレイ君に視線を移して呼びかけた。

「レイ君、レイ君!!」

何度も何度もレイ君の名を呼び、身体を揺らした。そのたびに亜麻栗色の髪が私の頬を撫でる。

(お願い、目を覚まして!)

心の中で何度もそう祈りながらレイ君の名前を呼べば、意識が戻ったのか、はっとしたように息を飲んだような声ががした。

(....____よかった)

そう、私が思った瞬間だった。

「.......___っ」

はじき飛ばされたかのように私から勢いよく身を引くレイ君。状況が把握できないのだろう、何度も瞬きを繰り返していた。

「よかった目が覚めた」

レイ君の意識が戻り、安堵のために胸を撫でおろした。この時の私はレイ君が目覚めたのが嬉しくて、シモンの言葉を失念してしまったんだと思う。


だから、レイ君が次の瞬間発した言葉に、私は思わず息を呑んだ。


「......___私は一体、何をしていたんでしょうか?」

その瞬間、私とレイ君との間に冷たい風が吹き抜けた。亜麻栗色の髪が風で揺らされ、疑心のこもったようなエメラルドグリーンの瞳の中に映し出されたのは、紛れもなく私なわけで____......。

「......____貴女は、誰ですか?」
「.......___っ」

レイ君の中に確かにいたはずの“私”がいとも簡単に消えていた。




脳裏に思い出されるのは、シモンの言葉。

『その“想い”が壊れてしまえば、どないおもろいことが起こるんやろうね』




呆然としながら先ほどまでシモンがいた場所を見れば、最初から誰もいなかったかのように草木が風で揺れていた。
しおりを挟む
感想 33

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(33件)

ななし
2018.09.20 ななし
ネタバレ含む
九条りりあ
2018.09.25 九条りりあ

雪様
その通りです。王子は余裕でいなければならないですよね。
けれど、18の少年ですから精神面でまだ少し幼いところもあるのだと思います。
どうなっていくかは、本日の更新で明らかにされていると思います。
コメントありがとうございます!

解除
LPS48なおたん
ネタバレ含む
九条りりあ
2018.09.13 九条りりあ

コメントありがとうございます。
まさにその通りだと思います。
自らが犯してしまった罪をしっかり償って、
新しい人生を歩んでもらいたいものです。

解除
ななし
2018.09.13 ななし
ネタバレ含む
九条りりあ
2018.09.13 九条りりあ

コメントありがとうございます。大丈夫です。エレナの人タラシは健在ですので、殿下はウカウカしてられません。
それに次編では今編脇役だったあの男が、、、((
これ以上は機密事項ですが。せっかくコメントくださったので笑

解除

あなたにおすすめの小説

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫の心がわからない

キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。 夫の心がわからない。 初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。 本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。 というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。 ※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。 下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。 いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。 (許してチョンマゲ←) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。