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王子様は誰のもの!?
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♢ ♢ ♢
「今日は本当にいい天気ねぇ」
澄み渡るほどの晴天。青々とした木々は、いつの間にか赤や黄色へと色を変えていた。ぐぐーと伸びをすると、清々しい秋の風がそよそよと体に当たって気持ちいい。
「あ、お姉様、足元、痛み止めの薬草があるから踏まないでね」
「え?この大きな葉っぱ?」
そうだ、といってルーカスはしゃがみ込んで私の足元に生えている葉っぱをちぎって自らが持っている籠に投げ入れた。
ここは私の屋敷の近くにある湖。その周辺に広がる森にはさまざまな薬草が豊富に育っている。今日は、そこへ弟のルーカスとともに私は薬草を採りに来ていた。弟のルーカスは両親の病院の跡を継ぐため、薬学の勉強として時折こうして湖に薬草を採りに来ている。今日も湖に薬草を採りに行くというルーカスについてきたのである。
「今日は、会わなくてよかったの?」
ルーカスと何げなく聞いてきた。“誰”とは言わなかったけど、誰のことを言っているのかはわかった。
「えっ?」
私はついルーカスの言葉に視線を逸らしてしまう。ついでに声までうわずってしまった。
「えっ?って、何!?もしかして、約束あったけど、僕と出かけるからって断ったとか言わないでよ」
「どうして、わかったの!?ルーカス、エスパー!?」
「エスパー!?じゃないよ――……。あぁ、お姉様、何をしてるんだ」
私の言葉に何故かルーカスは頭を抱えた。けど、こっちにだって言い分はある。
「だって、レイ君といるとこっちの心臓がいくつあっても足りないんだもん!」
ベル・フォーサイスの一件があり、晴れて本当の意味で婚約者という立場になった私は、レイ君の言動、挙動一つ一つに振り回されているのだ。
ベル・フォーサイスの件があったため、まだ私とレイ君が婚約したというのを知っているのはごくごく一部だ。下手に知らせて、また同じようなことが起きるとも限らない。だから、まだ公にすべきでないと両親に言われたというレイ君は肩を落としながらそれを知らせてくれたっけ。それがあまりにもしゅんとした様子で迷った子犬のように思えて、つい可愛いと思ってしまったのだが――……。
「レイ君ってば、すぐ後ろから抱きしめてくるし――……」
その代わりなるべく会いに来ますと誓った彼は、今のところ三日と開けずに会いに来てくれる。そして、彼は、とにかく私のことを甘やかす。甘やかしに甘やかす。出かける時は左手でエスコートしてくれるし、足をくじいてしまったときなど重いからいいよという私をよそに軽々とお姫様抱っこをしてくれた。お姫様抱っことか、前世でJKが異性にしてほしいランキング上位に位置するよ。
「それに、こっちがドキドキするような言葉を耳元で囁いてくるし――……」
そして私にかけてくれる言葉は、どれも優しい。かと思えば、たまにいたずらっぽい笑顔を浮かべて、私の耳元で『愛しています』と囁く。真っ赤になる私を優しい目で見つめるもんだから、もう何も言えなくなるわけで――……。
「あのギャップはずるいよ――……」
ほら、レイ君のことを考えただけでこんなにも顔が熱くなるのだ。今、会ってしまったら、絶対顔に出てしまう!
「あぁ、ギャップね――……」
火照る頬を両手で包み込んでいる私に、ルーカスが何故かどこか遠くを見る眼差しでそう言ったそのときだった――……。
「!?」
突然風が突然舞い上がった。結い上げた髪が崩れてしまわないように髪を押さえる。葉と葉がこすれる音が一段と大きくなった。けれど、突風は一瞬のことで
「……――びっくりしたわね」
すぐに風が鳴り止み、私がポツリと漏らしたときだった。ピヨピヨとどこかでひな鳥の鳴き声が聞こえた。寂しげに聞こえる鳴き声は鳴り止む気配がない。
「ひな鳥が親鳥を呼んでいるのかな」
「本当だ。急に風が出てきたから、ひな鳥は心細くなったのかも」
私の言葉にルーカスは考え込むように言って、手にした籠を置いて、その中から大きい葉を何枚か取り出した。
「どうしたの?ルーカス?」
ルーカスの行動を疑問に思い尋ねると
「あんなに鳴き声を出していたら天敵に見つけてっていっているようなもんだよ。お姉様はここで少し待っていて。巣に風よけをつけてこようと思う。これだけピヨピヨと言っていたら、たぶんすぐ見つかるからさ。」
そう言ってルーカスはひな鳥の鳴き声がした方に向かって駆け足で走っていた。その後ろ姿が小さくなって見えなくなったときだった――……。
「弟さん、やっさしぃーなー」
ゲラゲラと見知らぬ誰かの笑い声が聞こえたのは。
「あー、おかしい。全く――……、甘くて初々しくて、もろい関係やわー」
思わず身構えて声のした方を見ると私がいる場所から10mほど離れた木の横に少年が一人立っていた。
♢ ♢ ♢
白銀の長い髪を後ろに一つに結び、紫陽花色の双眼で私を見つめる彼は、ルーカスよりも年下のように思えた。レイ君と同じ年くらいだろうか。容姿は整っているけれど、その佇まいは何故だか異様だった。
(一体、いつからいたのだろう――?)
全然気が付かなかった。気配を感じなかった。見知らぬ少年の登場で、思わず目を瞬かせると
「……――あんさんと弟はんが初々しい恋の話をしていた頃からですわー。きゃー、ドキドキラブストーリー!アツアツカップル♪」
そう言いながら彼は愉快げに笑いながら、こちらへ歩んでくる。
「え!?どうして!?」
彼の言葉に聞かれていた恥ずかしさで一瞬で顔が火照った。そして、何故考えていたことがわかったのだろうと見ると
「そら、あんさんの顔に書いてるからやわー」
と彼は何事もないように私に向けてそう言った。
(私って、そんなにわかりやすい――?)
「うんうん、わかりやすすぎー!」
私の心の中を見透かしたかのように彼はその紫陽花の瞳を私に向けた。
「あんさん大好きな人おるんやろー?大切な人おるんやろー?」
「え――……?それは――……」
「顔真っ赤にして誰を思い浮かべはったんですの?あんさんみたいな綺麗なお姉さんに思ってもらう男が羨ましいわ―!」
咄嗟にレイ君の顔を思い浮かべ、再び頬の熱が上がっているのを感じていると『……――けど』と彼はどこか試すように言った。
「僕から言わさせてもらうと、あんさん、今優しい優しい弟はんが助けに行っているひな鳥みたいなもんやと思いますけど。ピヨピヨー。ピヨピヨー。」
「え?それはどういう――……」
突然の彼の言葉に私はただただ困惑する。
「ひな鳥は初めて見たものを親鳥と認識するんとちゃいますの?」
「……――そうだけど」
生まれたばかりのひな鳥は身近に動くものを親と認識する。それを刷り込みというのは知っている。けれど、一体、何を言いたいのだろう。この少年は。なんていうか、話の筋が見えない。そう思っていると
「あんさん、あれでしょ?今回の恋が初恋と違いますー?ファーストラブ!ピュアピュア♪」
「なっ――……!な、な、な、な、なんで知ってるの!?」
彼は衝撃の一言を放った。私は思わず声がうわずってしまう。
「はははは。あんさん、動揺しすぎやわー。カマかけただけなのに、もうバレバレやわー。本当、わかりやすすぎやねー」
「えっ!?カマかけてたの!?」
「うん、そやでー。まぁ、でも、あんさんの事情、こっちも知っとったから推理してみただけやわー。当たってたわー。ボク、名探偵になれるなー?」
クツクツと彼は笑う。
「あんさん、あれやろ?この年になるまで結婚できんかったんは、婚約者が邪魔しとったからやろー?酷い男やと思いませんでしたの?」
彼の言葉に私は二の句が継げなくなった。
「そんでベルさんが起こした事件で、あんなドラマチックな助けられ方されたら惚れないわけないわなー」
(なんで、この人がそのこと知っているの?)
ベル・フォーサイスの件は、極秘扱いになっていると聞いている。目の前の少年が恐ろしくなり、私は自らの腕をぎゅっと抱きしめる。
そんな私に彼は『だから、ボク思ったんですわ』と前置きして
「あんさんのその気持ちは、生まれたばかりのひな鳥と一緒やないかって。ある種の擦り込みでそう思い込んでいるだけやと思いますけど?」
彼はニヤッと笑ってこう続けた。
「あんさんも生まれたてのひな鳥のように"王子はん"のこと、ただの擦り込みで恋だと認識しているだけと違います?」と。
ーーーーーーーーーーーーー
こんにちは。
九条りりあです。
本日、ファンタジー大賞最終日ということで大量更新させていただきました!
計1万5000字くらいかな?
皆さんに楽しんでもらえるようにラスト気合い入れて書いています!
さてさて、番外編挟んで新章に突入していますね。
どうなっていくのか―ー……。
というところで、次回の更新です。
本日、ファンタジー大賞の投票もラストです!
まだ入れていない方はぜひ、この作品に入れておいてください!!
投票した人も賞金が抽選で1万円入るみたいですね!
1万円あればアプリゲームのガチャが20連は回せますね!
是非是非、投票してチャンスを掴んでください!
それでは次回の更新でお会いしましょう!(@^^)/~~~
「今日は本当にいい天気ねぇ」
澄み渡るほどの晴天。青々とした木々は、いつの間にか赤や黄色へと色を変えていた。ぐぐーと伸びをすると、清々しい秋の風がそよそよと体に当たって気持ちいい。
「あ、お姉様、足元、痛み止めの薬草があるから踏まないでね」
「え?この大きな葉っぱ?」
そうだ、といってルーカスはしゃがみ込んで私の足元に生えている葉っぱをちぎって自らが持っている籠に投げ入れた。
ここは私の屋敷の近くにある湖。その周辺に広がる森にはさまざまな薬草が豊富に育っている。今日は、そこへ弟のルーカスとともに私は薬草を採りに来ていた。弟のルーカスは両親の病院の跡を継ぐため、薬学の勉強として時折こうして湖に薬草を採りに来ている。今日も湖に薬草を採りに行くというルーカスについてきたのである。
「今日は、会わなくてよかったの?」
ルーカスと何げなく聞いてきた。“誰”とは言わなかったけど、誰のことを言っているのかはわかった。
「えっ?」
私はついルーカスの言葉に視線を逸らしてしまう。ついでに声までうわずってしまった。
「えっ?って、何!?もしかして、約束あったけど、僕と出かけるからって断ったとか言わないでよ」
「どうして、わかったの!?ルーカス、エスパー!?」
「エスパー!?じゃないよ――……。あぁ、お姉様、何をしてるんだ」
私の言葉に何故かルーカスは頭を抱えた。けど、こっちにだって言い分はある。
「だって、レイ君といるとこっちの心臓がいくつあっても足りないんだもん!」
ベル・フォーサイスの一件があり、晴れて本当の意味で婚約者という立場になった私は、レイ君の言動、挙動一つ一つに振り回されているのだ。
ベル・フォーサイスの件があったため、まだ私とレイ君が婚約したというのを知っているのはごくごく一部だ。下手に知らせて、また同じようなことが起きるとも限らない。だから、まだ公にすべきでないと両親に言われたというレイ君は肩を落としながらそれを知らせてくれたっけ。それがあまりにもしゅんとした様子で迷った子犬のように思えて、つい可愛いと思ってしまったのだが――……。
「レイ君ってば、すぐ後ろから抱きしめてくるし――……」
その代わりなるべく会いに来ますと誓った彼は、今のところ三日と開けずに会いに来てくれる。そして、彼は、とにかく私のことを甘やかす。甘やかしに甘やかす。出かける時は左手でエスコートしてくれるし、足をくじいてしまったときなど重いからいいよという私をよそに軽々とお姫様抱っこをしてくれた。お姫様抱っことか、前世でJKが異性にしてほしいランキング上位に位置するよ。
「それに、こっちがドキドキするような言葉を耳元で囁いてくるし――……」
そして私にかけてくれる言葉は、どれも優しい。かと思えば、たまにいたずらっぽい笑顔を浮かべて、私の耳元で『愛しています』と囁く。真っ赤になる私を優しい目で見つめるもんだから、もう何も言えなくなるわけで――……。
「あのギャップはずるいよ――……」
ほら、レイ君のことを考えただけでこんなにも顔が熱くなるのだ。今、会ってしまったら、絶対顔に出てしまう!
「あぁ、ギャップね――……」
火照る頬を両手で包み込んでいる私に、ルーカスが何故かどこか遠くを見る眼差しでそう言ったそのときだった――……。
「!?」
突然風が突然舞い上がった。結い上げた髪が崩れてしまわないように髪を押さえる。葉と葉がこすれる音が一段と大きくなった。けれど、突風は一瞬のことで
「……――びっくりしたわね」
すぐに風が鳴り止み、私がポツリと漏らしたときだった。ピヨピヨとどこかでひな鳥の鳴き声が聞こえた。寂しげに聞こえる鳴き声は鳴り止む気配がない。
「ひな鳥が親鳥を呼んでいるのかな」
「本当だ。急に風が出てきたから、ひな鳥は心細くなったのかも」
私の言葉にルーカスは考え込むように言って、手にした籠を置いて、その中から大きい葉を何枚か取り出した。
「どうしたの?ルーカス?」
ルーカスの行動を疑問に思い尋ねると
「あんなに鳴き声を出していたら天敵に見つけてっていっているようなもんだよ。お姉様はここで少し待っていて。巣に風よけをつけてこようと思う。これだけピヨピヨと言っていたら、たぶんすぐ見つかるからさ。」
そう言ってルーカスはひな鳥の鳴き声がした方に向かって駆け足で走っていた。その後ろ姿が小さくなって見えなくなったときだった――……。
「弟さん、やっさしぃーなー」
ゲラゲラと見知らぬ誰かの笑い声が聞こえたのは。
「あー、おかしい。全く――……、甘くて初々しくて、もろい関係やわー」
思わず身構えて声のした方を見ると私がいる場所から10mほど離れた木の横に少年が一人立っていた。
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(一体、いつからいたのだろう――?)
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そう言いながら彼は愉快げに笑いながら、こちらへ歩んでくる。
「え!?どうして!?」
彼の言葉に聞かれていた恥ずかしさで一瞬で顔が火照った。そして、何故考えていたことがわかったのだろうと見ると
「そら、あんさんの顔に書いてるからやわー」
と彼は何事もないように私に向けてそう言った。
(私って、そんなにわかりやすい――?)
「うんうん、わかりやすすぎー!」
私の心の中を見透かしたかのように彼はその紫陽花の瞳を私に向けた。
「あんさん大好きな人おるんやろー?大切な人おるんやろー?」
「え――……?それは――……」
「顔真っ赤にして誰を思い浮かべはったんですの?あんさんみたいな綺麗なお姉さんに思ってもらう男が羨ましいわ―!」
咄嗟にレイ君の顔を思い浮かべ、再び頬の熱が上がっているのを感じていると『……――けど』と彼はどこか試すように言った。
「僕から言わさせてもらうと、あんさん、今優しい優しい弟はんが助けに行っているひな鳥みたいなもんやと思いますけど。ピヨピヨー。ピヨピヨー。」
「え?それはどういう――……」
突然の彼の言葉に私はただただ困惑する。
「ひな鳥は初めて見たものを親鳥と認識するんとちゃいますの?」
「……――そうだけど」
生まれたばかりのひな鳥は身近に動くものを親と認識する。それを刷り込みというのは知っている。けれど、一体、何を言いたいのだろう。この少年は。なんていうか、話の筋が見えない。そう思っていると
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「なっ――……!な、な、な、な、なんで知ってるの!?」
彼は衝撃の一言を放った。私は思わず声がうわずってしまう。
「はははは。あんさん、動揺しすぎやわー。カマかけただけなのに、もうバレバレやわー。本当、わかりやすすぎやねー」
「えっ!?カマかけてたの!?」
「うん、そやでー。まぁ、でも、あんさんの事情、こっちも知っとったから推理してみただけやわー。当たってたわー。ボク、名探偵になれるなー?」
クツクツと彼は笑う。
「あんさん、あれやろ?この年になるまで結婚できんかったんは、婚約者が邪魔しとったからやろー?酷い男やと思いませんでしたの?」
彼の言葉に私は二の句が継げなくなった。
「そんでベルさんが起こした事件で、あんなドラマチックな助けられ方されたら惚れないわけないわなー」
(なんで、この人がそのこと知っているの?)
ベル・フォーサイスの件は、極秘扱いになっていると聞いている。目の前の少年が恐ろしくなり、私は自らの腕をぎゅっと抱きしめる。
そんな私に彼は『だから、ボク思ったんですわ』と前置きして
「あんさんのその気持ちは、生まれたばかりのひな鳥と一緒やないかって。ある種の擦り込みでそう思い込んでいるだけやと思いますけど?」
彼はニヤッと笑ってこう続けた。
「あんさんも生まれたてのひな鳥のように"王子はん"のこと、ただの擦り込みで恋だと認識しているだけと違います?」と。
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こんにちは。
九条りりあです。
本日、ファンタジー大賞最終日ということで大量更新させていただきました!
計1万5000字くらいかな?
皆さんに楽しんでもらえるようにラスト気合い入れて書いています!
さてさて、番外編挟んで新章に突入していますね。
どうなっていくのか―ー……。
というところで、次回の更新です。
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