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ライバル令嬢登場!?

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 茜色の世界の中を進んでいく一つの影。だんだんと小さくなっていくその後ろ姿を僕の傍らで佇む彼女はただただ静かに見送っていた。

風で揺れている黄金色の髪の隙間から時折覗く彼女の横顔は真っすぐに前を見据えていた。その空色の瞳は夕日に照らされて、ゆらゆらと揺らめいている。

「――レイ君、ありがとう」

 そして、影を追っていたその瞳をこちらに向けたころには、彼女が追っていた影はすっかり見えなくなっていた。彼女のその顔は、どこか憂いを帯びていて、それが先ほどの情景と重なった。


♢ ♢ ♢



『――だからね、レイ君』

 振り向きざま彼女はそう言った。その瞬間、彼女の黄金色の髪が夕日に照らされ、透き通るように輝いた。

――彼女……、いやエレナの傍にはしゃくりあげるように嗚咽をあげながら、目を真っ赤に腫らしている王立学校からの旧友、ベル・フォーサイスの姿があった。

 彼女との出会いは8年ほど前の王立学校でのこと。他の令嬢から前髪をつかめれ、はさみをつけつけられている場面に遭遇したことがあった。その時に、自らを母のようになりたいと語った彼女は、その日から変わろうとしていった。その自ら変わっていこうとする姿勢に、ありたいていの言葉で言えば好感すらもっていた。そうして、『ガルシアの妖精』と呼ばれるほどになった彼女は、しかし、今は見る影もなく、髪は砂まみれ、頬は強張り、ブラウンの瞳の周りは真っ赤に充血させていた。

 元婚約者候補だった彼女は、“僕”とエレナの婚約をよしとは思わなかった。エレナの目の前で自らを婚約者と名乗ったり、エレナを誘拐した挙句監禁だけでは飽き足らず、エレナのいる塔に爆弾をしかけ爆発させ、エレナを危険に合わせたりしたのである。

 城の建造物の破壊、さらには王族である僕の婚約者の殺害未遂まで起こしたのだ。

(当然、国外追放……極刑を適応させるのがしかるべき対応だ)

――けれども

『彼女が私にやったことについては心の底から悔やんでいる。だから、もし私のことで罪が重くなるのならば、そこを考慮してほしい』

(――貴女はそういうのですね)

『やり方は確かに間違っていた。けれども、誰かを愛するって気持ちは、止められない気持ちだと思うの』

 エレナがそういった瞬間、強い風が吹いた。黄金色の長い髪が宙を舞った。

『――そうですね』

 僕は小さくそう呟いて風で煽られた髪を撫でつけるエレナの隣に立った。

『ベル・フォーサイス』

 僕がその名を呼ぶと目の前で同じように座り込んでいる彼女はぴくりと体をさせた。『はい』と震える声で言いながら彼女は僕を見上げた。

『貴女の罪は極刑に値します』
『……はい』

 僕の言葉にベル・フォーサイスは俯いて体を震わせている。隣に立つエレナは心配そうな表情を浮かべていた。けれども、何も言わずただ静かに僕と彼女を交互に見比べた。

『王族である私の婚約者を危険に合わせた罪は大きい』
『……はい』

 覚悟していたように僕を見上げる彼女は震えながらも確かに首を縦に振った。そんな彼女に『ですから……』と続けて

『貴女には塔の再建の労役を課します』

僕は静かにベル・フォーサイスに告げた。

『塔の再建……?』

 対してベル・フォーサイスは信じられないものでも見るように僕を見上げた。本来は極刑を課してもおかしくない、よくても国外追放。それほどの罪。だからこそ、彼女は僕の言葉に耳を疑ったのだろう。

『貴女自身が塔を築くところから携わり、塔を元にしてください』

 そんな彼女に僕は言った。

『私の婚約者が貴女は変われると信じているのです』
『…………』
『一つ一つ貴女の手で、しっかりと組み立てなおしてください。この建物も……そして、貴女自身も』

 僕の言葉にベル・フォーサイスは『謹んで……お受けいたします』と涙を流して、嗚咽しながら『ありがとうございます』と肩を震わせてそう言った。



♢ ♢ ♢




「――レイ君?」

 いつの間にかぼんやりしてしまっていたのか、エレナが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。『少し、ぼんやりしていたようです』と僕がそう言えば『そっか』とエレナは安心したように微笑んだ。

(僕がもっとしっかり断り、ベル・フォーサイスが納得できるまで話あっていれば、貴女をこうして危険にさらさなくてよかったのかもしれない)
(けれど、僕は貴女に会うことを優先してしまった)

 エレナの笑顔を見ながら自分の不甲斐なさ、情けなさにやるせなく思っていると

「どうしましたか?」

エレナがひどく優しい顔をしていた。僕の問いかけに『思い出しちゃって』とエレナは懐かしそうに目を細めた。

「思い出した……ですか?」

 彼女の意図がわからず首を傾げるとエレナは

「レイ君と出会ったあの日のこと。お兄様たちと喧嘩したって言ってて、最初は怒っていたのにレイ君、最後はちゃんと謝るっていってて。人を許すのはなかなか難しいって話を私がしたのを思い出しちゃった」

両手で自らの手のひらを合わせてぱちんとさせた。

「もちろん、ベル・フォーサイスのやったことは許されることじゃない。――けど、レイ君はベル・フォーサイスの気持ちも考えて情状酌量の余地を与えてくれた。相手の立場になって考えるなんて、誰でもできるようでできないから」

(それは貴女が教えてくれたことで――)
(正しくて、どこまでも真っすぐな貴女だから)

「だからね、偉いね、レイ君は」

(――だから、そんな貴女に僕は恋をしたんだ)

 出会ったあの日のように優しく微笑む彼女を見て僕の口元は自然に緩んだ。

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