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ライバル令嬢登場!?
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♢ ♢ ♢
「何で私達がいる部屋に爆弾を仕掛けなかったの?」
“彼女”の投げかけに虚をつかれた私は息を飲んだ。そんな私に“彼女”は座り込んでいる私と目線を同じくして真っすぐにその空色の瞳を私に向けた。その空色の瞳には服や髪が乱れ、情けないほど顔をひきつらせた私が映り込んでいる。
(これで『ガルシアの妖精』とは呆れてしまう。見る影もない)
「いきなり拉致されて、薄暗い部屋に閉じ込められて、すごくすごく怖かった」
「…………」
「それに突然爆発音が聞こえて、建物が大きく揺れた」
「…………」
「そして急に壁と床が抜けて、体が宙に舞った恐怖、貴女にわかる?」
「…………」
「レイ君のことが好きな貴女は、レイ君に婚約者だと言われていた私が邪魔になったのよね?」
「…………」
「私がいなくなれば、レイ君の婚約者はいなくなるから」
私はただ“彼女”の言葉に私は
「――ごめんなさい。ごめんなさい。」
項垂れるしかない。そんな私に“彼女”は『顔をあげて』とはっきりと確かにそういった。言われるがまま顔を上げると空色の瞳が真っすぐに見つめてきて思わず視線を逸らしたくなる。それをぐっと我慢して見続けていると
「貴女がやったことを私は忘れない」
彼女は一言そう告げた。
「……はい」
自らのやってしまった過ちの大きさに震えが止まらない。そんな私の顔を覗き込むように彼女は私を見て、『けど……』と続ける。
「けど、一つだけ。爆弾を私達の部屋に仕掛けなかったことだけが、腑に落ちない。」
「…………」
「私を本気で亡き者にする気なら、下の層に爆弾を仕掛けるんじゃなくて、私達がいた部屋に爆弾をしかけて爆破すれば、私はきっとこうして貴女の目の前に立つことができていなかったわ」
“彼女”の言葉に心の中を見透かされたような気がした。
(本当は閉じ込めてあった部屋にも爆弾を仕掛けようとしていた)
(けれど、あの時――)
(仕掛けるのを躊躇ったのは――)
(きっと――)
「強いて言えば、最後の最後に残っていたわずかな良心と私を救ってくれた神様の言葉を思い出したから……かしら」
♢ ♢ ♢
『“僕”は、“彼女”のように正しいことを正しいと、間違っていることを間違っていると、ちゃんと言える人間になりたいだけですから』
♢ ♢ ♢
(あの時、私は本当は心の底ではこんなことは間違っているとわかっていた)
(結局は、私は王立学校で私をいじめていた令嬢と同じことをしただけ)
(いや、それ以上に醜い気持ちを持って、レイ様と彼女を謀った)
(ただただレイ様の前で醜態をさらしただけだ)
「けれど、それでも、私は……レイ様の心を手に入れたかったの――」
(醜い嫉妬心だとはわかっている)
(けれども、狂おしいくらい私は――……)
「――貴女はレイ君が本当に大好きだったのね?」
彼女の言葉に『ずっと……ずっとお慕いしておりました』、体の力が抜けた。泣く資格なんかないのに、私の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。そんな私の元へ近づいてきて、彼女は肩を彼女はさすりながら、優しい口調で語る。
「貴女はただレイ君にそう言えばよかったのよ」
「…………」
「こういうやり方をするんじゃなくて、貴女はレイ君に素直に気持ちを伝えればよかったの」
「…………」
「レイ君なら絶対に貴女が納得するまでとことん付き合ってくれるわ」
「…………」
以前、同じようなことをレイ様と初めてお話したあの日にレイ様に言われた。
(確かに私が婚約を申し込んで断られた時も、話し合いの場を設けてくれた。私が余計な期待を持たぬようきっぱり諦めて次に目を向けるようにきちんと断ってくれたのに――)
「貴女には自分の気持ちを伝えることができるのだから」
「…………」
(それなのに私はレイ様の気持ちを無視して、挙句こんなことを……)
「こうやって誰かを騙したり、傷つけたりするやり方じゃ、誰も幸せにならないわ」
「…………」
「もし、仮にこんなやり方でレイ君が手に入ったとしても、貴女は嬉しい?」
彼女の問いかけに私はしゃくり上げながら首を横に振った。
(そんな卑怯なやり方をしても、罪悪感でいっぱいで幸せなんて考えられない)
「間違わない人なんていないわ。けど、その自らの過ちとしっかり向き合って、これから正しく生きればいいんだから」
優しく微笑む彼女を見て、やっと理解した。あぁ、そうだったのかと。
(この人が――)
(レイ様の言っていた“彼女”だったのか――)
「私は貴女のやったことは忘れないけど、貴女のことは許せないわけじゃない。誰かを好きになる気持ち……なんとなく、わかったから」
「…………」
「好きになっては駄目だと頭ではわかっていても、認めたくなくても、抗えないものね」
「…………」
(正しいことは正しいと、間違えていることは間違っているといえる人になりたいと)
(そうレイ様が願っていたのは)
(きっとどこまでも真っすぐな彼女の隣にいるため)
「本当に怖くて、怖くて、今思い出しても震えが止まらない」
「…………」
「けどね、不思議ね。自分のやってしまった過ちを心から悔いている貴女をみたら、責める気持ちがなくなっちゃった」
「…………」
(誰かを許すということは難しい)
(だからこそ、戦いや争いがなくならない)
(けれど彼女は――)
(その難しい誰かを許すという行為を当然のようにやってのける)
(きっとそれは彼女が色々な人から愛されて)
(その愛を他の人にも分け与えることができる優しさと強さを持っているから)
「心の底から悔いている貴女は、もう二度とこんな過ちを繰り返さない」
(そして、人を誰よりも信じているから)
「だからね、レイ君」
(あぁ、これは――)
「彼女は私にやったことについては心の底から悔やんでる。だから、もし私のことで罪が重くなるのならば、そこを考慮してほしい」
(これは――……)
(私には到底敵わない)
黄金色の髪を風で揺らして凛として立つ彼女の姿を見て、そう思った。
「何で私達がいる部屋に爆弾を仕掛けなかったの?」
“彼女”の投げかけに虚をつかれた私は息を飲んだ。そんな私に“彼女”は座り込んでいる私と目線を同じくして真っすぐにその空色の瞳を私に向けた。その空色の瞳には服や髪が乱れ、情けないほど顔をひきつらせた私が映り込んでいる。
(これで『ガルシアの妖精』とは呆れてしまう。見る影もない)
「いきなり拉致されて、薄暗い部屋に閉じ込められて、すごくすごく怖かった」
「…………」
「それに突然爆発音が聞こえて、建物が大きく揺れた」
「…………」
「そして急に壁と床が抜けて、体が宙に舞った恐怖、貴女にわかる?」
「…………」
「レイ君のことが好きな貴女は、レイ君に婚約者だと言われていた私が邪魔になったのよね?」
「…………」
「私がいなくなれば、レイ君の婚約者はいなくなるから」
私はただ“彼女”の言葉に私は
「――ごめんなさい。ごめんなさい。」
項垂れるしかない。そんな私に“彼女”は『顔をあげて』とはっきりと確かにそういった。言われるがまま顔を上げると空色の瞳が真っすぐに見つめてきて思わず視線を逸らしたくなる。それをぐっと我慢して見続けていると
「貴女がやったことを私は忘れない」
彼女は一言そう告げた。
「……はい」
自らのやってしまった過ちの大きさに震えが止まらない。そんな私の顔を覗き込むように彼女は私を見て、『けど……』と続ける。
「けど、一つだけ。爆弾を私達の部屋に仕掛けなかったことだけが、腑に落ちない。」
「…………」
「私を本気で亡き者にする気なら、下の層に爆弾を仕掛けるんじゃなくて、私達がいた部屋に爆弾をしかけて爆破すれば、私はきっとこうして貴女の目の前に立つことができていなかったわ」
“彼女”の言葉に心の中を見透かされたような気がした。
(本当は閉じ込めてあった部屋にも爆弾を仕掛けようとしていた)
(けれど、あの時――)
(仕掛けるのを躊躇ったのは――)
(きっと――)
「強いて言えば、最後の最後に残っていたわずかな良心と私を救ってくれた神様の言葉を思い出したから……かしら」
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『“僕”は、“彼女”のように正しいことを正しいと、間違っていることを間違っていると、ちゃんと言える人間になりたいだけですから』
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(あの時、私は本当は心の底ではこんなことは間違っているとわかっていた)
(結局は、私は王立学校で私をいじめていた令嬢と同じことをしただけ)
(いや、それ以上に醜い気持ちを持って、レイ様と彼女を謀った)
(ただただレイ様の前で醜態をさらしただけだ)
「けれど、それでも、私は……レイ様の心を手に入れたかったの――」
(醜い嫉妬心だとはわかっている)
(けれども、狂おしいくらい私は――……)
「――貴女はレイ君が本当に大好きだったのね?」
彼女の言葉に『ずっと……ずっとお慕いしておりました』、体の力が抜けた。泣く資格なんかないのに、私の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。そんな私の元へ近づいてきて、彼女は肩を彼女はさすりながら、優しい口調で語る。
「貴女はただレイ君にそう言えばよかったのよ」
「…………」
「こういうやり方をするんじゃなくて、貴女はレイ君に素直に気持ちを伝えればよかったの」
「…………」
「レイ君なら絶対に貴女が納得するまでとことん付き合ってくれるわ」
「…………」
以前、同じようなことをレイ様と初めてお話したあの日にレイ様に言われた。
(確かに私が婚約を申し込んで断られた時も、話し合いの場を設けてくれた。私が余計な期待を持たぬようきっぱり諦めて次に目を向けるようにきちんと断ってくれたのに――)
「貴女には自分の気持ちを伝えることができるのだから」
「…………」
(それなのに私はレイ様の気持ちを無視して、挙句こんなことを……)
「こうやって誰かを騙したり、傷つけたりするやり方じゃ、誰も幸せにならないわ」
「…………」
「もし、仮にこんなやり方でレイ君が手に入ったとしても、貴女は嬉しい?」
彼女の問いかけに私はしゃくり上げながら首を横に振った。
(そんな卑怯なやり方をしても、罪悪感でいっぱいで幸せなんて考えられない)
「間違わない人なんていないわ。けど、その自らの過ちとしっかり向き合って、これから正しく生きればいいんだから」
優しく微笑む彼女を見て、やっと理解した。あぁ、そうだったのかと。
(この人が――)
(レイ様の言っていた“彼女”だったのか――)
「私は貴女のやったことは忘れないけど、貴女のことは許せないわけじゃない。誰かを好きになる気持ち……なんとなく、わかったから」
「…………」
「好きになっては駄目だと頭ではわかっていても、認めたくなくても、抗えないものね」
「…………」
(正しいことは正しいと、間違えていることは間違っているといえる人になりたいと)
(そうレイ様が願っていたのは)
(きっとどこまでも真っすぐな彼女の隣にいるため)
「本当に怖くて、怖くて、今思い出しても震えが止まらない」
「…………」
「けどね、不思議ね。自分のやってしまった過ちを心から悔いている貴女をみたら、責める気持ちがなくなっちゃった」
「…………」
(誰かを許すということは難しい)
(だからこそ、戦いや争いがなくならない)
(けれど彼女は――)
(その難しい誰かを許すという行為を当然のようにやってのける)
(きっとそれは彼女が色々な人から愛されて)
(その愛を他の人にも分け与えることができる優しさと強さを持っているから)
「心の底から悔いている貴女は、もう二度とこんな過ちを繰り返さない」
(そして、人を誰よりも信じているから)
「だからね、レイ君」
(あぁ、これは――)
「彼女は私にやったことについては心の底から悔やんでる。だから、もし私のことで罪が重くなるのならば、そこを考慮してほしい」
(これは――……)
(私には到底敵わない)
黄金色の髪を風で揺らして凛として立つ彼女の姿を見て、そう思った。
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