43 / 57
ライバル令嬢登場!?
30
しおりを挟む
♢ ♢ ♢
眼前には緋色の世界が広がっている。そして、時折建物をすり抜け少し冷たい風が肌に当たる。綺麗に結い上げられていた髪はいつの間にか緩くなってしまったのか、顔にかかってきた。
「足元、気を付けてください」
目の前でそう投げかけているのは白い服を身にまとい、亜麻栗色の髪をそよそよと揺らしているこの国『ガルシア』の第三王子『レイ・ガルシア』殿下。
――私を変えてくれたこの世界でたった一人の人
――私がこの世界で一番、大好きだった人
愛しい彼が優しい目を向けているのは私ではない。
「うん」
と首を縦に振り、彼に体を抱きかかえられている女。
――『エレナ・クレメンス』
輝くような黄金色の髪は、今は夕日に染められ、今は茜色に染まっている。そんな彼女を愛おしそうに見つめながら、レイ様は彼女の足を地面へゆっくりと下ろした。『ありがとう』という彼女を見るレイ様の表情は幸せそうだ。まるで僥倖の女神にあったかのようにその表情は柔らかい。
そんな彼らを見ていると、彼女の空色の瞳と目が合った。芯の強そうなその瞳に私は思わず怯んでしまう。そんな彼女から私を隠すようにレイ様は彼女の前に立って、数度頭を撫でた。
そして、振り返ったそのエメラルドグリーンの瞳は鋭く細められていた。
「今更、何をしに来たんですか」
その底冷えのするほど冷たい瞳を見た瞬間、自分がしてしまったことの大きさを改めて気づかされた。
「貴女には失望しました」
その瞬間風がコォーと大きく音を立てる。瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。
「ベル・フォーサイス……」
レイ様の声は酷く静かでそれが逆に恐怖心を煽った。私は左腕を右手でぎゅっと握りしめ、唇を噛みしめていた。
「拉致誘拐、器物破損……、挙げれば枚挙にいとまがありません」
「…………」
「けれど、何より、一番許せないのは私の大切な人を傷つけようとしたこと」
「…………」
「それが、私にとってどんな罪よりも重い」
「…………」
「貴女には、覚悟はしていただかなければなりません」
静かに告げられるレイ様の言葉は重く、そして底冷えがするほど冷ややかだ。風の音だけが響くこの場所でレイ様の声が静かに響き渡る。
(あぁ、私は本当に何ということを……)
レイ様の言葉に私はただただ項垂れるしかない。
「私は貴女に罪を問わねばならなりません」
「…………」
「そして、その罪は決して軽くはありません」
(あの時――)
(初めてエレナ・クレメンスと会った時――)
(本当はわかっていた――)
(愛おしそうに、優しく彼女を見つめている彼を見れば明白だった)
(私がこの世界で一番彼を愛そうが――)
(彼がこの世界で一番愛していたのは彼女で――)
(エメラルドグリーンの優しい瞳が私に向けられることはないことぐらい――)
(本当は、わかっていた――)
(けれど――)
(それでも貴方を諦められなかった)
(どんな手を使ってでも――)
(貴方を手に入れたかった――)
(愚かなことだとわかっていても――)
(貴方がその女に誑かせられていると思った)
(いや、私が誑かせられていると思いたかっただけ)
(そう自分に言い聞かせて、言い聞かせて)
(ここまでのことをしてしまった)
(けれど――)
「……いかなる処罰もお受けいたします」
(もう私の手は彼には届かない)
(これだけのことをしたのだ)
(これだけのことをしてしまった)
(もう、後戻りはできない)
私は静かに地面へ座り込んで、地へ頭をつけた。我ながら情けない。声が震える。
(なんてざまなの)
「ベル・フォーサイス」
レイ様に静かに名前を呼ばれた。
(拉致誘拐。皇族を騙すために変身魔法まで使って、城の塔を全壊。皇族の婚約者にまで手を出したのだ)
(重罪は免れない)
(よくて国外追放、最悪極刑だってありえる)
本当になんてざまなのだろう。エレナに被せようとしていた罪で自分が裁かれようとしているなんて。
せっかく『ガルシアの妖精』とまで呼ばれるまでになったのに、自分で自分の未来まで捨ててしまった。
(お父様、お母様、ごめんなさい)
親族も断罪は免れない。宰相まで登り詰めた父、優しく凛とした母を思うと申し訳なさでいっぱいになる。
(――大切な人を傷つけて)
(私は何をやってしまったのだろう)
私はレイ様の言葉に静かに顔を上げた。恐怖から震えが止まらない。風が再び強くなり、私とレイ様の間の瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。
「貴女を――……」
そうレイ様が口を開きかけた瞬間
「ちょっと待って!レイ君」
女の凛とした声が聞こえた。声をした方を見れば、レイ様も私同様“彼女”を見た。空色の瞳が真っすぐと私を見据える。
――コツコツ
彼女は自らが立っていた場所から数歩進んでレイ様の隣へ並んで、一言私にこう告げた。『私、この人に一つだけ聞きたいことがあるの』
♢ ♢ ♢
「私に、聞きたいこと……?」
突然の思いのよらない彼女の問いかけに私は躊躇いながら答えた。
(一体、何を……?)
彼女は私の問いかけに『えぇ』と首を縦に振って、彼女は口を開いてただ一言。
「何で私達がいる部屋に爆弾を仕掛けなかったの?」
そう私に投げかけてきた。
眼前には緋色の世界が広がっている。そして、時折建物をすり抜け少し冷たい風が肌に当たる。綺麗に結い上げられていた髪はいつの間にか緩くなってしまったのか、顔にかかってきた。
「足元、気を付けてください」
目の前でそう投げかけているのは白い服を身にまとい、亜麻栗色の髪をそよそよと揺らしているこの国『ガルシア』の第三王子『レイ・ガルシア』殿下。
――私を変えてくれたこの世界でたった一人の人
――私がこの世界で一番、大好きだった人
愛しい彼が優しい目を向けているのは私ではない。
「うん」
と首を縦に振り、彼に体を抱きかかえられている女。
――『エレナ・クレメンス』
輝くような黄金色の髪は、今は夕日に染められ、今は茜色に染まっている。そんな彼女を愛おしそうに見つめながら、レイ様は彼女の足を地面へゆっくりと下ろした。『ありがとう』という彼女を見るレイ様の表情は幸せそうだ。まるで僥倖の女神にあったかのようにその表情は柔らかい。
そんな彼らを見ていると、彼女の空色の瞳と目が合った。芯の強そうなその瞳に私は思わず怯んでしまう。そんな彼女から私を隠すようにレイ様は彼女の前に立って、数度頭を撫でた。
そして、振り返ったそのエメラルドグリーンの瞳は鋭く細められていた。
「今更、何をしに来たんですか」
その底冷えのするほど冷たい瞳を見た瞬間、自分がしてしまったことの大きさを改めて気づかされた。
「貴女には失望しました」
その瞬間風がコォーと大きく音を立てる。瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。
「ベル・フォーサイス……」
レイ様の声は酷く静かでそれが逆に恐怖心を煽った。私は左腕を右手でぎゅっと握りしめ、唇を噛みしめていた。
「拉致誘拐、器物破損……、挙げれば枚挙にいとまがありません」
「…………」
「けれど、何より、一番許せないのは私の大切な人を傷つけようとしたこと」
「…………」
「それが、私にとってどんな罪よりも重い」
「…………」
「貴女には、覚悟はしていただかなければなりません」
静かに告げられるレイ様の言葉は重く、そして底冷えがするほど冷ややかだ。風の音だけが響くこの場所でレイ様の声が静かに響き渡る。
(あぁ、私は本当に何ということを……)
レイ様の言葉に私はただただ項垂れるしかない。
「私は貴女に罪を問わねばならなりません」
「…………」
「そして、その罪は決して軽くはありません」
(あの時――)
(初めてエレナ・クレメンスと会った時――)
(本当はわかっていた――)
(愛おしそうに、優しく彼女を見つめている彼を見れば明白だった)
(私がこの世界で一番彼を愛そうが――)
(彼がこの世界で一番愛していたのは彼女で――)
(エメラルドグリーンの優しい瞳が私に向けられることはないことぐらい――)
(本当は、わかっていた――)
(けれど――)
(それでも貴方を諦められなかった)
(どんな手を使ってでも――)
(貴方を手に入れたかった――)
(愚かなことだとわかっていても――)
(貴方がその女に誑かせられていると思った)
(いや、私が誑かせられていると思いたかっただけ)
(そう自分に言い聞かせて、言い聞かせて)
(ここまでのことをしてしまった)
(けれど――)
「……いかなる処罰もお受けいたします」
(もう私の手は彼には届かない)
(これだけのことをしたのだ)
(これだけのことをしてしまった)
(もう、後戻りはできない)
私は静かに地面へ座り込んで、地へ頭をつけた。我ながら情けない。声が震える。
(なんてざまなの)
「ベル・フォーサイス」
レイ様に静かに名前を呼ばれた。
(拉致誘拐。皇族を騙すために変身魔法まで使って、城の塔を全壊。皇族の婚約者にまで手を出したのだ)
(重罪は免れない)
(よくて国外追放、最悪極刑だってありえる)
本当になんてざまなのだろう。エレナに被せようとしていた罪で自分が裁かれようとしているなんて。
せっかく『ガルシアの妖精』とまで呼ばれるまでになったのに、自分で自分の未来まで捨ててしまった。
(お父様、お母様、ごめんなさい)
親族も断罪は免れない。宰相まで登り詰めた父、優しく凛とした母を思うと申し訳なさでいっぱいになる。
(――大切な人を傷つけて)
(私は何をやってしまったのだろう)
私はレイ様の言葉に静かに顔を上げた。恐怖から震えが止まらない。風が再び強くなり、私とレイ様の間の瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。
「貴女を――……」
そうレイ様が口を開きかけた瞬間
「ちょっと待って!レイ君」
女の凛とした声が聞こえた。声をした方を見れば、レイ様も私同様“彼女”を見た。空色の瞳が真っすぐと私を見据える。
――コツコツ
彼女は自らが立っていた場所から数歩進んでレイ様の隣へ並んで、一言私にこう告げた。『私、この人に一つだけ聞きたいことがあるの』
♢ ♢ ♢
「私に、聞きたいこと……?」
突然の思いのよらない彼女の問いかけに私は躊躇いながら答えた。
(一体、何を……?)
彼女は私の問いかけに『えぇ』と首を縦に振って、彼女は口を開いてただ一言。
「何で私達がいる部屋に爆弾を仕掛けなかったの?」
そう私に投げかけてきた。
1
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
サフォネリアの咲く頃
水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。
人と人ではないものたちが存在する世界。
若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。
それは天使にあるまじき災いの色だった…。
※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も?
※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/50469933
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる