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ライバル令嬢登場!?

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眼前には緋色の世界が広がっている。そして、時折建物をすり抜け少し冷たい風が肌に当たる。綺麗に結い上げられていた髪はいつの間にか緩くなってしまったのか、顔にかかってきた。

「足元、気を付けてください」

 目の前でそう投げかけているのは白い服を身にまとい、亜麻栗色の髪をそよそよと揺らしているこの国『ガルシア』の第三王子『レイ・ガルシア』殿下。

――私を変えてくれたこの世界でたった一人の人

――私がこの世界で一番、大好きだった人

 愛しい彼が優しい目を向けているのは私ではない。

「うん」

と首を縦に振り、彼に体を抱きかかえられている女。

――『エレナ・クレメンス』

輝くような黄金色の髪は、今は夕日に染められ、今は茜色に染まっている。そんな彼女を愛おしそうに見つめながら、レイ様は彼女の足を地面へゆっくりと下ろした。『ありがとう』という彼女を見るレイ様の表情は幸せそうだ。まるで僥倖の女神にあったかのようにその表情は柔らかい。

 そんな彼らを見ていると、彼女の空色の瞳と目が合った。芯の強そうなその瞳に私は思わず怯んでしまう。そんな彼女から私を隠すようにレイ様は彼女の前に立って、数度頭を撫でた。

 そして、振り返ったそのエメラルドグリーンの瞳は鋭く細められていた。

「今更、何をしに来たんですか」

 その底冷えのするほど冷たい瞳を見た瞬間、自分がしてしまったことの大きさを改めて気づかされた。

「貴女には失望しました」

 その瞬間風がコォーと大きく音を立てる。瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。

「ベル・フォーサイス……」

レイ様の声は酷く静かでそれが逆に恐怖心を煽った。私は左腕を右手でぎゅっと握りしめ、唇を噛みしめていた。

「拉致誘拐、器物破損……、挙げれば枚挙にいとまがありません」
「…………」
「けれど、何より、一番許せないのは私の大切な人を傷つけようとしたこと」
「…………」
「それが、私にとってどんな罪よりも重い」
「…………」
「貴女には、覚悟はしていただかなければなりません」

 静かに告げられるレイ様の言葉は重く、そして底冷えがするほど冷ややかだ。風の音だけが響くこの場所でレイ様の声が静かに響き渡る。

(あぁ、私は本当に何ということを……)

 レイ様の言葉に私はただただ項垂れるしかない。

「私は貴女に罪を問わねばならなりません」
「…………」
「そして、その罪は決して軽くはありません」

(あの時――)
(初めてエレナ・クレメンスと会った時――)
(本当はわかっていた――)

(愛おしそうに、優しく彼女を見つめている彼を見れば明白だった)

(私がこの世界で一番彼を愛そうが――)
(彼がこの世界で一番愛していたのは彼女で――)
(エメラルドグリーンの優しい瞳が私に向けられることはないことぐらい――)


(本当は、わかっていた――)

(けれど――)
(それでも貴方を諦められなかった)
(どんな手を使ってでも――)
(貴方を手に入れたかった――)

(愚かなことだとわかっていても――)

(貴方がその女に誑かせられていると思った)
(いや、私が誑かせられていると思いたかっただけ)

(そう自分に言い聞かせて、言い聞かせて)
(ここまでのことをしてしまった)

(けれど――)

「……いかなる処罰もお受けいたします」

(もう私の手は彼には届かない)

(これだけのことをしたのだ)
(これだけのことをしてしまった)

(もう、後戻りはできない)

私は静かに地面へ座り込んで、地へ頭をつけた。我ながら情けない。声が震える。

(なんてざまなの)

「ベル・フォーサイス」

 レイ様に静かに名前を呼ばれた。

(拉致誘拐。皇族を騙すために変身魔法まで使って、城の塔を全壊。皇族の婚約者にまで手を出したのだ)

(重罪は免れない)
(よくて国外追放、最悪極刑だってありえる)

本当になんてざまなのだろう。エレナに被せようとしていた罪で自分が裁かれようとしているなんて。

せっかく『ガルシアの妖精』とまで呼ばれるまでになったのに、自分で自分の未来まで捨ててしまった。

(お父様、お母様、ごめんなさい)

 親族も断罪は免れない。宰相まで登り詰めた父、優しく凛とした母を思うと申し訳なさでいっぱいになる。

(――大切な人を傷つけて)
(私は何をやってしまったのだろう)

私はレイ様の言葉に静かに顔を上げた。恐怖から震えが止まらない。風が再び強くなり、私とレイ様の間の瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。

「貴女を――……」

 そうレイ様が口を開きかけた瞬間

「ちょっと待って!レイ君」

女の凛とした声が聞こえた。声をした方を見れば、レイ様も私同様“彼女”を見た。空色の瞳が真っすぐと私を見据える。

――コツコツ

 彼女は自らが立っていた場所から数歩進んでレイ様の隣へ並んで、一言私にこう告げた。『私、この人に一つだけ聞きたいことがあるの』





♢ ♢ ♢





「私に、聞きたいこと……?」

 突然の思いのよらない彼女の問いかけに私は躊躇いながら答えた。

(一体、何を……?)

 彼女は私の問いかけに『えぇ』と首を縦に振って、彼女は口を開いてただ一言。

「何で私達がいる部屋に爆弾を仕掛けなかったの?」

 そう私に投げかけてきた。
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