アラサー令嬢の婚約者は、9つ下の王子様!?

九条りりあ

文字の大きさ
上 下
42 / 57
ライバル令嬢登場!?

29

しおりを挟む
♢ ♢ ♢





 世界が夕日で茜色に染められて、燃えているみたいだ。塔から伸びる影がはっきりとした黒色。少し肌寒い風が肌をなぞっていく。

「足元、気を付けてください」

 私を抱きかかえたままだったレイ君は私の耳元に口元を寄せてそう囁いた。『うん』と深く頷くと私の体を傾けて、地面へ足が付くようにかがんでくれた。『ありがとう』と言って上体を起こす。立ち上がった私が数メートル先に現れた彼女をちらりと見やると傍らに立っているレイ君は私の顔を覗き込んでから数度私の頭を撫でた。まるで、大丈夫だと、私を安心させるように微笑んで。そして

「今更、何をしに来たんですか」

振り返りざまレイ君はそういって“彼女”私を隠すように私の前に立った。

「貴女には失望しました」

 その瞬間コォーと大きく風が鳴いた。

「ベル・フォーサイス……」

亜麻栗色の髪が無造作に揺れ、そこから見える彼の横顔は怒り、そして悲しみといった失望の色を映し出していた。鋭く“彼女”の名前を呼ぶ彼の視線には、『ガルシアの妖精』と謳われし、絶世の美少女が左腕を右手でぎゅっと握りしめて何かに耐えるような表情を浮かべている。美しい顔は強張り、唇を噛みしめている。

「拉致誘拐、器物破損……、挙げれば枚挙にいとまがありません」
「…………」
「けれど、何より、一番許せないのは私の大切な人を傷つけようとしたこと」
「…………」
「それが、私にとってどんな罪よりも重い」
「…………」
「貴女には、覚悟はしていただかなければなりません」

 静かに告げられるレイ君の言葉は重く、そして冷たい。風の音だけが響くこの場所でレイ君の声が静かに響き渡る。対してベル・フォーサイスはただただ黙って俯いている。

(この人が私を攫って、私を……)

 レイ君が助けてくれなければ、私はあの高さ、確実に命はなかった。思い出しただけでも震えが止まらない。震えそうになる右手をそっと左の手のひらで包み込んだ。

「私は貴女に罪を問わねばならなりません」
「…………」
「そして、その罪は決して軽くはありません」

――レイ君が静かにそう言い切ったその瞬間

「……いかなる処罰もお受けいたします」

口を開いたのは目の前の緑色の髪を風でたなびかせ、今にも泣きそうな表情をしているベル・フォーサイス。彼女は静かに地面へ座り込んで、地へ頭をつけた。城で初めて会ったあの時のような高圧的な声ではなく、その声色は小さく、そして震えていた。

「ベル・フォーサイス」

 そうレイ君は彼女の名前を呼んだ。それに対してベル・フォーサイスは体を震わせながら、静かに顔を上げた。風が再び強くなり、彼女とレイ君の間の瓦礫に付着していた砂が大きく舞い上がった。少し離れたところで、風で瓦礫がずれて倒れてしまったのか、瓦礫が砕ける音が聞こえてくる。張り詰めるこの場所でレイ君は口を開いた。

「貴女を――……」

 そうレイ君が彼女に静かに何事か告げようとした瞬間

「ちょっと待って!レイ君」

私は亜麻栗色の髪を風で揺らす彼に呼び掛けた。対してレイ君は驚いたように私の方を見て、エメラルドグリーンの瞳が不思議そうに見開かれた。私は静かに少し前に立っているレイ君の隣へ歩いた。なおも風が吹いて、ドレスに砂が付着していく。レイ君の隣で立ち止まり、座り込んでいるベル・フォーサイスを見るとそのブラウンの瞳と目が合った。彼女の瞳は戸惑いの色が浮かんでいる。そんな彼女と私の傍らで心配そうに私を見ているレイ君の視線を感じながら私は口を開いた。

「私、この人に聞きたいことがあるの」

(この人に、私は聞かなければならないことが、腑に落ちないことがあるから)





しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...