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ライバル令嬢登場!?

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♢ ♢ ♢










――『ほらね』と懐かしい声が聞こえた気がした





「レイ、君……」

こぼれでた言葉は“彼”の名前。信じられない思いで私はすぐ近くにある“彼”のエメラルドグリーンの瞳を見返した。

「本……物?」

 ついで出たのは、そんな言葉。夢を見ているのかと思った。都合のいい夢を。信じられない想いで“彼”の頬に右手で触れると、“彼”はそのエメラルドグリーンの瞳を細めて、どこか眩しいものでも見るように私を見る。

「本物ですよ」

 “彼”の頬は確かな温もりがあって……。“彼”の微笑みは私を安心させてくれて……。

「レイ……くんっ!!」

今更ながらに恐怖が押し寄せてきて、私は思わず両手で顔を覆った。“彼”……、いや、レイ君があやすように左肩をポンポンと優しく叩いてくれる感触を感じながら、私は涙が溢れ出して止まらなかった。





♢ ♢ ♢















「……んっ……」

ひとしきり泣いてあふれ出てくる涙を拭ってふと自らの体を改めてあることに気が付いた。私の膝裏に“彼”の右手が、背中に左手が添えられていて、俗に言うお姫様抱っこをされていたから。

「レイ君、重たいでしょ?下ろしていいよ」

レイ君の目の前で年甲斐もなく泣いてしまい、おまけにこんな重たい私を持たせてしまいただただ申し訳ない思いに駆られる。おまけに泣きすぎてきっと目の周り真っ赤で酷い顔。レイ君を直視できずに俯くと、急に左右に揺すぶられて驚いて、思わず顔を上げた。

「レイ君……?」

 見上げた先、すぐ近くにあるレイ君は真剣なまなざしを私に向けて

「貴女が無事でよかった……」

そう言って

「レ、レイ君!?」

私を抱く力を強めた。自分の心臓の鼓動までもレイ君に伝わっているのではないかと思うほど、鼓動の音が大きいのが自分でもわかった。レイ君の温もりがダイレクトに伝わってきて、顔に熱を持ち恥ずかしさのあまり再び顔を俯かせていると

「本当に……よかった……」

耳元で聞こえてきたレイ君の声はかすかに震えていた。私は思わず顔を上げた。よく見るとレイ君が身に着けている服も、靴も、顔にまで砂埃が付いていた。それほどまでに私を必死に探してくれていたのかと思うと胸が痛んだ。

「怪我はないですか?痛むところは?」
「怪我もないよ、痛いところもない」

 レイ君の言葉に首を振って、私はあることに思い至った。

「でも、どうして?私は高いところから落ちていたのに……」

 40mの高さだと言っていた。仰向けに倒れて落ちていたけれど、確かな浮遊感があった。怪我一つないということは普通ありえない。

「レイ君が助けてくれたの?」

 私が問いかけるとレイ君は首を一つ縦に振った。

「私がいた場所の近くから爆発音が立て続けに聞こえて、音のする方を見ると塔が突然崩壊しました。もしかしたら、貴女がいるのではないかと思って……」

 そういって、レイ君は私のドレスの裾の部分を見やった。そこには、パールが散りばめられている。

「その真珠は最初に触れた者の魔力に反応する特別な真珠です。私が魔力を開放するだけで……」
「わぁ!」
 
 レイ君の言葉にただの真珠だったものがひと際大きな輝きを放った。そういえば、このドレス、レイ君からの贈り物だった。

「探知魔法や感知魔法と違って、狭い範囲でしか使えませんが、魔法陣を発動しなくてもいいので、一瞬で探すことができる魔導具なんですよ」
「それで探し出してくれたの?」
「えぇ。それで塔から落ちている貴女を見つけて、落下の衝撃を和らげるために風の魔法をかけました。間に合ってよかったです」

 そういってレイ君は口元を緩めて私に笑いかけてくれた。

(本当に必死に探してくれたんだ)

服や靴、おまけに顔や髪が汚れるのを厭わず、瓦礫が落ちてくる中、私のためにそこまでしてくれたレイ君に対して私は何て酷いことを思っていたのだろう。

(私は馬鹿だ)

 私は思わず俯いた。

「やはりどこか痛みますか……?」

(この人は私を裏切るなんてことするわけない)
(この人は私のことを嵌めるなんてことする人じゃない)

「ううん、痛くないよ。痛くない……」

(この人は私のことを心の底から心配してくれて)

「無理はしないでくださいね」


(この人が私にかけてくれる優しい言葉は……)
(この人が笑いかけてくれる優しい笑顔は……)


「うん、大丈夫……」


(私の心を温かいもので満たしてくれる)


「大丈夫……だから」

(9つの年の差を理由に、この人を見ようとしていなかった)

(私は認めるのがただ怖かっただけ。臆病になっていただけ)



――あの時

『笑った顔、照れた顔、優しい声色、レナ姉の全てが“僕”は愛おしいんだ』

(心の底から無邪気に笑うこの人の笑顔に心の全てを持っていかれてしまっていたことを)
(私は気が付かないふりをしていただけ)


(この人の真っすぐな眼差しが……)
(この人の真っすぐな気持ちが……)
(本当は私は……!)



「レイ君、あのね……!」

 私が勇気を振り絞ってレイ君の服をぎゅっと握った。

(本当は、少し怖い……)
(この気持ちを伝えることが……)
(それでも、私は……!)

 エメラルドグリーンの瞳が不思議そうに数度瞬きする。澄み切っているその瞳を見返した私が意を決して、口を開きかけた瞬間

――ザっ

と砂と何かが擦れる音がした。

「え……?どうして……」

 音のする方を見て私は目を見開いた。

「ベル……フォーサイス」

 瓦礫の上を傷だらけになりながら

「レイ……様。エレナ……クレメンス」

『ガルシアの妖精』と謳われる少女がどこかぼんやりとした表情を浮かべながら佇んでいた。

  その姿は、まるで糸の切れた人形のようだった。




――瓦礫と私たちの間を風が通り抜けていった


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