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ライバル令嬢登場!?
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♢ ♢ ♢
レイ様の美しい体をむやみに傷つけるのは不本意だ。睡眠薬で眠らせるのだって、本当はしたくはない。けれども、レイ様の目を覚まさせるためには致し方ないこと。
これだけあの女の姿でレイ様を陥れれば、目を覚ましたときにあの女を見た時にレイ様はどう思うだろう?
「これで終わりよ、エレナ・クレメンス」
小さく独り言ちて、大きなドラゴンも一瞬で眠らせる強力な睡眠薬を練りこんだ玉を地面に叩きつける。そして、瞬時に白い煙が辺りを覆い、白い世界が広がる……はずだった。けれども、そうはならなかった。
ーー何故なら強い力で右手を固定されていたから。
「どうして……?」
信じられない思いで私は思わず瞬いた。
「目を覚ましたと言いながら、お休みの時間とは。痺れ薬や毒薬の類ではなく、その玉の中に詰まっていたのは睡眠薬と言ったところでしょうか。」
すぐ傍から聞こえたのは“私の愛しい人”の声。
「……あり得ない」
けれども、それはあり得るわけがないのだ。だって、その人は睡眠薬の存在なんて知らないはずなのだから。声のした方に勢いよく振り向けば、エメラルドグリーンの瞳がこちらに鋭い視線を向けて、“彼”は握りしめた私の右手を左手でがっちりと掴んでいた。
「レイ……様」
思わずあの女の演技も忘れて大きく目開いてしまう。恐怖で顔が強張った。
「あ、貴方達!何をしているの!?」
周りにいるはずのは配下に助けを求め、辺りを見渡すと3人の男たちが倒れていた。けれども、そこには“いつもの配下”の顔が並んで伸びていた。ノアの変身魔法が解けたのか?
「あいにく私は睡眠薬の類を持ち歩いておりませんので、幻術魔法(ミラージュ)で幻の世界に行ってもらっています。とはいえ、幸せな幻を見ているはずなのでご心配なく。貴女に命令されてはこの計画にのらざるおえなかったのでしょうから」
確かによくよく3人の顔を見れば苦しんでいる表情を浮かべているのは一人もおらず、その顔はむしろ清々しいほどに安らかな顔をしている。
「なるほど、変身魔法で化けていたのですね。けれども、姿形だけではなく、声も変えれるとは、非常に高いレベルの変身魔法ですね。私も変身魔法は姿を変えるだけで手いっぱいですよ。この変身魔法の使い手はなかなかの腕前をお持ちのようだ。術者は誰です?貴女の配下にこのレベルの使い手はいなかったと記憶しているのですが?」
エメラルドグリーンの瞳はしかと私の顔を映し出している。いくら力を込めても私の右手は動いてくれない。
「どうして、私がエレナ・クレメンスじゃないと気が付いたの……?」
その瞳に映し出されているのは、まぎれもなくエレナ・クレメンスの姿。それに姿形だけではない。声もエレナ・クレメンスそのものだ。気が付く要素などないはずなのに……。
「左の手」
私の問いかけにレイ様はわずかに視線を移して私の右手を掴んでいる自らの左手を見た。
(左の手?)
左の手が何だというのだ?レイ様の意図がわからず、ただひたすらに黙り込んでいると
「左の手のひらを怪我したといった時のことです」
レイ様は静かに言った。
「貴女はこの怪我を“誰か”に見てもらおうと提案してきましたね」
「…………」
それの何が駄目だというのだ。レイ様の美しい手のひらに傷がついたら誰だってそういうだろう。そんなことを思いながらレイ様を見返すと『計画が浅はかでしたね』と続けて
「レナ姉は……エレナは、私が怪我をしてしまったら、誰かに頼らずに自分で治療してしまう。彼女はそれだけの技術と優しさがあります。かつて彼女が僕にしてくれたように」
そういって懐かしそうにわずかにそのエメラルドグリーンの瞳を細めた。まるで大切な大切な記憶だと言わんばかりに。
「決定的だったのは先ほど貴女が言い放った『アレン様やシリウス様の方が私に相応しい』という言葉です。エレナの前でシリウス兄さんの名前を出したことなんてありません。貴女はずっとこのガルシアで暮らしているからご存知ないかもしれませんが、皇族の名前は伝わりにくいんですよ」
レイ様の言葉に腑に落ちることがあった。
思えばレイ様はずっと私の少し先を歩いていた。その時は特に疑問を持つことはなかったけれど、婚約者はエスコートして連れだって行くのが常だ。確かに城へレイ様があの女を連れていっている時もレイ様は彼女の手を引いていた。最初から私のことを疑っていたのか?
ーーそれに、彼は一度レナ姉と口にして以来、レナ姉とは呼ばなかった
(あの時の言葉はあの女を攫った私に対しての怒りだったのか)
「貴女をエレナの姿に変えた術者は相当なものですね。姿、背格好だけでなく、声や私が送ったドレスの細部の装飾、それに私がエレナの首元につけた印に至るまで、外見だけで判断するならばエレナそのものです」
「…………」
「個人的に言わせていただければただ一度でも貴女のことをエレナだと思ってしまった自分が本当に腹立たしいくらいですね」
「…………」
「貴女の目的を知りたくて騙されたふりをしていましたが、どうやら貴女の目的は私とエレナの仲違いのようだ」
「…………」
レイ様の言葉に何も言えずにただただ黙り込むしかない私にレイ様はそのエメラルドグリーンの瞳を細めて、『貴女は失敗したんですよ』と冷ややかに私に言い放った。
「エレナはどこにいるんですか?――“ベル・フォーサイス”」
私の名前を。それは今まで聞いたことがないような背筋の凍るような冷たい響きを持っていた。
レイ様の美しい体をむやみに傷つけるのは不本意だ。睡眠薬で眠らせるのだって、本当はしたくはない。けれども、レイ様の目を覚まさせるためには致し方ないこと。
これだけあの女の姿でレイ様を陥れれば、目を覚ましたときにあの女を見た時にレイ様はどう思うだろう?
「これで終わりよ、エレナ・クレメンス」
小さく独り言ちて、大きなドラゴンも一瞬で眠らせる強力な睡眠薬を練りこんだ玉を地面に叩きつける。そして、瞬時に白い煙が辺りを覆い、白い世界が広がる……はずだった。けれども、そうはならなかった。
ーー何故なら強い力で右手を固定されていたから。
「どうして……?」
信じられない思いで私は思わず瞬いた。
「目を覚ましたと言いながら、お休みの時間とは。痺れ薬や毒薬の類ではなく、その玉の中に詰まっていたのは睡眠薬と言ったところでしょうか。」
すぐ傍から聞こえたのは“私の愛しい人”の声。
「……あり得ない」
けれども、それはあり得るわけがないのだ。だって、その人は睡眠薬の存在なんて知らないはずなのだから。声のした方に勢いよく振り向けば、エメラルドグリーンの瞳がこちらに鋭い視線を向けて、“彼”は握りしめた私の右手を左手でがっちりと掴んでいた。
「レイ……様」
思わずあの女の演技も忘れて大きく目開いてしまう。恐怖で顔が強張った。
「あ、貴方達!何をしているの!?」
周りにいるはずのは配下に助けを求め、辺りを見渡すと3人の男たちが倒れていた。けれども、そこには“いつもの配下”の顔が並んで伸びていた。ノアの変身魔法が解けたのか?
「あいにく私は睡眠薬の類を持ち歩いておりませんので、幻術魔法(ミラージュ)で幻の世界に行ってもらっています。とはいえ、幸せな幻を見ているはずなのでご心配なく。貴女に命令されてはこの計画にのらざるおえなかったのでしょうから」
確かによくよく3人の顔を見れば苦しんでいる表情を浮かべているのは一人もおらず、その顔はむしろ清々しいほどに安らかな顔をしている。
「なるほど、変身魔法で化けていたのですね。けれども、姿形だけではなく、声も変えれるとは、非常に高いレベルの変身魔法ですね。私も変身魔法は姿を変えるだけで手いっぱいですよ。この変身魔法の使い手はなかなかの腕前をお持ちのようだ。術者は誰です?貴女の配下にこのレベルの使い手はいなかったと記憶しているのですが?」
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その瞳に映し出されているのは、まぎれもなくエレナ・クレメンスの姿。それに姿形だけではない。声もエレナ・クレメンスそのものだ。気が付く要素などないはずなのに……。
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(左の手?)
左の手が何だというのだ?レイ様の意図がわからず、ただひたすらに黙り込んでいると
「左の手のひらを怪我したといった時のことです」
レイ様は静かに言った。
「貴女はこの怪我を“誰か”に見てもらおうと提案してきましたね」
「…………」
それの何が駄目だというのだ。レイ様の美しい手のひらに傷がついたら誰だってそういうだろう。そんなことを思いながらレイ様を見返すと『計画が浅はかでしたね』と続けて
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「決定的だったのは先ほど貴女が言い放った『アレン様やシリウス様の方が私に相応しい』という言葉です。エレナの前でシリウス兄さんの名前を出したことなんてありません。貴女はずっとこのガルシアで暮らしているからご存知ないかもしれませんが、皇族の名前は伝わりにくいんですよ」
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(あの時の言葉はあの女を攫った私に対しての怒りだったのか)
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「…………」
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「…………」
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「…………」
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