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ライバル令嬢登場!?

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「もう、いいわよ」

 私が私に背を向けて壁を見つめているノアにそう呼び掛けると

「あんた、やっぱり、変わっているよ……」

振り向いたノアは呆れたように言った。

「普通、太ももに巻いておくか?」
「いつもは、ポシェットに入れているのよ」
「いやいや、普通の令嬢はそんなもの持ち歩かないだろ」
「でも、そのおかげで貴方の傷の手当てができるわ。備えあれば患いなしって言葉知らない?」
「俺、生まれてきてそんなの常に持っている奴、初めて見たぞ」

そういってノアは私の目の前に置かれたものを見て苦笑いを浮かべた。そこには液体の入った小さなボトルが二本に、清潔なガーゼ、絆創膏が並んでいる。前世からの習慣で救急セットが手元にないと落ち着かない私は常にこういった救急セットを持ち歩いている。

この世界はどこかに行くのに鞄を持っていくという習慣がこちらにはあまりないらしく、屋敷ではポシェットを持って移動するのだが、招かれた場合は右の太ももにベルトを巻き付けている。そのベルトには小さなポケットがあり、その中に必要最低限のものを入れているのだ。ちなみにこの便利なベルトはメアリー特製の一品。

「さぁ、こっちに来て。私はこれ以上、先には行けないのだから」

 そういって私はノアを手招きする。ノアの傷の手当てをするだけという条件で、両腕のロープは外してもらったのである。なので、足元に結びつけられたロープはそのままなので、上半身が自由になっただけ。

「別に、俺はこのままでもいいんだが……」
「貴方がよくても、私が嫌なの」

 ノアはぶつぶつと言いながらも私のすぐ傍にやってきて、腰を下ろした。そして、怪我をした右の手のひらを見せてきた。その手に私は自らの手を添えた。

「まずは水で血を落とすわね」

 液体の入った2つのボトルのキャップを開いて、そのうちの水の入ったボトルから、傷口に水滴を落とす。そして、綺麗なガーゼで優しく流れ出した血をふき取る。そんな私の様子をノアは不思議そうに口を開いた。

「俺があんたを攫ったって忘れてないか?」
「忘れてないわよ。貴方のせいで、こうやって自由が利かないんだから」
「だったら、何でこんなことをするんだ?」

 そういってノアは顎で自らの右の手のひらを指し示して、『自分が攫った人間の傷なんて、どうでもいいだろう?』首を傾げた。そんな彼に

「痛っ!」

私は消毒液の入ったボトルから液体を傷口に落とした。傷口に刺激が走ったのだろう。ノアは顔を歪めている。

「いきなり、何するんだ?」
「消毒よ、消毒。菌が入ったら困るでしょう?」

 恨めしそうに私を見るノアに私は静かに言った。

「私はね、目の前で誰かが傷ついたりしているのが嫌なだけ」

 少しでも病気、怪我で苦しんでいる人がいるのなら、自分の手で救えるものなら救いたいと思っていた。だからこそ、前世では看護師という仕事を選んだ。それが例え自分を攫った人であろうが、目の前で誰かが傷ついている。それだけで私が行動するには十分だ。

 すると、ノアは少し虚を突かれたかのように目を瞬かせていた。そんなノアの手のひらに垂らした消毒をガーゼで丁寧にふき取るともう手のひらには血はついていない。消毒もしたから清潔だ。あとは絆創膏を貼るだけだと、床に置いた絆創膏を取っていると

「あんた、やっぱり面白いな」

とノアはふっとポツリと言った。そんなノアに

「それは、褒め言葉として受け取っておくわ」

ぺりっと剥いだ絆創膏を傷口に押し付けた。

「これで大丈夫だと思うわ」

 絆創膏を一度パシッと叩いてその絆創膏に向けていた目を上に上げると

「ノア?」

ノアがどこか真剣な表情をしていた。そして、紅色の瞳に首を傾げた私の姿が映し出されている。その吸い込まれそうな瞳に何を言っていいかわからずただ黙って見つめ返すと、ノアは静かに口を開いた。

「あんたと違う形で出会っていたら、俺はあんたのこと好きになっていたかもな」と。

 薄暗い部屋の中、窓から微かに入ってくる光が私とノアの影を色濃く映し、ノアの紅色の瞳がルビーのような輝きを放っていた。
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