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ライバル令嬢登場!?

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 薄暗い部屋の中に閉じ込められて、どれほど経ったのだろう。両手足を縛られ、身動きが取れないため、身体が痛くて仕方がない。そんな中、どうにか身じろぎをして

「ノア」

私は目の前で胡坐をかいて壁に寄りかかっているネイビーブルーの髪と紅色の瞳を携えた男に呼び掛けた。彼の座っている真上に窓があり、そこから光が漏れていた。ノアはというと持っていた煙草がなくなってしまったのか、煙管をくるくると回していて、手持ち無沙汰だ。

「何だ?ロープなら、切らないぞ」
「ちっ、やっぱ駄目か」

 けれど、ノアの返答はつれない。

「あんたやっぱり変わっている。普通令嬢が舌打ちするか?それに、捕らえている身なのによく喋る」

 そして、呆れたようにノアは言った。

「それは、貴方がいい人みたいだから」
「は?」

 私の言葉にノアは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる。そんなノアに

「私が怖がらないように話してくれてるのよね?」

と首を傾げる。すると、ノアはふっと小さく笑って『俺は基本的に紳士だからな』と冗談めいて言った。

「じゃあ、このロープ――……」
「却下だ」

拘束は解いてはくれないが、それ以外特に何もされていない。そして、何よりノアとの会話は気安さがあった。

「貴方の方こそ、クライアントの情報や自分に任された仕事までペラペラ喋るなんて、お喋りは貴方じゃないの?」

 ついむっとして言うと『あんたに乗せられたんだ』と首を竦めた。そんな彼に

「それに貴女ただの何でも屋じゃなみたいだし」

私はそう言った。するとノアは右手の人差し指で自らを指し示した。

「俺が?」
「えぇ」
「どの辺が?」

 不思議そうに首を傾げるノアに

「だって、貴方、家はかなり裕福じゃない?」

私は思っていてたことを口にすると、ノアはどこか愉快そうに笑う。

「なんで、そう思うんだ?」
「その煙管と服」
「煙管と服?」

 私がノアが手にしている煙管を見ると、ノアも同じように煙管と自らの服を改めて見た。

「貴方の持っているその煙管や服、かなり高価なものじゃない?」

ノアが持っている煙管には、派手ではないが螺鈿で細かく彩色されていて、高価なものだというのが見て取れる。それにこの『ガルシア』に入ることができるのは一握りだ。本人は何でも屋だと称するがただの人がおいそれとこの街へ入ることはできないはず。つまりは、本人は何でも屋なのかもしれないけれど、親が国の中枢を担っているということ。それに身に着けている服もかなりの代物と見受けた。

この推理は我ながら自信がある。どうだとばかりにノアを見ると

「ははは!あんた、やっぱり面白いな!」
「え?」

ノアは腹を抱えて笑い出した。おまけに涙を浮かべて。

「煙管も服ももらいもんだよ」

 浮かんだ涙を拭いながらノアは言う。

「え!?そんな高価なものをポンとくれる人がいるの?」
「古くからの悪友でな。俺は、昔から振り回されているんだ」

 そう言いながら彼は煙管を見て懐かしそうに目を細めた。そんなに大切なものなんだろうか。思わず何も言えずに彼を見ていると

「推理が外れたな、名探偵。少々詰めが甘かったな」

次の瞬間にはニヤリと笑って私を見た。そして手にした煙管をくるりと回しながら。

「慰めはいいわ。自信満々に言って恥ずかしい」

私がそう言いながらがっくりと項垂れると彼は煙管を懐に入れて右の手を地面についた。その刹那

「痛っ――」

突然目の前にいたノアの顔を歪めた。

「どうしたの?」

  一体どうしたのかと移動できる限界までロープを引っ張り、ノアの傍に行き尋ねるとノアは右の手のひらを押さえていた。よくよくノアが押さえている右の手のひらを見ると何かでざっくりと切れたような傷跡があり、傷口から血が流れ出ている。

「怪我、してるの?」
「気がつかなかったぞ」

 そういって彼が地面から拾い上げたのは、小さな金属片。剣か何かの切っ先だろうか、鋭く尖っている。どうやら手をついたときに、それに触れてしまったらしい。

「いけない、消毒しなきゃ」
「消毒?こんな傷、大したことないだろ?」

 ノアはというとその傷をペロっと舐めた。

「傷をして怖いのは血が出ることだけじゃないのよ」

 私はノアに言った。対してノアは私の気迫に驚いたのか、目をパチパチとさせている。

「こんな不衛生なところで怪我を放置していたら、化膿しちゃうでしょう!」

 私は周りを見る。あまり使われていない部屋で、隅っこの方に埃が溜まっている。このままでは、傷口から細菌が入り込んで、敗血症と呼ばれる生命を脅かすような病気になってしまうのだ。たかが傷くらいでと簡単に考えていると痛い目を見てしまう。すると

「でも、ここには消毒液とかないし、俺はあんたを見張らないといけないからな」

ノアは両手を上げた。

「それは、大丈夫よ!」

 私はそんな彼に自らの太ももを見て、にっこりと笑った。
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