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ライバル令嬢登場!?
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♢ ♢ ♢
「ここにありましたか」
そういって“僕”がかがんで拾い上げたのは、“僕”の婚約者が落としてしまった花飾り。エレナの美しい黄金色の髪を彩っていたもの。それが先ほど突然吹いた風に飛ばされてしまい、拾いに来たのだ。
「夢みたいだ……」
左の手のひらに乗せてある花飾りを見て、思わず頬を緩ませた。
ずっとずっと憧れていた、そして愛おしかったエレナと過ごせる時間がたまらなく幸せだ。
今朝方、彼女の屋敷に赴き、城へ招いた。エレナに“見せたいもの”があったから。
数時間ほど前は夢でうなされていたけれども、馬車で色々な話をすると気がそれたのか顔色も幾分かよくなり安堵した。
馬車の中でエレナが見せた笑顔、感嘆したような表情、どこか恥じらうように頬を染めた顔、コロコロと表情を変える彼女は一緒に居て飽きない。むしろ、もっと色々な表情を見たいとさえ思った。
けれども
「……悲しい顔をさせてしまった」
彼女の悲しそうな表情を見たいとは思わない。先ほど彼女が見えた悲しそうな、それでいてどこか諦めたような表情が脳裏に浮かんだ。その表情を思い出すと胸の奥が苦しくなる。
エレナを苦しめてしまった原因はわかっている。
『ベル・フォーサイス』。彼女の存在だ。この国の宰相の娘。
彼女……いや、“ベル”とは、は王族と貴族が通う『ガルシア』の王立学校で10歳の時に出会った。出会った際は、さほど目立つようなタイプではなかったのだけれども、年々美しさを増していき、いつしか『ガルシアの妖精』とまで言われるようになった。
宰相の娘ということもあり、父とともによくこの屋敷に来ていたため、学校以外でもかかわることはあった。
特に、母からは気に入られており、“僕”の婚約者候補の1人であったことには違いない。だからこそ、この城を自由に出入りすることを許されていた。母としては、ベルと婚約を結んで欲しかったのだろうけれども、“僕”にはエレナがいた。もちろん、父と母との約束で、そのことをベル本人に言うことはできなかった。
だからだろう。“僕”の18歳の誕生日、ベルが“僕”に婚約を申し込んできたのは。“僕”としては、その日、やっと胸を張ってエレナを迎えに行けると思っていたのにも関わらずだ。
それまでも様々な令嬢から婚約の申し出があった。けれども、相手は宰相の娘。しかも、母のお気に入りだ。丁重に断りを入れて、他に大切な人がいるからとその場を納得させるのに10日程かかってしまった。ベル本人もその時に納得したと思っていたのだけれども……。
「誤算……でしたね」
まさかエレナの目の前で自らを婚約者であると名乗るとは。あの時はあまりにも突拍子すぎて言葉が出なかった。そして
「“僕”は、まだ貴女の中では、子どもなのでしょうね」
同時に思い知らされた。エレナに自分の気持ちがきちんと伝わっていないのだと。それにきっとエレナは自分のことは突然現れた婚約者だとしか思っていない。
だからこそ、『ただの友人』と言われたときは、本当にどうしてくれようかとさえ思った。けれど、自分に出来ることは一つだけ。“僕”は、花飾りを見つめながら、そっと自らの唇を右の親指でなぞった。
「“僕”はこんなにも想っているのに……」
エレナに気持ちを伝えるために行動するだけ。けれども、エレナは“僕”がどれほど彼女を愛しいと思っているのか知らない。
だからこそ、エレナはベルの言葉に傷ついた表情をしたのだ。ただ何も言うわけではなく、たた困ったように微笑む表情を浮かべて。そんな彼女の顔を見て、居ても立っても居られなくなった。大切で、大切でたまらないから。
“僕”の不手際のせいでエレナに悲しい思いをさせてしまった。けれども、彼女は“僕”のせいではないと、ベルの言うとおりだからと目を伏せた。その様子が何かに耐えるように健気で、“僕”は胸を打たれた。
そんな顔をさせたくて、この城に招いたわけじゃない。笑顔にさせたくて、この場所まで連れてきたのに。だからこそ、このあとは今まで以上に彼女をうんと甘やかすと決めている。“僕”のことをまだ子どもだと思っているようなら一人の男として意識してもらうように行動するだけだ。
右手で懐から取り出した銅でできた懐中時計を見ればちょうど昼時だ。彼女に見せたいものが見ることができるまでまだしばらく時間がある。上で待たせている彼女を誘ってお昼にしようかと思った時だった。
「……――っ」
右手の手のひらに痛みが走った。痛みをしたところを見れば、2cmほど赤い細い線が入っていた。どうやら懐中時計の装飾部分で擦ってしまったようだ。普段このようなことはないのに。
「エレナ――」
何故だか嫌な胸騒ぎがする。彼女が落とした花飾りを懐に入れて立ち上がった。
「ここにありましたか」
そういって“僕”がかがんで拾い上げたのは、“僕”の婚約者が落としてしまった花飾り。エレナの美しい黄金色の髪を彩っていたもの。それが先ほど突然吹いた風に飛ばされてしまい、拾いに来たのだ。
「夢みたいだ……」
左の手のひらに乗せてある花飾りを見て、思わず頬を緩ませた。
ずっとずっと憧れていた、そして愛おしかったエレナと過ごせる時間がたまらなく幸せだ。
今朝方、彼女の屋敷に赴き、城へ招いた。エレナに“見せたいもの”があったから。
数時間ほど前は夢でうなされていたけれども、馬車で色々な話をすると気がそれたのか顔色も幾分かよくなり安堵した。
馬車の中でエレナが見せた笑顔、感嘆したような表情、どこか恥じらうように頬を染めた顔、コロコロと表情を変える彼女は一緒に居て飽きない。むしろ、もっと色々な表情を見たいとさえ思った。
けれども
「……悲しい顔をさせてしまった」
彼女の悲しそうな表情を見たいとは思わない。先ほど彼女が見えた悲しそうな、それでいてどこか諦めたような表情が脳裏に浮かんだ。その表情を思い出すと胸の奥が苦しくなる。
エレナを苦しめてしまった原因はわかっている。
『ベル・フォーサイス』。彼女の存在だ。この国の宰相の娘。
彼女……いや、“ベル”とは、は王族と貴族が通う『ガルシア』の王立学校で10歳の時に出会った。出会った際は、さほど目立つようなタイプではなかったのだけれども、年々美しさを増していき、いつしか『ガルシアの妖精』とまで言われるようになった。
宰相の娘ということもあり、父とともによくこの屋敷に来ていたため、学校以外でもかかわることはあった。
特に、母からは気に入られており、“僕”の婚約者候補の1人であったことには違いない。だからこそ、この城を自由に出入りすることを許されていた。母としては、ベルと婚約を結んで欲しかったのだろうけれども、“僕”にはエレナがいた。もちろん、父と母との約束で、そのことをベル本人に言うことはできなかった。
だからだろう。“僕”の18歳の誕生日、ベルが“僕”に婚約を申し込んできたのは。“僕”としては、その日、やっと胸を張ってエレナを迎えに行けると思っていたのにも関わらずだ。
それまでも様々な令嬢から婚約の申し出があった。けれども、相手は宰相の娘。しかも、母のお気に入りだ。丁重に断りを入れて、他に大切な人がいるからとその場を納得させるのに10日程かかってしまった。ベル本人もその時に納得したと思っていたのだけれども……。
「誤算……でしたね」
まさかエレナの目の前で自らを婚約者であると名乗るとは。あの時はあまりにも突拍子すぎて言葉が出なかった。そして
「“僕”は、まだ貴女の中では、子どもなのでしょうね」
同時に思い知らされた。エレナに自分の気持ちがきちんと伝わっていないのだと。それにきっとエレナは自分のことは突然現れた婚約者だとしか思っていない。
だからこそ、『ただの友人』と言われたときは、本当にどうしてくれようかとさえ思った。けれど、自分に出来ることは一つだけ。“僕”は、花飾りを見つめながら、そっと自らの唇を右の親指でなぞった。
「“僕”はこんなにも想っているのに……」
エレナに気持ちを伝えるために行動するだけ。けれども、エレナは“僕”がどれほど彼女を愛しいと思っているのか知らない。
だからこそ、エレナはベルの言葉に傷ついた表情をしたのだ。ただ何も言うわけではなく、たた困ったように微笑む表情を浮かべて。そんな彼女の顔を見て、居ても立っても居られなくなった。大切で、大切でたまらないから。
“僕”の不手際のせいでエレナに悲しい思いをさせてしまった。けれども、彼女は“僕”のせいではないと、ベルの言うとおりだからと目を伏せた。その様子が何かに耐えるように健気で、“僕”は胸を打たれた。
そんな顔をさせたくて、この城に招いたわけじゃない。笑顔にさせたくて、この場所まで連れてきたのに。だからこそ、このあとは今まで以上に彼女をうんと甘やかすと決めている。“僕”のことをまだ子どもだと思っているようなら一人の男として意識してもらうように行動するだけだ。
右手で懐から取り出した銅でできた懐中時計を見ればちょうど昼時だ。彼女に見せたいものが見ることができるまでまだしばらく時間がある。上で待たせている彼女を誘ってお昼にしようかと思った時だった。
「……――っ」
右手の手のひらに痛みが走った。痛みをしたところを見れば、2cmほど赤い細い線が入っていた。どうやら懐中時計の装飾部分で擦ってしまったようだ。普段このようなことはないのに。
「エレナ――」
何故だか嫌な胸騒ぎがする。彼女が落とした花飾りを懐に入れて立ち上がった。
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