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ライバル令嬢登場!?
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前世は、享年27歳のアラサー看護師。そして、現世ではクレメンス家の長女として生を賜った。
そして時は流れて、いつの間にか前世で命を落とした年に差し掛かった。前世で結婚することが叶わなかった私としては、現世では結婚して平々凡々に生きたいと思っていた。けれども、人生そう上手くいくわけがなくて、結局現世では結婚適齢期を大幅に過ぎてしまった。そんな27歳の誕生日、突然現れたのが9つ下の王子様。王子様というのは比喩ではなく、正真正銘のガルシア王室の第三王子『レイ・ガルシア』と名乗る少年だった。
彼は10年ほど前に我が屋敷に迷い込んだことがある。その時に彼は怪我をしていて、前世の知識をフル活用して彼の怪我の手当てをした。その時に10年経ったら結婚してくれと願われ、子ども時代にありがちな年上の人に憧れると言った類のものだと思っていた私は、昨日『レイ・ガルシア』ことレイ君に再会するまでは、そのことをすっかり忘れていた。
10年前は私の背丈など届かない幼い子どもだったのに、今や私の背丈を軽々と越して、10年前の面影を残しながらも立派に成長した一人の少年が現れたのだ。
正直、婚約者だと言われても信じられなかった。
アラサーの私と18歳のまだまだ若い王子。当然釣り合うわけもない。アラサーの私をからかっているのか、それとも何かの罠なのかとすら疑っていたのだけれども……。
「あの顔はずるいよ……」
当の本人がいないことをいいことに座り込んだまま小さく呟いた。空を見上げれば、透き通るほど青い空が広がっている。
先ほどのことだ。レイ君の婚約者を名乗る『ベル・フォーサイス』という美少女が私の目の前に現れた。
その時に、やはりなという思いがあった。うら若い美少女と大して若くもないアラサー。誰がどう見ても本物の婚約者はベル・フォーサイスだと思うだろう。
けれども、あの時レイ君が選んだのは、うら若く美しいベル・フォーサイスではなく、アラサーである私。レイ君は『私の婚約者は『エレナ・クレメンス』、彼女だけ。お分かりいただけたでしょうか?』あの時、私を引き寄せてはっきりと彼女にそう言ったのだ。
そのあと彼女はキッと眉尻を上げて、私の痛いところをついてきた。釣り合っていないだ、婚期を逃しただ、魅力がないだの心に突き刺さる言葉ではあったが、事実だったため、何も言い返せなかった。
正直に言って、自分に自信がなかった。ただ情けなく彼女の言葉に耳を傾けて、落ち込んでいた私にレイ君は囁いた。『レナ姉は、ベル・フォーサイスよりも魅力的だよ』と。さらに、無邪気に笑ってこう続けたのだ。『だから、笑った顔、照れた顔、優しい声色、レナ姉の全てが“僕”は愛おしいんだ』と。
今まで前世も含めて、私にそのように言ってくれる人はいなかった。初めて自分の価値を認めてもらったような気がした。そんな私にレイ君は優しく笑いかけてくれるのだ。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「……ただ恥ずかしいっていうのとは違くて」
レイ君のスキンシップは男性免疫力ゼロの私には少々ハードでちょっとしたことで赤面してしまうことは多々あった。けれども、それは全て男性に慣れていないから恥ずかしくて赤くなってしまっていただけだ。
でも、あれはレイ君も悪いと思うのだ。例えば、私が移動するだけですぐに私の手を取りエスコートをしようとする。こちらは、手汗が出ていないか冷や冷やしているのに、少し移動するだけでもそっと手を握ってくるのだ。それはもう甲斐甲斐しく。それがあまりにも自然すぎて、そのたびにこちらは赤面しないようにするのに必死なのに。こちらの気も知らないで、余裕な顔をしているのが少々悔しい。きっと女性をエスコートするのに慣れているのだろう。こちらは、エスコート以前に男性に慣れていないというのに。
けれども、あの時私を守るようにベル・フォーサイスを見据えたレイ君の真剣な表情、そして落ち込んでいた私に囁いた言葉を思い出すと、頬が染まるだけでなく、心臓の音が早くなるように感じて……。この感情はまるで……。
「……なんていうか、好き?……みたいな?」
口に出してみてぼっと顔が赤くなる。
いやいやと思わず首を振った。
アラサーが何を言っている!?しかも、相手は18歳。前世でいうなれば男子高校生。華のDKだ!夢も希望もある若者に!?あとは枯れていくアラサー女が軽率に好きなどと!!
「……れ、恋愛経験がないから、きっと勘違い」
そうだ。前世も含めて、恋愛経験が乏しいアラサーが勘違いしちゃっているだけなのよ。うん、きっとそう。アラサー令嬢の私が9つも下の王子に恋をするなど分不相応すぎる。
それに、18歳のレイ君が私のことを本当に好きで婚約者を名乗っているなんて、それこそ都合の良すぎる夢だ。
「レイ君がからかっているっていう可能性もなきにしもあらずだし」
今朝の夢のようにこちらが本気にしたらポイなんてこともありうる。それに、もしかすると私はベル・フォーサイスのように婚約者面をするやっかいな令嬢の防波堤としてレイ君の婚約者を名乗らせているだけかもしれないし。今回の件で、その可能性が一番高い気がするし。じゃないとわざわざアラサー令嬢なんか婚約者にしないでしょ。
「レイ君も若い令嬢の方がいいだろうし」
それに万が一仮に、絶対にありえないけれど、レイ君が私のことが好きで、私をレイ君の婚約者にしているとして、この先のうら若い令嬢が現れたら心変わりしてしまうことだってあるかもしれない。
「落ち着くのよ、エレナ・クレメンス……」
こういうときほど物事を慎重に行動していかなければ。
もし、レイ君が私のことをからかっている場合、私が本気にするということは、それはまさしく向こうの思う壺だ。
それに、防波堤として私を使っている場合、私のこの気持ちはレイ君にとって邪魔なものにしかならない。
(レイ君は本当は私のことをどう思っているのだろう?)
ふと思うことはこのことで
「はぁ……」
思わずこぼれたのはため息だった。
とにかくこの気持ちは好きとかじゃなくて。そう!近所の年の離れた男の子が成長して急に大人になったときの戸惑いみたいなものよ。何てったって私の記憶の中では8歳だった男の子が急に18歳になって成長して現れたんだもの。戸惑って当然よ。男の子って急に成長するっていうし……。
「うん、きっとそう!」
口に出したらなんだかモヤモヤも晴れた。
――その時だった
「ふぐっ!」
背後からいきなり羽交い絞めにされたのは。必死に抵抗しても強い力で押し付けられて抗うことができない。
「んー、んー!!」
おまけに口元には布があてがわれて叫ぶことができない。
(何!?何が起こったの!?)
パニックになりながらもどうにか身をよじると背後から羽交い絞めにしていた人物が視野に入り込んで
(え!?)
私は大きく目を見開いた。
(なんで!?)
心の中でそう思った瞬間、意識がすとんと落ちていく感覚に陥る。口元に押し付けられた布に睡眠薬の類が仕込まれていたのか、意識が薄れていく。
意識を手放す前に見たのは亜麻栗色の髪とエメラルドグリーンの瞳。
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