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ライバル令嬢登場!?

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 そこは、白を基調とした豪華な作りだった。伝え聞いているガルシア王室の王宮のようだとぼんやりと思う。

「広いわね……」

辺りを見渡すと左右には階段があり、豪華なシャンデリアが部屋を照らしている。扉がいくつかあり、そのどれも豪華な装飾が施されている。見知らぬ場所ではあったが、ここはどうやら玄関ホールのようだと考えに至ったときだった。

「レナ姉」

背後から声をかけられた。いつの間に立っていたのだろうか。声が聞こえた方を振り向くとそこに立っていたのは、柔らかな亜麻栗色の髪とエメラルドグリーンの瞳を携えた少年。見目麗しいその少年はこの国の第三王子。

「レイ君」

昨日、突然婚約者を名乗った『レイ・ガルシア』が、あの日と同じように白いタキシードを着こなし立っていた。10年前、怪我をしたところを助けた男の子で、“彼”に「結婚してください」と期待するような眼差しで言われた私は、無下に断ることもできずに『10年経ったら』と告げると、その10年後ものの見事に成長した“彼”は宣言通り私の前に現れたのだ。

 そんな彼は私に手招きする。彼の元に行き、彼の目の間に立つと

「貴女に見せたい人がいます」

そういって彼はにこやかに微笑んで、なぜだか右に避けた。

「誰?」

 すると、そこにはレイ君に隠れるようにしていた立っていた美しい少女がいて、思わずぽかんと口を開ける。年の頃は、レイ君と同じくらい。少し緑がかった長い髪とブラウンの瞳の容貌は、まさに妖精と形容すべきか。けれども、何故だろう。どこかで見たような気がした。おしとやかに微笑む彼女とレイ君が並んだだけで絵になる。そんなことを思っていると、レイ君は信じられないことを口にした。

「彼女は、私の“本当”の婚約者ですよ」
「え?」

 思わず間の抜けた声が出る。

微笑みあうレイ君と彼女。見つめあう姿は、どこからどう見ても仲睦ましく……。うら若い二人はお似合いに見えた。

「もしかして、本当に私と婚姻できると思っていましたか?」

 静かに言われたレイ君の言葉に私は息を飲む。

「アラサーの令嬢ごときが、18の私と婚約できるわけないでしょう?もしかして、本気にしていたんですか?」

 立て続けに言われた言葉は、なぜだか嘲笑を含んでいる気さえする。

「私の隣に立つべきは“彼女”のような同年代の令嬢に決まっているでしょう?」

 そういってレイ君は、傍で寄り添うようにして立つ美しい令嬢の手を取った。

「嘘でしょ……レイ君」

 信じられない想いで目の前のレイ君を見るとエメラルドグリーンの瞳がわずかに細められ

「さようなら、エレナ・クレメンス」

そういって美しい令嬢の手を引き私に背を向けた。亜麻栗色の髪が遠くなっていく。

「レイ君――……!!」

 私が呼んでも“彼”は振り向きもしない。伸ばした右手は虚しく空を掴んだ。


 


♢ ♢ ♢









「……――っ!!」

 まず感じたのは、眩しさだった。ぼんやりとした視野の中、眩しい光が瞳に入ってきて瞬く。眩しさに顔をしかめながらも、だんだんクリアになっていく視界に、まず目に入ったのは伸ばした右手。そして、見慣れたクリーム色の天井。ピピピと鳥のさえずりさえ聞こえる。窓から入ってくる風が肌にあたって心地よい。

「夢?」

 どうやら夢を見ていたらしい。なんていう不吉な夢だ。顔にかかっていた髪を左右に分けた。しかし、やけにリアルな夢だったなと思いながら、ベットから身を起こす。

その瞬間――……。

「どんな夢を見ていたんですか?」

と低くおだやかな声が左から聞こえたもんだから、反射的に『婚約者に騙された夢を……』と答えそうになった。けれども、そちらを見ていいかけた言葉を飲み込んだ。

「……レイ君!?」

その声の主こそが、悪夢の中の元凶。件の『レイ・ガルシア』だということに気が付いたから。柔らかそうな亜麻栗色の髪と宝石のエメラルドのような瞳が朝日を浴びて煌めていている。彼の両手は、私の左手に添えられ、ベットの近くに置かれた椅子の上に座っていた。

「うなされていたようですが……?」

 そういって心配そうに顔を覗き込んでくるレイ君。ち、近い。

 陶器のように滑らかな肌に、整った眉。切れ長の二重を縁取る長いまつげ。見れば見るほどに、本当に整った顔をしているし、なんだかわからないがすごくいい匂いまでする……。じゃなくて……!

「もしかして、これも夢……?」

 思い至ってぽつりと呟いた。我ながら素っ頓狂な声が出たと思う。

夢から醒めたと思ったら、また夢を見ているの?なんて考えていると目の前のレイ君は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐにクスクスと左手を口元に当て肩を震わせて笑い出した。

「……あれ?もしかして、夢じゃないの?」
 
レイ君の反応でもしかして夢じゃないのかと恐る恐る尋ねるとレイ君は「えぇ」と一度大きく頷いてから

「さきほどは、どんな夢を見ていたのですか?」

 そして、首を傾げる。その顔はどこか心配げだ。うなされていた様子を見ていたと言っていたなと思いながら

「えっと……」

思わず言いよどむ。まさか『貴方に捨てられた夢です』とは言えようはずもない。だから、咄嗟に話題を変える。

「そ、それよりも!!レイ君はなんで部屋にいるの?」

 昨日、婚約者だと名乗り出てから、初めての訪問。まぁ、昨日の今日だから初めてに決まっているのだけれども。そもそも、私はあの誕生日にレイ君と再会したことすらどこか信じられずにもはや夢だと思っていた節がある。レイ君が目の前にいるということは、やっぱりあれは夢ではないわけで……。

 っていうか、冷静に考えたら間抜けな寝顔見られてた!?やばい、変な寝言は言ってない……はず。夢が夢だっただけに心配だ。混乱しかけた頭で、どうにかそれだけを言うと

「貴女に会いたくて」

レイ君はさらりと言ってのける。

「――っ……!!」

 この男はアラサーが舞い上がるようなことを何のことはないように言ってのける。アラサー人生×2の婚期逃した女の男性の耐性力を舐めない方がいい。

けれども、待てと我に返り、先ほどの夢を思い出す。もしや、これは期待させるだけさせておいて、『アラサーが何舞い上がってるんだ。滑稽だな』って嘲笑いながら裏切られるパターンのやつ!?前世のドラマとかでよくあったよね。年下の男の子が本当は若い彼女がいるのに、別の年上の女の人に貢ぐだけ貢がせといて、最後は年上の女の人をこっぴどく捨てるパターンのやつ。で、そのあと優しい年上の男性と出会って本当の恋に落ちるという……あの働く女性必見みたいな恋愛ドラマ。ただドラマと違うのは、優しい年上の男性がいないということ。オーマイゴッド。これじゃ、ただの惨めなアラサー令嬢じゃない。

 そうよ。そうじゃなきゃ、レイ君みたいな若くてイケメンな王子が私のような大して若くもないアラサー令嬢と婚約なんてするわけないわ!!やっぱり、罠だわ!!

 そんなことを思っていると

「何を考えているんですか?」
「ひゃっ!!」

と低くて穏やかな声が近くでして、ぼんやりしていたもんだからすごく間の抜けた声が漏れた。アラサーにもなって、「ひゃっ!」とか恥ずかしすぎる。年甲斐もない。見れば椅子から立ち上がり、レイ君はこちらに身を乗り出している。

 いちいち近い。これじゃ、心臓が持たないわ。まるで作り物のような美しい顔が近くにあって、顔に熱を持たない人なんているのだろうか。いや、いない。沈まれ、熱よ。心の中でひたすら唱えていると彼は何故だか嬉しそうにくすりと笑って、椅子に腰を下ろした。

 た、助かった……。心の中でほっと安堵する。そんな私にレイ君は、今度はどこかいたずらっぽく笑って、こういった。

「今日は、貴女に見せたいものがあるんです。王宮へ招待いたします」と。

 まさか……ね。一瞬、頭の中で、夢での出来事がよぎった。
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