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婚約者は年下の王子様
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♢ ♢ ♢
『……レナ姉は、心に決めた人とか……いる?』
そうかつての“彼”が何かに決心したように私を見上げたのは、私が“彼”の怪我に包帯を巻きつけているときだった。
『心に決めた人?結婚したいと思っている人のこと?それは、まだいないかな?』
私が「きつくない?」と問いかければ、「うん」と素直に首を振る。その姿が何とも愛らしくて口元を緩んだのは今でも鮮明に覚えている。
『じゃ、じゃあ!!』
包帯を巻きつけられながら“彼”はどこか興奮したように言い募る。
『“僕”と結婚してください!!』
そして、目をキラキラと輝かせる。私にもあった。そんな時期。年の離れた人がすごくカッコよく見える時期って。どう答えるべきか迷ったものの、その無邪気な笑顔を無下にするのも忍びなかった私は
『“レイ君”は8歳でしょ?まだ結婚はできないよ』
そういって窘めた。
『なんで?』
しゅんと項垂れる“彼”。う……。何だろう。この罪悪感は。
『法律で男の子は18歳、女の子は16歳にならないと結婚しちゃダメっていう決まりがあるの』
『ほうりつって?』
『この国のルールよ、ルール』
『ルール……か』
“彼”はそう呟いて何やら考えている様子。包帯を巻き終えた私は「よし!」とちょうどいい長さで包帯を切った。あとは、巻き付けた包帯が取れないように固定するだけだ。
『じゃ、じゃあ!!』
包帯の固定し終えた瞬間、考え事から脱したふうの“彼”は、真剣な表情を浮かべて
『10年間、“僕”、レナ姉のことを想い続けるから、“僕”が18歳になったら“僕”のお嫁さんになってくれますか?』
私の顔を下から覗き込んだ。大きな瞳が私の顔を映し出していた。緊張しているのか、手が震えている。幼いながらも、一生懸命に伝えようとしているのが伝わってくる。そんな震える“彼”の手の上に自らの手のひらを重ねて「じゃあ……」と切り出した。
『じゃあ、レイくんが10年経っても私のことを好きでいてくれるのなら、レイくんのお嫁さんにしてもらおうかな』
『本当!?約束だよ!』
余程嬉しかったのか座ったままぴょんと跳ねる“彼”。その時だった。
『……――レーイ!!』
“彼”の名前を呼ぶ低い声がした。
『アレン兄さんだ!』
目の前の“彼”は声が聞こえてきた方向を向いた。ちょうど、100mほど先の木の茂みに誰かがいた。どうやら、“彼”の兄のアレンという人らしい。背格好より大きく、私と同い年くらいだろうか。“彼”に気が付いたのか声の主は、こちらにヒラヒラと手を振る。
『もう、戻らないと』
そういって“彼”は立ち上がり、名残惜しそうに私を見た。
『兄さんたちに謝って、ちゃんと仲直りする』
ぎゅっと手を握りしめて。
『レイ君ならできるよ』
柔らかな髪を撫でると“彼”は、私の頬に小さな左手を添えた。
『じゃあ、10年経ったら迎えに行くね』
“彼”は去り際その言葉を残して、兄の元へ駆けていく。その間、一度も振り返ることもなく、確かにあった小さな人影と寄り添うようにあった大きな人影は、いつの間にか闇に紛れてしまった。
これから先の長い“彼”の人生、たくさんの素敵な女性と出会うだろう。きっと月日が経つにつれ、今日のことは忘れる。いつの日か、私のようにそんな時期もあったなんて思う日が来るだろう。
ザザァと木々の間を夜風がすり抜けていく。
私は、『どうか、レイ君が心の底から愛する人と結ばれますように』と光り輝く月に願った。
『……レナ姉は、心に決めた人とか……いる?』
そうかつての“彼”が何かに決心したように私を見上げたのは、私が“彼”の怪我に包帯を巻きつけているときだった。
『心に決めた人?結婚したいと思っている人のこと?それは、まだいないかな?』
私が「きつくない?」と問いかければ、「うん」と素直に首を振る。その姿が何とも愛らしくて口元を緩んだのは今でも鮮明に覚えている。
『じゃ、じゃあ!!』
包帯を巻きつけられながら“彼”はどこか興奮したように言い募る。
『“僕”と結婚してください!!』
そして、目をキラキラと輝かせる。私にもあった。そんな時期。年の離れた人がすごくカッコよく見える時期って。どう答えるべきか迷ったものの、その無邪気な笑顔を無下にするのも忍びなかった私は
『“レイ君”は8歳でしょ?まだ結婚はできないよ』
そういって窘めた。
『なんで?』
しゅんと項垂れる“彼”。う……。何だろう。この罪悪感は。
『法律で男の子は18歳、女の子は16歳にならないと結婚しちゃダメっていう決まりがあるの』
『ほうりつって?』
『この国のルールよ、ルール』
『ルール……か』
“彼”はそう呟いて何やら考えている様子。包帯を巻き終えた私は「よし!」とちょうどいい長さで包帯を切った。あとは、巻き付けた包帯が取れないように固定するだけだ。
『じゃ、じゃあ!!』
包帯の固定し終えた瞬間、考え事から脱したふうの“彼”は、真剣な表情を浮かべて
『10年間、“僕”、レナ姉のことを想い続けるから、“僕”が18歳になったら“僕”のお嫁さんになってくれますか?』
私の顔を下から覗き込んだ。大きな瞳が私の顔を映し出していた。緊張しているのか、手が震えている。幼いながらも、一生懸命に伝えようとしているのが伝わってくる。そんな震える“彼”の手の上に自らの手のひらを重ねて「じゃあ……」と切り出した。
『じゃあ、レイくんが10年経っても私のことを好きでいてくれるのなら、レイくんのお嫁さんにしてもらおうかな』
『本当!?約束だよ!』
余程嬉しかったのか座ったままぴょんと跳ねる“彼”。その時だった。
『……――レーイ!!』
“彼”の名前を呼ぶ低い声がした。
『アレン兄さんだ!』
目の前の“彼”は声が聞こえてきた方向を向いた。ちょうど、100mほど先の木の茂みに誰かがいた。どうやら、“彼”の兄のアレンという人らしい。背格好より大きく、私と同い年くらいだろうか。“彼”に気が付いたのか声の主は、こちらにヒラヒラと手を振る。
『もう、戻らないと』
そういって“彼”は立ち上がり、名残惜しそうに私を見た。
『兄さんたちに謝って、ちゃんと仲直りする』
ぎゅっと手を握りしめて。
『レイ君ならできるよ』
柔らかな髪を撫でると“彼”は、私の頬に小さな左手を添えた。
『じゃあ、10年経ったら迎えに行くね』
“彼”は去り際その言葉を残して、兄の元へ駆けていく。その間、一度も振り返ることもなく、確かにあった小さな人影と寄り添うようにあった大きな人影は、いつの間にか闇に紛れてしまった。
これから先の長い“彼”の人生、たくさんの素敵な女性と出会うだろう。きっと月日が経つにつれ、今日のことは忘れる。いつの日か、私のようにそんな時期もあったなんて思う日が来るだろう。
ザザァと木々の間を夜風がすり抜けていく。
私は、『どうか、レイ君が心の底から愛する人と結ばれますように』と光り輝く月に願った。
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