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終わりと始まりと
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♢ ♢ ♢
「友達から手紙が来ているわよ」
とある日の朝。リビングで会社に行く前にソファーに座り、1杯のコーヒーを飲みながらテレビを見ていると母は薄桃色の一枚の封筒を差し出してきた。どうやら郵便受けに荷物を取りに行っていたらしい。
「え、何だろう?」
何気なく受け取り宛先を見れば確かに私の大学時代の友人からだった。持っていたマグカップを机の上に置いてソファーから立ち上がった私はリビングの棚に向かって歩いて、その中からハサミを取り出す。ジョキジョキと綺麗に封のされた封筒を切ると、中には一枚の便箋と数枚の写真が添えられていた。
「あ、これ結婚式のときの写真だ」
「結婚式?」
「ほら、この間結婚式に呼ばれたでしょ?その時の写真」
母に写真を手渡すと母は興味津々とばかりにその写真に見入っていた。3週間ほど前この封筒の送り主である大学時代の友人の結婚式に呼ばれたときの写真だ。白いウエディングドレスを纏った友人の幸せそうな顔を見て、私もとても嬉しくなったのは記憶に新しい。そのときに一緒に撮った写真を数枚送ってくれたようだ。仕事が終わったらあとでお礼を言っておこうと思っていると
「いつになったら私も新しい息子ができるのかしら」
写真をまじまじと見ていた母が嘆くように言った。確かに私の周りの同級生たちで既婚者と独身とでは既婚者の方が多くなりつつある。
「あんたもうアラサーなんだから、そろそろいい人見つけないと」
なんて、立て続けに言うもんだから何とも罰が悪い。けれど、少しばかり反撃に出させてもらおう。
「言っておくけど、アラサーっていってもまだ27歳だからね」
晩婚化が進んでいるから、むしろ今が結婚適齢期のはずだ。
「そんなこと言っている人が婚期逃すのよ」
「まぁ、そうですね……」
母は手厳しい。仕事に一生懸命になるのは結構だけれど、いい人を見つけないとこれから先の人生うんぬんと母の小言が始まる。これでは口を開けば開くほどこちらが不利になる。
「あ!そろそろ時間だ」
腕に巻き付けた腕時計を覗き込んで、用意してあった仕事用の鞄を持って母の小言を遮ると母はジロリと私を見て何事か言いかけたが
「気を付けなさいね」
やがて諦めたかのようにそれだけを言った。
「うん、じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
いつも通りの朝。何気ない会話。それがいつまでも続くものだと勝手に私は思い込んでいた。
けれども、この直後この近くで交通事故が起きた。スピードを出しすぎてカーブを曲がり切れなかった車がガードレールに突っ込み通勤中の看護師の若い女性が1名が命を落とし、ニュースになった。その女性こそが、この私。私はこの交通事故がきっかけで27年という生涯を閉じることになった。
母の言う通り婚期を逃したまま逝ってしまったと薄れゆく意識の中で思ったのは今でも鮮明に覚えている。
そこで私の人生は終わりの……はずだったのだ。
「友達から手紙が来ているわよ」
とある日の朝。リビングで会社に行く前にソファーに座り、1杯のコーヒーを飲みながらテレビを見ていると母は薄桃色の一枚の封筒を差し出してきた。どうやら郵便受けに荷物を取りに行っていたらしい。
「え、何だろう?」
何気なく受け取り宛先を見れば確かに私の大学時代の友人からだった。持っていたマグカップを机の上に置いてソファーから立ち上がった私はリビングの棚に向かって歩いて、その中からハサミを取り出す。ジョキジョキと綺麗に封のされた封筒を切ると、中には一枚の便箋と数枚の写真が添えられていた。
「あ、これ結婚式のときの写真だ」
「結婚式?」
「ほら、この間結婚式に呼ばれたでしょ?その時の写真」
母に写真を手渡すと母は興味津々とばかりにその写真に見入っていた。3週間ほど前この封筒の送り主である大学時代の友人の結婚式に呼ばれたときの写真だ。白いウエディングドレスを纏った友人の幸せそうな顔を見て、私もとても嬉しくなったのは記憶に新しい。そのときに一緒に撮った写真を数枚送ってくれたようだ。仕事が終わったらあとでお礼を言っておこうと思っていると
「いつになったら私も新しい息子ができるのかしら」
写真をまじまじと見ていた母が嘆くように言った。確かに私の周りの同級生たちで既婚者と独身とでは既婚者の方が多くなりつつある。
「あんたもうアラサーなんだから、そろそろいい人見つけないと」
なんて、立て続けに言うもんだから何とも罰が悪い。けれど、少しばかり反撃に出させてもらおう。
「言っておくけど、アラサーっていってもまだ27歳だからね」
晩婚化が進んでいるから、むしろ今が結婚適齢期のはずだ。
「そんなこと言っている人が婚期逃すのよ」
「まぁ、そうですね……」
母は手厳しい。仕事に一生懸命になるのは結構だけれど、いい人を見つけないとこれから先の人生うんぬんと母の小言が始まる。これでは口を開けば開くほどこちらが不利になる。
「あ!そろそろ時間だ」
腕に巻き付けた腕時計を覗き込んで、用意してあった仕事用の鞄を持って母の小言を遮ると母はジロリと私を見て何事か言いかけたが
「気を付けなさいね」
やがて諦めたかのようにそれだけを言った。
「うん、じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
いつも通りの朝。何気ない会話。それがいつまでも続くものだと勝手に私は思い込んでいた。
けれども、この直後この近くで交通事故が起きた。スピードを出しすぎてカーブを曲がり切れなかった車がガードレールに突っ込み通勤中の看護師の若い女性が1名が命を落とし、ニュースになった。その女性こそが、この私。私はこの交通事故がきっかけで27年という生涯を閉じることになった。
母の言う通り婚期を逃したまま逝ってしまったと薄れゆく意識の中で思ったのは今でも鮮明に覚えている。
そこで私の人生は終わりの……はずだったのだ。
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