甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

Love gauge:10 甘過ぎるお仕事

＊8＊

───キスしちゃう──！？え！？だってゲームでは壁ドンされて顔を近づけられるだけなのに！？

慌てて離れようとした瞬間、若泉さんとの間に空間が生まれたのがわかった。彼はスッと私から離れ、キーボードを叩き始めた。

───私とこういうことしても、まったく何も感じないのかな・・・そうだよね、仕事だもんね。

なんだかホッとするような寂しいような複雑な気持ちだったが、その後、若泉さんが翻訳した壁ドンシーンは胸がキュンキュンする素晴らしい翻訳で、修正点は見当たらなかった。

会社で見ていた若泉さんの翻訳からはいつも『いいものを作りたい。』という熱い想いが伝わってきていたけれど、実際に彼が翻訳する姿を見るとその想いは更に強烈に、迫るように伝わってきた。特に今回は気が進まないジャンルの翻訳ではあるが、どんな手を使ってでも満足のいくものを作り上げなければと必死にもがいているのを感じる。

私は最初は『コーディネーターになる為に、なんとかこの仕事を乗り越えよう。』みたいに思ってしまっていたけれど、若泉さんの隣で仕事をすることで本来思っていたような『この作品を世界の人に届けて楽しんでもらいたい。』という気持ちを取り戻していった。

そして出来れば若泉さんにも『楽しむ』というところまではいかなくても、苦しまないで翻訳をしてもらいたい。

その為にならこの100%ビジネスの恋愛シミュレーションを続けてもいいのではないか。そんな風に思っていた。

この後段々と『100%』のパーセンテージが減っていくことになるなんて、この時の私は考えもしなかったのだ。