2月31日 ～少しずれている世界～

2月29日(火)

＊6＊

「そんな・・・！」

「でもそいつは母親のことが好きだし、腹の中の子どもに罪はない、何より人の命を救う医師である自分には命を奪うことは出来ない。だから2人で遠くの世界に行こうと、パラレルワールドに行く為の装置を起動した。」

「もしかしてそれ、そのお医者さん本人に聞いたの・・・？」

風凛くんは頷いた。

「その装置を写真で見たけどポータブル電源みたいな見た目のものだった。事前にてんとう虫で実験をしたことがあったらしく、そこにいたてんとう虫が一瞬消えて、同じ姿の虫がまた現れたらしい。白衣の男達の研究によると、それが世界で初めてのパラレルワールド間での生物の移動だったらしい。」

「それで、その装置を使って、風凛くんのお母さんと風凛くんはそのお医者さんとあっちの世界へ行ったんだね。」

「ああ。でも俺を産んですぐ母親は自分が別の世界に来たことを知らずに亡くなった。医者は病院を辞めて研究医になった。パラレルワールドの研究は辞めて装置も壊し、母親が患わずらっていた病気の治療法の研究を続け、新しい治療法を確立したんだ。こっちの世界にはまだない治療法だ。今回俺より少し前にこの世界に戻ってきている。近々学会で治療法を発表する予定だそうだ。それから母親の遺骨も少し後にこっちの世界に戻ってくる。」

「そうだったんだね・・・じゃあ、こっちの世界で私と付き合っていた風凛くんは・・・。」

「そう、あいつが元々あっちにいた橘たちばな風凛。ここに来る時、世界の狭間・・・っていうのか？あそこですれ違った。あっちの叶未と会えるからだろうけど嬉しそうにしてた。」

───あっちの私・・・。

4年前、彼女は元の世界に戻ってからどうしていたのだろう。もしかして風凛くんと復縁したのだろうか。さっき私と離れた寂しさがあったとは言ってくれていたけれど、この4年の間誰とも付き合っていない、とは言っていない。