2月31日 ～少しずれている世界～

3月14日(土)

＊8＊

二人が近づいてきてすれ違う。ここでは体を動かさなくても、スーッと空間の中を移動していくのだ。

しゃがんでいるのは白衣を着た女性で、私が一緒にいる男性に会釈をし、彼も会釈を返す。綺麗な女性だが髪や白衣が乱れていて、疲れきった様子なのが気になった。そして寝転んでいるのは・・・。

───私じゃない私・・・！

顔は涙でぐちゃぐちゃで、髪や洋服も白衣の女性よりも更に乱れていた。

「元の世界に帰るのが嫌で激しく暴れられたそうで手に負えず、鎮静剤を打ったとのことです。」

白衣の男性が説明してくれる。

───その気持ち、わかるよ・・・。

心から愛した人と離ればなれになって二度と会えなくなる。こんなに辛いことがあるだろうか。

私の場合は田淵くんが録音していた白衣の男性と茉結の会話を聞いていたので、いつか自分も元の世界に帰らなくてはならないことを知っていたけれど、彼女のところには急にお迎えが来たのかもしれない。

───あの私は風凛くんと同じ世界にいられるんだな・・・。

私が移動した先の世界で出逢って結ばれた風凛くん。彼は彼女とは別れると言っていたけれど、復縁することもあるかもしれない。他の誰かと結ばれるくらいなら私ではない私との方がいいように思うけれど、やはり複雑で嫉妬してしまう。彼女とミコトくんとのこともあるし。

でも考えてみれば、彼女が目覚めたら私に対して同じ感情を持つことになるのだ。

───記憶ってどうなるんだろう。消えちゃうのかな・・・。

消えないでほしい、風凛くんとの思い出を宝物として大切にしながら生きていきたい、という気持ちだが、どんなに想ってももう会えないのなら、記憶がなくなれば苦しむこともない、と考えていることも事実だった。

記憶が消えるのかどうか白衣の男性に聞こうとして気づいた。

───き、消えていってる！服が！