冷たい彼と熱い私のルーティーン

希花 紀歩

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久しぶりに遅くまで残業をしていると、使っているシステムがおかしくなった。市販のシステムに会社独自のアドインを加えているので、ネットで調べてもわからなくて焦っていると、突然『どいて。』と声がして、振り向くと春野さんがいた。

椅子をコロコロ転がして席を空けると、彼はスクリーンに見慣れないウィンドウをいくつも表示させ、目にも止まらぬ早さでキーボードを叩いてなんらかの作業をしていた。そしてシステムが正常に動くのを確認すると、椅子を転がして自席に戻った。

「・・・ありがとうございました。」

その背中に声をかけたが何も返って来なかった。作業に戻ろうとすると『・・・足りないな。』という小さな声が聞こえた。

お礼が足りないという意味かと思って、『すみません。自販で飲み物買ってきます。何がいいですか?』と聞きながら、お菓子もあったなと引き出しを探っているとその手を掴まれた。

驚いて振り向くと、唇に何かが触れた。それが春野さんの唇だと気がつくのに時間はかからなかった。

「・・・最近、あんたが足りないんだ。春になったのに前より寒い気がする。」

切なげにそう言う彼をどうしようもなく愛おしく感じてしまって、自分の手を掴む彼の手にもう片方の手を重ねて『私も。』と言った。暖かくなって静脈認証が出来るようになったとはいえ、彼の手はやはりまだ冷たかった。

「相変わらず冷たい手。」

「・・・じゃ、これからもずっと温めて?」

「・・・しょうがないな。」

そう言った私の唇を再び春野さんの唇が塞いだ。手は冷たいのに、彼の唇は温かくて、舌は熱かった。
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