辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三

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第一章 幼少期編

57.父の帰還②

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「アルフォンス、国を持ってみる気はないかい?」

「……国、ですか?」

 皇子の言葉が理解出来ず、俺はオウム返しに答える。

「そうだ。私も父上から聞いた時は正気を疑ったけどね。でも話を聞けば、なるほどうまいことを考えるものだと感心したよ」

「はぁ……」

「テイルフィラー領とブリオン王国の間に存在する魔の森。ここに新たな国を立ち上げるんだ。差し詰めダンジョン王国と言ったところか。実は以前からこの場所に街をつくる話は出ていたんだよ。ダンジョンは危険な場所だが、その恩恵も計り知れないからね。しかし立地的に帝国が勝手に開拓する訳にもいかなくてね」

 確かに魔の森は厄介な場所であると同時に、ブリオン王国とジャパニル帝国の緩衝地帯でもある。
 そこに街を開こうとすれば、王国からの介入は避けられないだろう。
 そうなれば魔物と敵兵の両方を相手取らねばならず、被害も甚大になる。

「でも君が国を開くのであれば、両国にとって悪い話では無いはずだ。君は既にブリオン王国の第一王女と婚約している訳だからね。これで僕の妹を娶ってくれれば、君は両国の懸け橋になると言う訳だ」

「え、妹って……」

「まぁそんな細かいことは気にしなくていい。普通これだけでは実現は難しいけれど、君には魔法契約という力がある。この力のおかげで、心情的にも実情的にも中立国家を立ち上げることが可能になる訳だ。君が冒険者ギルドを立ち上げようとしているのも都合がいいね。冒険者に国の出入りを自由にしてやれば、ダンジョン王国にはたくさんの人材が集まってくるだろう。そしてその恩恵を、両国は受けることが出来ると言う訳だ。どうだい、中々よく出来た話だろう?」

「は、はぁ……」

 皇子の捲し立てる様な話に、俺はただただ相槌を打つことしか出来ない。

「とはいえ、これはかなり長期的な計画になるだろうね。先ずは君と魔法契約書、それから冒険者ギルドの存在を両国に浸透させねばならない。君が国を立ち上げることに関しては父が言い出した事ではあるけれど、不満の矛先はきっと君にも向かうだろう。そこで君にはもっと実力を付けてもらい、冒険者ギルドの存在を確固たるものにし、魔法契約書の有用性を知らしめて貰う必要がある。中々先の長い話だ」

 確かに、すぐにどうこうと言う話ではないのだろう。
 しかしーー

「でも、どうだい? 中々ワクワクしてくる話ではないかな?」

 俺の心を見抜いたように、ニヤリと笑いながら俺に悪戯な笑みを浮かべる皇子。
 皇子の言う通り、正直ワクワクしている。
 今までは只々父さんの為に頑張ろうと漠然と進んできたけれど、今度は俺の国を持てると言うのだ。
 これでワクワクしないなんて嘘だろう。

「……でも、何故急にそんな話を私に?」

「ははは。反乱なんて言うものはね、力の矛先を向ける先がない者が起こすものなんだよ。教会の目を気にしながら君を抑え込むよりも、国を立ち上げさせ、それを援助する方がよっぽど有益だと父上は考えたのさ。もしダンジョン王国が出来ればその恩恵も計り知れないからね。ただこれはしばらくの間は発表しないし、表立っての支援も出来ない。先ずは反対意見を出来るだけ少なくする為に、君の実績を残さないといけないからね」

「実績……」

 俺のつぶやきに、皇子が頷いて答える。

「そうだ。先ずはテイルフィラー領で冒険者ギルドを立ち上げ運営して貰う。そしてそれをモデルケースとして帝国領内やブリオン王国領内にもそのノウハウを広げて貰うつもりだ。そこまでいけば、君の存在も無視は出来ないくらいにはなっている事だろう。その間に実力も勝手についていくだろうしね」

「えっと……」

「この冒険者ギルドについての案は、殆ど君が決めた事なんだろう? 父親に華を持たせるのもいいけれど、今回の騒動はそれが原因だと言うことも忘れてはいけない。人は過分な力には溺れてしまうからね」

「……私はそうじゃない、と?」

「さぁ? それはこれからの君次第じゃ無いかな? まぁどちらにせよ、冒険者ギルドの代表は君がやるべきだろうね。二人はどうかな?」
 
 そう言って、祖父と父さんに尋ねる皇子。
 二人も黙って頷いて応える。
 まぁここで皇子に逆らう意味はないか。

「よし、では次だがーー」

  ーーコンコン

 とその時、皇子の言葉を遮るようにして、扉が叩かれた。
 話を遮られ、少しムッとする皇子。
 しかしすぐに気を取り直し、“入れ”と外の者に声を掛けた。

「失礼します」

 入ってきたのは先程廊下ですれ違った赤髪の男。
 父さんの弟である、ガリウス=テイルフィラーその人だった。
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