辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三

文字の大きさ
上 下
58 / 64
第一章 幼少期編

55.半年後

しおりを挟む
 共有スキル習得時の水魔法の熟練度を7,310から1,310に変更致しました。
 よろしくお願い致します。


◇🔶◇🔶◇


 黒鬼隊との訓練開始から、半年が経過した。
 俺たちはあれからほとんどの日々を地獄の様な訓練に費やした。
 始めはつらかった訓練だが、月日が経つにつれ次第に頭が麻痺していき、今では魔物を倒していないと不安を感じてしまう程に成長した。

 半年の間で、父さんや母さんの方でも色々と動きがあったようだ。
 母さんは何度かブリオン王国とテイルフィルを往復し、王国との調印の準備を順調に進めている。
 途中ヒルデガンド王女がお忍びでやってくるなどのハプニングもあったが、特に大きな問題は起きてはいない。

 問題なのは父さんの方だ。
 各ギルドとの連絡を順調に進めていた父さんだったが、三か月ほど前に急遽帝都へと向かってしまったのだ。
 なんでも父さんが保険にと準備していたことでトラブルが起き、辺境伯であるお祖父様から呼び出しを食らったらしい。
 父さんはしきりに大丈夫だ、問題ない。と繰り返していたが、その言葉が余計に俺を不安にさせる。
 まぁ本当にダメな時は流石に相談してくれるだろうから、そちらは父さんに任せ、俺は魔物を倒す日々に集中することにした。

 そして先日ブリオン王国との調印の準備が粗方終わり、後は父さんの帰還を待つのみとなった現在。
 俺たち一行はテイルフィル領都から最も近くに位置する、小規模ダンジョンに潜っている。

「ブモ゛ォォォッ!!」

 洞窟の様な形状のダンジョンの最奥に位置するこの広場で、ハイオークと呼ばれる二足歩行の猪の魔物が雄たけびを上げる。
 二メートルを超える身長に丸太の様な強靭な筋肉で身を包み、血走った目で俺たちを威嚇するハイオーク。
 そのハイオーク、一回り小さな通常のオーク達が取り囲む。

氷槍アイスランス!」

 戦闘開始直後に、俺が氷魔法上級である氷槍アイスランスを放つ。
 咄嗟に避けようとするハイオークだが、周りのオーク達に下半身を取り押さえられて身動きを封じられる。
 そして――

「ブモォォッ!?」

 一メートル程の氷の槍が、ハイオークの右肩を貫いた。
 痛みに喘ぐハイオークだが、それでも拘束から逃れようと取り囲むオーク達に殴りかかる。

「……ダブル風矢ウインドアロー

 ソフィーネの詠唱のあとに、突如ハイオークが自分の顔を抑え始めた。
 どうやらソフィーネが放った二本の風の矢が、ハイオークの両目を射抜いたようだ。
 眼球を潰すには至らなかった様だが、余りの激痛に悶え苦しむハイオーク。

氷結拘束アイスバインド!」

 痛みで動きが鈍くなったハイオークの顔面と両手を、氷の塊で包み込む。
 即死はまずしないだろうが、これでしばらくの間動きは封じれるだろう。

「ライム! 今だ!!」

 オークに変身したライムたちがハイオークを引き倒し、そのままスライムに変身してハイオークを包み込む。

 ――シュゥゥーー。

「グモォォォッ!!」

 体中を消化され、ハイオークの頭部を包み込んだ氷塊からくぐもった叫び声が聞こえてくる。
 必死に足をばたつかせるハイオークだが、何重にも取り囲んだスライムが離れることはない。
 そして次第に動きが鈍くなり、遂には叫び声も聞こえなくなった。

「よしっ、任務完了! お疲れ、ソフィ、ライム」

「……完勝」

「ブモォォ!!」

 先ほど風矢で綺麗に目を潰したソフィーネがドヤ顔を決める。
 吸収したばかりのハイオークに変身したライムも、嬉しそうに雄たけびを上げた。

「あのー、俺の出番が一切なかったんですが……」

 喜びを分かち合う俺たちの横で、悲しそうに呟くジャックス。
 ジャックスには、万が一ライムたちの拘束が外れた時の為に待機してもらっていたのだ。
 ただ、余りに作戦が上手く行き過ぎて出番がなかったのだが。

「まぁ仕方が無いよ。ライムたちの拘束と、ソフィの攻撃がバッチリ決まったからね」

「……ふふん、余裕」

 狙い通りに攻撃出来たのが余程嬉しかったのか、ソフィーネが珍しくニヤついている。
 ソフィーネはこの半年、ひたすら魔力の操作を特訓していた。
 魔力視と不可視の風魔法という利点を生かし、先ほどの様にピンポイント同時攻撃を極めるためだ。
 まだ上級には至れていないが、努力の甲斐あって二本同時発現と同時操作が出来るまでになっている。
 まだまだ制御が甘い時もあるが、先ほどの様に綺麗に決まると効果は絶大だ。

「ブモブモォ」

 ハイオーク姿のライムが、ジャックスの肩を叩き励ます。
 ライムもこの半年でかなりの経験値を積み、動きの切れが増している。
 今では分身を五体作っても、通常の個体と変わらない動きが出来るほどだ。
 ライムは本体の魔石が破壊されない限り死ぬことはない。
 だから、どれだけ高性能な分裂体をたくさん作れるかがこれからも課題となっていくだろう。

「くっそー……はぁ、俺ももっと身体強化魔法極めよう……」

 そう言って落ち込むジャックス。
 彼もこの半年の特訓でかなり力はついている。
 ただ他と比べると盾役と言う事で正直地味だ。
 どれだけ攻撃に耐えられるかという、マゾを極めに走っている。
 
「まぁまぁ、そんな落ち込まないでよ。実際どれか攻撃が外れてたら、ジャックの盾が頼りだったんだから」

「そう……ですよね。俺、役に立ててますよね」

 自分に言い聞かせるように呟くジャックス。
 実際彼がいないと安心して魔法を打ちこめないのは事実なのだ。
 だが俺たちの魔法の力がつくことで、盾役の見せ場が減っているだけで。
 これから上を目指すなら、彼の様な存在は不可欠だろう。

 因みに俺は、軍団長の協力もあり契約魔法と共有スキルの熟練度が順調に上がってきている。
 契約魔法の熟練度は九千を超え、一万を目前としている。
 そして熟練度が二千を超えた際、二つ目の共有スキルを選べることが発覚した。

 加えて、スキルの付け替えも何故か出来る様になっていた。
 以前は出来なかったのに何故だろうと色々試してみた結果、スキルを付け替えるためにはある程度時間を置かなければならないことがわかった。
 一度スキルを共有すると、そのスキルを解除するには三十日ほど時間を置かなければいけないらしい。

 現在共有できるスキルは最大で九つだが、簡単に取り換えが出来ないことを考えて共有しているのは六つだけ。
 最初に選んだ『水魔法』、汎用性の高い『魔力消費軽減』と『精神力消費軽減』、回復魔法を使える『光魔法』、ライムに乗って移動するための『騎乗術』、そしてソフィーネに勧められた『魔力視』だ。
 ソフィーネ曰く、魔力視があると魔法の操作に役立つし、ダンジョンでも色々と役立つとのことで選んだのだが、実際その効果は中々に凄い。
 ダンジョンでは時折罠が仕掛けられていることがあるのだが、大抵が魔力を帯びているため見破ることが出来るのだ。
 またサーモグラフィーの様に魔物を感知出来るため、暗がりでも不意打ちを受けずらい。 
 魔法への応用はまだまだ発展途上だが、かなり有用なスキルには違いないだろう。
 
 因みにそれぞれの共有スキルレベルは、水魔法と光魔法が3で、魔力視と騎乗術が2、魔力消費軽減と精神力消費軽減は1だ。
 軍の中でスキル持ちと思われる人数は三割程で、属性魔法スキルはその三分の一以下らしい。
 とりあえず属性魔法スキル持ちの人を中心に選んでもらい契約を交わしているのだが、レベル3が二割でレベル2が八割程の為、劇的に共有スキルレベルが上がることはなかった。
 ラザート隊長のようにレベル4に至っているのは数名しかいないようだ。

 軍団長のおかげで現在七百名ほどの属性魔法スキル持ちの人と契約を交わすことが出来たが、軍からかき集めても多くてもう二千人がいい所だろう。
 魔力視や騎乗術スキル持ちの人とも何人か契約出来たが、属性魔法スキル以外は種類が豊富過ぎて各人数がかなり少なく思う様にレベルは上がっていない。

 精神力消費軽減は、属性魔法スキル持ちの中に偶々紛れていたスキルだ。
 父さんが持つ魔力消費軽減の精神力バージョンで、魔法を操作する際の精神的負担が軽減されるようだ。
 確かに多少魔法の操作が楽にはなったが、レベルが低いためかそれほどの違いは感じられない。
 低レベルな有能スキルより、高レベルな凡庸スキルの方が効果は使い勝手は良いのかもしれないな。

 ステータスと言語理解の熟練度も積極的に上げているが、どちらもレベル3には至っていない。
 ただ言語理解の方は魔物に変身したライムと話すことで比較的早く上がるようで、熟練度も折り返しの五千を越えている。
 この調子で熟練度を上げれば、魔物と話せる日も近いのではないかと密かに期待しているところだ。

 そんなことを考えていると、影から俺たちを見守っていたラザート隊長と黒鬼隊の人たちが姿を現した。

「皆さん、お疲れ様でした。ハイオークも問題無く倒せるようになりましたし、今の皆さんであればそこらの雑兵に負けることはまず無いでしょう」

 ラザート隊長の言葉に、俺たちは顔を見合わせニヤついてしまう。
 このダンジョン探索は、この半年の訓練の節目として用意されたものだ。
 無事クリア出来たと言う事は、とりあえず目標としていた水準には達したと言う事だろう。
 
「とは言え、皆さんの実力はまだまだ未熟です。しばらくの間は引き続き皆さんの護衛に当たらせて頂きますので、これからもよろしくお願いしますね」

 隊長の言葉に、緩んだ顔が引き攣る。
 ジャックスとソフィーネも、ゲンナリした顔を隠しもしない。
 一方黒鬼隊の人達は、俺たちの顔を見てニヤニヤと楽しそうに笑っている。
 お互い、感情を正直に見せ合うくらいには仲良くなれた証拠だろう。
 この半年で一番の収穫は、この黒鬼隊の人達と絆を深められたことだな。

「ブモブモ」

 と俺が感慨に耽っていると、ライムが何かを差し出してくる。

「おや、これは珍しい。転移プレートですか」

 そう言って、ラザート隊長がライムから一枚の金属版を受け取った。
 ダンジョンの魔物は、倒すとこうして魔道具を落とすことがある。
 ダンジョンの魔物は討伐すると体が霧の様に霧散するのだが、魔石と体の一部、そして時折こうして魔道具やポーション類をドロップすることがある。
 ライムの魔力集めの為に魔石と体は吸収させてもらっているが、魔道具類がある場合はこうして残すようにお願いしているのだ。

「転移プレートって、確かダンジョン内を移動できるんでしたっけ?」

 ジャックスが思い出す様にして隊長に尋ねる。
 この半年間、俺たちは隊長から戦い方以外にもダンジョンについて色々と学んだ。
 この転移プレートも、以前教えてもらった物の一つだ。

「そうですね。このプレートに魔力を流せば、使用者と使用者の体に触れている者をドロップした階層に移動することが出来ます。このプレートの色から見るに、これは六人用でしょう」

 彼の言う通り、転移プレートは人を転移させる魔道具だ。
 しかし好きな場所に行ける訳ではなく、魔物がドロップした階層のランダムな場所に転移するというとても限定された能力しかない。
 一応ダンジョン外からも転移出来るため都市間の長距離移動に利用出来なくも無いらしいが、その場合だと魔力の消費量が各段に上がってしまうため現実的では無いらしい。
 
 魔道具は魔力を消費して稼働するのだが、その燃料には魔石が使われる。
 魔道具に魔石を押し当てることで魔法陣が発現し、魔力が勝手に吸われていくのだ。
 転移プレートは同じダンジョン内での移動であればそれほど魔力は消費しないため、ラザート隊長たちはよく利用しているらしい。 
 貴族の中には緊急時の避難や移動の為に魔石をつぎ込み魔力を溜めてお守り代わりに持っている者もいるらしいが、移動先が魔物の跋扈するダンジョンであり、フロアのどこに飛ばされるか分からないため、使用する人はほとんどいないのだとか。

「ここの様な小規模ダンジョンだと利用するまでもありませんが、緊急避難用に所持していてもいいかもしれませんね」

 そう言って、ラザート隊長が転移プレートを俺に差し出した。
 当分の間魔石は全てライムに与える予定だからもらっても仕方が無い気がするが、一応記念としてもらっておくとしよう。



◇◇◇◇



 ダンジョンから出て、近くの野営地に向かう俺たち一行。
 始めの頃こそ黒鬼隊全ての人員が俺たちの護衛についていたが、今では半数以上がこういった野営地の管理や周辺の魔物の間引きなどを行ってくれている。
 そんな彼らだが、今日はなんだかいつもと違い騒がしい。
 何かあったのだろうか。

「あっ、隊長! お疲れ様です! フィリップ様が帝都から帰っていらしたそうで、すぐにテイルフィルへ戻るようにとのことです!」

 なるほど、父さんが帰ってきたからその準備をしていたのか。
 ジャックスとソフィーネも、いよいよかと顔を引き締める。
 特に二人が活躍する様な事態にはならないと思うが、最後まで何が起こるか分からない。
 俺も気を引き締めて帰るとしよう。


しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ・更新報告はXにて。
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...