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第一章 幼少期編
44.医薬ギルド
しおりを挟むテイルフィラー領にあるいくつかのギルドの内、最も規模が小さいギルド。それが医薬ギルドだ。
その理由はいくつか挙げられるが、最も大きな原因が光魔法にある。
外傷などの怪我に関しては、そのほとんどが治癒魔法で解決してしまう。
だから医薬ギルドが関わるのは主に病気に対してなのだが、その病気ですらダンジョンから産出されるポーションである程度解決してしまうのだ。
ポーションもかなり高価で貴族や上流階級しか手に入れられないし、子供が服用すると状態が悪化してしまうことが多いので使用できないなどの制約があるため、かろうじてギルドとして残ってはいるが……。
一応ギルドとして歴史は長いため、研究もある程度進んでおり全く役に立たないと言う訳ではない。
しかしその歴史故か、調薬レシピも門外不出で弟子入りしないと学ぶことが出来ないし、材料となる薬草類が魔の森やダンジョンなどでしか手に入らず、栽培も困難な為どうしても高価になってしまう。
そのため庶民には手が中々手が届かず、流通量がかなり小規模になってしまっているのだ。
しかし医薬ギルドに所属するも者は元々研究肌が多く、流通等に無関心な者が多い。
管轄しているダヴィンロード男爵家も例外ではなく、研究を縮小されないために代々男爵の地位を保持している様な変わり者らしい。
そんな変わり者の男爵をこちらに引き込むために、父さんたちといくつか策を練り男爵に打診をしたのだが……。
「うーむ、まさか断られるとは思わなかったな」
「うん、予想以上に変わった人だったね」
そう言ってうな垂れる俺とフィリップ父さん。
男爵へこちら側へ賛同してもらう為に用意したのは、俺の地球での知識だ。
薬に関してはそれほど詳しいわけではないが、人体の構造や細菌という概念等の常識的な知識は提供出来る。
その情報の対価としてこちらを支持してもらうよう打診したわけだが……見事に振られてしまった。
理由としては、まず権力争いに巻き込まれたくないと言う事。
ダヴィンロード男爵はやはり権力に興味はないらしい。
だからどちらが当主になろうと、自分は研究を続ければ問題ないという立場で中立を通すつもりの様だ。
確かに医薬ギルドは規模は小さいとはいえ、無くてはならない組織だ。
辺境伯領としてもそれを潰すことは出来ないから、彼の選択は間違ってはいないだろう。
それよりも下手に介入して、研究から遠ざけられることを嫌ったようだ。
もう一つの理由としては、俺の知識が彼にとってそこまで魅力的では無かったと言う事か。
彼は研究者で、その研究の過程が大好きなのだそうだ。
自ら答えにたどり着くのが大切なのであって、答えを最初から用意されることに余り魅力を感じなかったらしい。
研究者なら未知の知識などは涎ものだと思ったのだが……当てが外れてしまった。
まぁ断られたとはいえ、会談の前に秘密厳守の契約を交えたから口外される心配は無いのだが……。
ただ、全く取り付くしまが無かったわけではない。
「薬草の安定供給か……」
父さんが男爵の示した条件を呟く。
現在薬草は、その知識を持つ医薬ギルドのギルド員が直接採取に赴いている。
しかし生育場所には魔物が常に跋扈しているため医薬ギルド員だけで向かう訳にはいかず、護衛として軍や傭兵ギルドを頼っているのが現状だ。
軍への護衛の依頼は定期的に行われている。
薬の調達は領としても必要なことではあるから、断る訳にはいかない。
しかし護衛となると普通の討伐よりも難易度は上がる。
だから割かれる人員が、ある程度熟練した軍員になる。
結果として、掛かる軍費が割高になってしまうのだ。
魔物の間引きを兼ねようにも、医薬ギルド員が同行するためどうしても歩みは遅くなるし、薬草を採集しながらになるため余計に範囲は狭くなる。
軍人が薬草採集も兼ねられればいいのだが、軍人としてのプライドから薬草採取をさせられることに対して反発が予想されるらしい。
この感覚は正直俺には分からないんだが……どうやら軍人は戦闘を主とするものという固定観念があるらしい。
傭兵ギルドの場合はもっとひどい。
傭兵ギルドのギルド員は、基本荒くれ者ばかりらしい。
戦いを主としていることは軍と一緒だが、軍に比べて規律はかなりゆるい。
犯罪を起こさないなどの最低限の規律はあるらしいが軍と比べれば雲泥の差だし、武力を持つだけに脅迫まがいのことも横行しているらしい。
元々荒くれ者を国の管轄下に置き、戦争の際に使い捨てに出来る武力を用意するために設立されたのが傭兵ギルドだ。
だから規律など有って無いようなものと考えている者が多く、軍との仲も最悪だ。
軍より安価で利用できるメリットはあるが、柄は比べるべくも無い。
薬草採集をさせるなんて以ての外だろう。
「まぁこれはすぐにどうこう出来る問題ではなさそうだな。ダヴィンロード男爵のご機嫌を取るために臨時で護衛を増やして、今だけ薬草を安定供給しても意味は無いだろうし……アルは何かいい方法は無いか?」
「うーん……無くは無いんだけど、これもすぐには実行出来そうにないんだ。色々と調べてみたいこともあるし……」
「ふむ……とりあえず、どんな案なのか聞かせてもらおうか」
「うん、僕の国に実際存在してた訳じゃないから上手くいくかは分からないんだけど、冒険者ギルドって組織があってねーー」
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