辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三

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第一章 幼少期編

43.ガーディン準男爵

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 俺が初めて奴隷を手に入れてから一か月後。
 ブリオン王国からの使者と、秘密裏に会見の場がもたれることとなった。
 
「では、ブリオン王は我々の提案を受けて下さると言う事でよろしいのかな?」

「はい。細やかな条約につきましてはこれから順次お話させていただくことになりますが……リドリアーヌ様の御提案に王以下主だった家臣らも前向きな姿勢を見せております。正式な調印はまた折りをみて、ということになりますが……」

 フィリップ父さんの疑問に、ブリオン王国から使者が汗を拭いながら答える。
 非公式な会見ではあるが、内容が内容だけにかなりプレッシャーを感じているようだ。

「あぁ、問題ない。これからも色々と苦労を掛けると思うが、よろしく頼むよ」

「は、はい! こちらこそ宜しくお願い致します」

 ガリウス側にこちらの動きを悟られぬ様、会見の場はセナン街道に設置されている帝国と王国のセナン砦で行われることになった。
 そのためブリオン王国からのこの使者も、ブリオン新兵に扮した二十歳くらいのかなり若目の者が選ばれている。
 秘密を守るためとはいえ、この年でこんな大役を背負わされるとは……可哀そうに。
 まぁ使者とは言っているが、今回の条約の大筋はほぼ決まっているから、この人はただのメッセンジャーなのだろう。
 互いに無茶な要求はせず、スムーズに話を進めましょうという向こうの意思表示なのかもしれない。

「はっはっは、使者殿もこんな大役を背負わされるとは災難だのう。まぁあまり肩肘張らずに気楽にすればよいと思うぞ」

 二人の話が纏まったところで、同席していた一人の男性が声をあげた。
 豪快な笑い声とともに、使者の背中をバンバンと叩くこの無遠慮な男性。
 褐色の短髪と厚い筋肉に身を包むこの人は、ここテイルフィラー領の軍の団長、マクセル=ガーディン準男爵だ。

「マクセルさん、非公式とはいえ王国からの使者に対して余り失礼なことは控えて下さいよ」

「む? あぁこれは失礼をした使者殿」

「い、いえ、私は気にしておりませんので……」

「だ、そうだぞフィリップ」

「はぁ……」

 体を小さくしながら答える使者の対応に、ニヤリとしながら父さんを見るガーディン軍団長。
 そんな軍団長に、ため息をつきながら頭を痛めるフィリップ父さん。
 軍団長のおかげで、辺境領対王国の会見とは思えない程フランクな空気になってしまっている。

 今回この砦を会見の場に選んだのは、軍団長との密約を交わすためでもある。
 この会見の前に父さんと軍団長を交えて密談がなされ、すでに契約書を用いて契約を終えている。
 元々軍団長は父さんを支持していた様だから、特に問題なく話もスムーズに運んだ。
 まぁ俺の能力や父さんが属性魔法を使えるようになったことにはかなり驚いていたようだが。

「いやーしかし、やっとフィリップがその気になってくれたか! あのガリウス坊が次期当主になってしまったら、この砦も無くなってしまうんではないかとヒヤヒヤしておったからのう……王国との話も順調に纏まっとるみたいだし、これもみんなアル坊のおかげだの!!」

 そう言って、俺の頭を乱暴に撫でる軍団長。
 力が強すぎて頭が取れそうだ。

「痛いです、軍団長」

「ん? おぉすまぬ。つい舞い上がってしまったようだ」

 そう言って、俺の背中をバンバンと叩いてくる。
 そんな俺たちを見て、使者や父さんたちも苦笑いだ。
 
 軍団長は元々平民から準男爵まで上り詰めた傑物だ。
 そのためか、軍団長というよりは傭兵団の団長の様なイメージを抱いてしまう。
 本人は正式な場ではきちんとしていると言っているが……非公式とは言え、この会談も一様正式な場だと思うんだけれど。

 そんな性格だからか、父さんの弟であるガリウスとの相性は最悪みたいだ。
 ガリウスは、準男爵という一代貴族を軽視している節があるらしい。
 平民上りが貴族と同じ土俵に立つのが気に入らないらしい。
 また王国との交易に対しても理解が乏しいらしく、このセナン街道の為に掛かっている経費を無駄だと感じているらしい。

 確かに、この街道を維持するために掛かる費用は少なくない。
 ここセナン砦の近くにはダンジョンが存在しており、魔物が湧きやすいそうだ。
 そのため魔物が跋扈する魔の森からこの街道を守るために、かなりの人数を割かなければならないのだ。

 しかし穀物を輸入するためにもこの街道は欠かせないはず。
 ガリウスは帝国に恭順の意を見せることで奴隷を増やし、王国に頼らず帝国内部だけで完結させようとしている様だが……。
 そこまでして帝国に尻尾を振る必要があるのかと疑問を抱いてしまう。

 ガリウスは将来、帝国の中枢に携わるのが狙いらしい。
 辺境伯の当主はいずれ、帝都に滞在し政務に励む義務を課せられている。
 しかし現在祖父が課せられている政務は、毒にも薬にもならないような雑務ばかりだそうだ。
 確かに辺境伯領が独立しないために課せられている義務なのだから、中枢に立てないのも理解は出来るが……なんというかあからさまだ。
 
 ガリウスはそれが我慢できないらしく、今からビューノウ公爵や皇帝に気に入られることで、地位と権力を得ようとしている訳だ。
 そんなガリウスに対抗しようとしている訳だから、父さんの立場はどうしても反帝国寄りになってしまう。
 帝国と対決するには軍事力も何もかも足りていない現状では、それは少し危険が過ぎる。
 だから父さんとしては、出来るだけ短期間に勝負を決めて帝国の介入を少なくしたいと考えている様だ。

「今はまだ表立っては動くことは出来ません。マクセルさん、くれぐれも軽挙に出ぬようお願いしますね」

「おいおいフィリップ、儂の事をなんだと思っとるんだ。これでも一応は貴族だ。それぐらいちゃんと理解しとるから心配するな」

「はぁ……心配だ」

 どうやら軍団長は、過去にも色々やらかしているらしい。
 まぁ流石に今回の件は重みが違うから大丈夫だとは思うけれど……一応契約書でその辺の細かい所も契約しておいた方がいいだろうか?
 
 とりあえずこれでテイルフィラー家以外の五貴族の内、一つがこちらの味方となった。
 あとはウィルバー伯爵を除いた三貴族。
 とは言え、元々ガーディン準男爵はこちらサイドだと分かっていたから、本番はこれからだろう。

 工業ギルドを管轄するシーネル子爵は、王国と正式に調印するまでは近づかない方が良いだろう。
 商業ギルド長のハンデル準男爵へは、対策として父さんと一緒に今とある作物の研究を行っているが、準備にはまだ時間がかかりそうだ。
 とりあえず次に攻めるのは、医薬ギルドのダヴィンロード男爵だな。
 今回同様、簡単にいけばいいのだが……。

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