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第一章 幼少期編
39.婚約者②
しおりを挟む「お祖母様。私もそちらに失礼させていただいてもよろしいでしょうか? 私だけのけ者にされては、少し寂しいですわ」
俺が父さんたちから話を聞いていると、隣で立っていた狐耳幼女――もといブリオン王国第一王女が声を掛けてきた。
俺が言えた口では無いが、その幼い見た目と大人びた口ぶりに、妙に違和感を感じてしまう。
「あら、ごめんなさいね。アルの反応が楽しくて、つい夢中になってしまったわ。さあヒルデ、あなたもこちらで一緒に紅茶をいただきましょう」
「はい、お祖母様」
お祖母様に促され、ヒルデと呼ばれた王女はお祖母様の隣に腰を掛けた。
金色の耳と尻尾を備えた狐耳幼女が、運ばれてきた紅茶の香りを嬉しそうに楽しむ。
その姿は先ほどまでとは違いとても可愛らしくて、俺は思わず目を惹かれてしまう。
そんな俺の視線に気づいたのか、彼女はほんのり頬を赤らめ恥ずかしそうに口を開いた。
「もう、アルフォンス様……レディーの顔をそんなに見つめるなんて、失礼ですわよ……」
「す、すいません……」
精神年齢としてはかなり下のはずの王女に注意され、俺は思わず謝ってしまう。
そんな俺たちを見て、フィリップ父さんが何かに気付いたように口を開く。
「ん? なんだアル、王女殿下に見惚れていたのか? ふむ、そうか……」
そう言って、一人で急に考え込みだした。
何か俺、おかしな事でもしたのだろうか。
「あぁいやすまん、何でもないよ。そう言えば、アルが同年代の女の子と話すのはこれが初めてなんだな」
そう言って、興味深そうに俺を見るフィリップ父さん。
……一体、何だというのか。
しかし確かに言われてみれば、俺がこの世代の異性と言葉を交わすのはこれが初めてだ。
現世ではほとんど別邸の中で過ごしているから、周りにいるのは両親か使用人ばかり。
彼女たちも主人の息子という立場の俺に、どうしたって一線を引いてしまうのだろう。親しく話していても、どこか距離を感じてしまっていた。
前世についても、俺は人間関係に関しては全く記憶がない状態だ。
謂わば、知識ばかりの頭でっかちな小僧でしかない。
そう考えると、何と言うか自分がとても情けなく思えてきてしまった。
そんなことを考えながら俺が小さくなっていると、お祖母様が“羨ましいわぁ”と感慨深げに俺たちを見つめる。
大人たちからの温かい視線にいたたまれなくなった俺は、フィリップ父さんに助けを求める様にして話の続きを促した。
「それで? なんでブリオン王国が父さんを支援することと、王女様がここに来ることが繋がるの? というか、王女様がこんな簡単に他国に来て大丈夫なの?」
立て続けに質問をぶつけて誤魔化そうとする俺に、父さんとお祖母様は苦笑しつつ答えてくれた。
ブリオン王国サイドは、この支援をきっかけにテイルフィラー家との繋がりをより密接にしようと考えたらしい。
もしガリウスが当主になってしまうと、ブリオン王国とテイルフィラー家の繋がりは薄まってしまう。
それは魔の森を挟むとは言え、隣接しているブリオン王国側にとっても面白い話ではなかった様だ。
「ここでフィリップさんを支援して彼が当主になれば、私たちはテイルフィラー家に多大な恩を売ることになるわ。そうすれば、今後も色々とこちらにとってやりやすくなると結論付けたのよ」
父さんがブリオン王国の後ろ盾のおかげで当主に就任出来たとなると、父さんは今後ブリオン王国に頭が上がらなくなってしまうだろう。
ブリオン王国側は、父さんに支援という名の首輪を付けて、ジャパニル帝国の防波堤にする算段だったのだという。
「でもそれも、アルのおかげで御破算になったわ。まぁそれ以上の成果を得られたわけだから、ブリオン王国の貴族たちも文句は無いでしょう」
契約書の力というのは、どうやら俺の考えている以上に大きな影響力を持っているらしい。
というか、これが無ければ俺たちテイルフィラー家は結局ブリオン王国の傀儡になっていたと言う事か。
……まぁマリアンヌ母さんとの繋がりがある分、帝国との関係よりは幾分マシなんだろうが……なんだかなぁ。
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