36 / 64
第一章 幼少期編
36.初めての奴隷⑪
しおりを挟む「なるほどねぇ。これはちょっと予想外だわ」
父さんから話を一通り聞き終え、お祖母様はソファーの背もたれにゆっくりと体を預けた。
心なしか、先ほどよりも疲れが顔に出ている様だ。
「確かに。とんでもない話を聞いてしまいましたね」
カインさんも同様にお疲れのご様子。
しかし彼は話の途中で吹っ切れたのか、次はどんなとんでもない話が出てくるのかと楽しんでいるようにも見えた。
そんな二人が、揃って俺に視線を送る。
まぁこの話の中心は、どう考えても俺だ。
ここまでは全てフィリップ父さんが話してくれたけど、俺も何か言っておいた方が良いのだろうか。
「えっと……二人とも、お茶のお代わりはいかがですか?」
俺が冗談めかしてそう言うと、二人とも疲れた様に苦笑しつつ頷き、カップをミリーに預けた。
「……それにしても前世の記憶を持っているなんて、そんな不思議なこともあるのねぇ。あぁ勘違いしないで頂戴ね。別に疑っている訳じゃないわ。ただ、スキルを三つも所持しているのと何か関係があるのかと考えてしまってね」
お祖母様の疑問に、俺は曖昧に笑って応えるしか出来ない。
だって俺自身、その点については何も分かってはいないのだから。
「ごめんなさい。そんなことを聞かれても困ってしまうわよね。忘れて頂戴」
そう言って、お祖母様も優しく微笑む。
どうやら気を遣わせてしまったようだ。
「さて。では本題の話といきましょうか。つまりフィリップさんは、ブリオン王国から奴隷を補填することで、ビューノウ公爵の影響を少なくしたいと考えているということね?」
「はい。このままでは我テイルフィラー家はビューノウ公爵、延いては帝国の傀儡と化してしまうでしょう。確かにそれも帝国に属する貴族としては間違ってはいないのでしょうが……」
「そうね。そうなると、あちら側にとって間違いなくアルは邪魔になるでしょう。悪くて暗殺。良くても教会の神輿として、もしくは契約書作成の道具として、良いように使われるのが落ちでしょうね」
やはりお祖母様も、俺の存在が大きすぎると感じている様だ。
「分かりました。奴隷の方は、ブリオン王国で何とかしましょう。それからフィリップさんが当主を目指すことを公にする際は、我リスパーダ家が正式に後ろ盾になることを約束します」
断言するように発せられたお祖母様の言葉に、俺とフィリップ父さんは唖然とする。
そんな俺たちを見て、お祖母様はしてやったりと愉快そうに微笑む。
「あら。少しは先ほどの仕返しが出来たかしら?」
「え、えぇ。驚きました……しかし大丈夫なのですか? そんなあっさりと決められてしまって……公爵ご本人に判断を仰いだ方がよろしいのでは……」
「あら、心外だわ。私が何の考えも無くこんなことをいう訳が無いでしょう。ここに来る際、夫からはこの件についての全ての権限はきちんといただいて来ているわ。それに奴隷の方も、アルの力があれば十分に対応できると考えているのだけれど。フィリップさんもそう判断したからこそ、こうやって話を持ち掛けてきたのでしょう?」
お祖母様の言葉に、父さんは困ったようにこめかみを指で掻く。
「やはりお見通しですか……お義母様がおっしゃるように、契約書の方はこちらでご用意いたします。それらを用いて、奴隷の融通をお願いしたく考えています」
二人の間では既に話が纏まっている様だが、俺はさっぱりついて行けていない。
そんな俺の考えを感じ取ったのか、お祖母様が俺に優しく教えてくれた。
「つまりね。あなたの契約書を使えば、奴隷そのものの消費を減らすことが出来るのよ。奴隷の一番の死因は衰弱に依るものなの。農奴の管理は基本的にそこの管轄の者が行っているけれど、それはもう酷いものなのよ。いくら私たちが上から注意しても、基本的に奴隷は消耗品と考えられているから中々難しくってねぇ」
「……それを、契約書を使って強制的に正しく管理させると言う事ですか?」
「ふふ、やっぱりアルは賢いわね。その通りよ。奴隷そのものの消費を減らせばその分テイルフィラーに送ることが出来るし、そもそも同様の事をここでも行えば、奴隷の必要量も少なくて済むでしょう」
なるほど。確かに奴隷が毎年何千人も死ぬなんて、少しおかしいとは思ってはいたが……てっきり魔物のせいかと思っていたけれど、管理の杜撰さが原因だったとは。
「でも、そんなことを管理者たちは了承するんですか? 今まで注意してきても改善が見られなかったのなら、納得しない者も多いんじゃ……」
「それは問題ないわ。管理者たちが厳しく奴隷を扱う一番の理由は、奴隷に反抗の意志を持たせないためなの。舐められない様、歯向かえない様、徹底的にいじめ抜くのね。それでも、毎年何人かの管理者は殺されてしまうんですけれど……でもこの契約書で歯向かうことを禁止させれば、その心配はないわ。代わりに最低限の生活と扱いは保証されるんですもの。反対するものはほとんど出ないと思うわよ」
「なるほど……もしかして父さんが言っていた秘策って、これのことなの?」
俺の言葉に、少し恥じらう様に父さんが答える。
「そうだ。この契約書があれば、今の奴隷環境がガラリと変わるからな。まぁお義母様は、もっと色んなことにも有効活用するおつもりだろうけどね」
「あら、バレていたのね。そろそろ好き勝手する貴族たちをどうにかしてやろうと思っていたところなのよ。アルのおかげで、そいつらを正しい貴族として更生させられそうで安心したわ」
そう言って、ホホホとお淑やかに笑って見せるお祖母様。
どうやらお祖母様は、既にこの契約書を十二分に有効活用するつもりの様だ
「心配しないで。ちゃんと奴隷用の契約書とは別で、アルに対価は支払うつもりよ。あなたの熟練度を上げるためにも、バンバン契約をこなすつもりだから楽しみにしていて頂戴ね、アル」
嬉しそうにそう言いながら、俺にウインクを送るお祖母様。
俺たちの後ろ盾になってくれるのなら別に対価はいらないんだが……まぁ金はあって困るものじゃないし、ありがたく受け取っておこう。
これから楽しくなるわね、と嬉し気に貴族の粛清、もとい更生プランを思案するお祖母様。
その姿はまるで水を得た魚の様に生き生きとしており、この人だけは絶対に敵に回さないでおこうと俺は心に決めた。
0
お気に入りに追加
3,955
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~
真心糸
ファンタジー
【あらすじ】
ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。
キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。
しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。
つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。
お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。
この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。
これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる