辺境の契約魔法師～スキルと知識で異世界改革～

第一章 幼少期編

２５．主従契約⑧

　


「ラ、ライムちゃーん。アルのママですよー」

　帰りの馬車の中、母さんがホーンラビット姿のライムと触れ合いを持とうと頑張っている。
　
　あの後、俺たちはライムの今後の処遇について話し合った。
　父さんとフォルコはライムの能力を鑑みて、是非育てようという話にまとまった。
　問題の母さんだが、彼女は元々小型の魔物を飼うのが夢だったらしい。
　だからライムがホーンラビットに変身し、かなり心を動かされたみたいだ。
　ただどうしてもゲル状のスライムの姿が脳裏にチラついてしまうため、リハビリとして今こうして頑張っているところだ。

　因みに、この世界には動物は存在しない。
　元々いたのかどうかはわからないが、少なくとも父さん達は聞いた事がないらしい。
　まぁ確かに言われてみれば、魔物が跋扈する世界で只の動物が生きていけるとは思えない。
　となると、人間も元は魔物が進化した種族だったりするんだろうか。
　魔法が使えるのはそのせいとか……
　まぁこれは考えても答えは出ないな。


　ライムを家に連れ帰るにあたり、他にも考えなければならない事がある。
　家の使用人の問題だ。

　現在テイルフィラー辺境伯家別邸には、私兵やメイド、料理人や庭師など、合わせて四十名程が働いている。
　しかし俺は今までほとんど彼らと顔を合わせたことは無い。
　出来るだけ情報を隠すためという理由もあるが、何より俺の生活がほぼ自室で完結してしまっていたからだ。

　食事はミリーが運んでくれるし、トイレはオマルの様な壺だし、起きている時は授業をするか文字を学ぶかくらい。
　あとは強くなるために生活魔法をひたすら行使し、魔力枯渇ですぐに眠りにつくだけだった。
　だから今までは両親とミリー、それからフォルコ以外の人間とはほぼ会わずに生活してきたし、特に困ったこともなかったのだ。
　
　しかしライムがうちに来るとなると、これからはそうもいかないだろう。
　という訳で、帰ったら使用人や兵士たち全てに契約書を用いて契約を行ってもらう予定だ。
　内容としては誓約書に近いものになるだろうけど、まぁ雇用契約書の守秘義務を重視した内容にすればいいだろう。
　
　それと契約魔法の練度上げの問題も、一緒に解決してしまおうと考えている。
　今まで散々契約書を作成してきたから、結構練度も上がっているものと考えていた。
　しかし結果として、今回ライム以降は主従契約を行えなかった。

　可能性としては、契約書作成の回数が少ないか、もしくは作成するだけでは無くそれを用いて契約を行わなければならないかのどちらかだろう。
　前者であれば諦めて創り続けるしかないが、回数的に考えにくい。というか後者であって欲しいと切に願う。
　
　まぁそろそろ室内で魔法を使うのに限界を感じていたから丁度いいか。
　この一年間ひたすら生活魔法を使い続けた結果、俺の属性魔法の練度も上がり、生活魔法の域を超え始めていたからな。

　契約書を用いることでどれぐらい強制力を持たすことが出来るのかは、先日父さんの能力を調べるついでに実験済みだ。
　双方の同意が無い場合は効果が極端に弱まってしまうみたいだが、この契約書の能力は間違いなく俺の切り札になる。

　この世界の貴族にとって、法律やルールなんて有って無いようなものだからな。
　この契約書によってそういった相手にも約束を必ず守らせることが出来ると言うのは、かなりの強みになってくれることだろう。
　契約書の事を知る人間が増えることに若干の不安もあるが……あとで皆と一緒に契約内容をしっかりと考え、秘密が漏れないようにしておくとしよう。