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第一章 幼少期編
6.バレました
しおりを挟む目を覚ますと、俺の視界に四人の顔が入り込ん出来た。
その内二人は、俺の両親であるマリアンヌ母さんとフィリップ父さん。
そしてもう二人は、家の執事とメイドだ。
執事の方は、五十代くらいの白髪まじりの銀髪の男性。
優しい目をしているが、姿勢がいつもピンと伸びていてとても恰好良い。
皆にはフォルコと呼ばれている。
そしてもう一人のメイドは、黒髪のショートカットで頭から猫耳を生やした十代後半くらいの少女。
ミリーという名前らしく、八重歯と金の猫目が特徴的だ。
この二人は、母の代わりに時折俺の面倒を見てくれている。
他にも家に使用人はいるかもしれないが、俺が見たことがあるのはこの二人だけだ。
そんな四人が、今は勢ぞろいして俺を見つめている。
四人が揃っているのを見るのは、これが初めての事だ。
理由はやはり、先ほどの契約書についてだろう。
「あー」
とりあえず、皆に挨拶をしてみる。
父と母は苦笑しているが、フォルコはニッコリと目を細め、ミリーは目をキラキラと輝かせている。
そんな俺を見ていた母が、皆に向けて口を開いた。
「やっぱりこの子、私の言葉を理解出来ているのかしら……」
心配そうな顔をしながら話す彼女に、父が難しい顔で答える。
「うーん。まさかとは思うけど……でもそうじゃないと、この契約書の事は説明が付かないからなぁ」
あぁやはり、先ほどの契約書が原因だったようだ。
まぁそうだろうなぁ。
母の言葉を理解出来ていないと、スキルを使えたことに説明が付かないんだから。
スキルを使用するためには、その言葉を念じる必要がある。
つまり、俺が母の言葉を理解していることは、すでに皆にバレていると言う訳だ。
俺が自分の軽率さを反省していると、黒髪の少女が元気な声で皆を励ます。
「でもでも、それっていい事じゃないですか? 坊ちゃんには時間が無いわけですし、少しでも早くお力を付けるに越したことはないじゃないですか」
「確かにそれはそうなんだが……しかし……」
ミリーの言葉を肯定しつつも、納得のいかない様子のフィリップ父さん。
まぁ確かに、生まれたばかりの赤子が言葉を理解して思考出来るなんて、ちょっと気味が悪いよな。
「恐れながら旦那様、私めもミリーに同意いたします。確かに異様なことではありますが、きっとこれはアルフォンス坊ちゃまのスキルに依るものにございましょう。坊ちゃまは将来お命を狙われる可能性が十分に高く、今からその対策を練ることが出来るのはむしろ僥倖かと」
目を細めつつも、父を真っすぐに見つめ自分の言葉を伝えるフォルコ。
そんな二人を見て父も折れたのか、“はー”とため息をつきつつ口を開いた。
「そうだな、分かっている。分かってはいるんだ。ただなぁ……」
そう言って、俺を横目で見る父さん。
そして、俺を指差してこう言った。
「こいつ、おしめを変える時、滅茶苦茶変な顔しているじゃないか。マリーの母乳を飲む時だって同じ顔しているし。絶対どっかおかしいぞ!」
父の失礼な物言いに、俺は思わず抗議してしまう。
「あぶあぶ、あぶあぶ!」
俺の急な反応に、思わずたじろぐ父。
「な、なんだよ。ていうかお前、やっぱ俺たちの言葉理解出来てんのかよ……」
「あー」
俺が肯定の意を込めて返事をすると、横で見ていた母がクスクスと笑い出した。
「なんだよマリーまで……」
「ごめんなさい、フィリップ。でも私、おかしくって。ふふっ」
何かツボに入ったのか、母はしばらく楽しそうに笑う。
ただ何というか、笑い方もとてもお上品で、貴族の令嬢といった清楚さを感じさせる。
それに比べて、父は……。
「なんだよ」
俺の視線に気づいたのか、父が俺にいちゃもんを付けてくる。
「あぶー」
何でもないよ。と伝わるかどうかは分からないが、そういった意志を込めて返事をする。
するとまた、隣で母が笑い出す。
今度は母だけでなく、フォルコやミリーまでもが笑い出した。
「なんなんだよ全く……はは」
そう言って拗ねつつも、父も呆れたように笑いを零した。
ふむ。どうやら俺の異常さは、皆に受け入れられたと思っていいのかな?
まぁ魔法のある世界なんだ。自我のある赤ん坊がいてもおかしくはない、のかもしれない。
いや、周りに恵まれただけかも知れないな。
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