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1章

半年後 近況(前)

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1544年(天文13年) 10月上旬 那古野城 吉法師

 俺が戦国の世に転生し約半年が過ぎようとしている。この半年の間、俺はひたすら力を溜め続けた。
 
 先ずは吉法師軍団。日に日に人数が増え、今では百人程になっている。流石にこの人数が一堂に集まると目立ちすぎるので、勝三郎、満千代、犬千代の三人に隊を分け、それぞれに訓練の指揮を執らせている。

 そうそう。吉法師軍団と言えば、久秀との対面が大変だった。久秀を俺の傍に付かせると三バカに紹介したんだけど、その三バカたちが文句を言ってきたんだ。犬千代はずるいずるいと駄々をこねるし、勝三郎は羨ましそうにじーっと久秀を見ているし。まぁでも一番怖かったのは万千代か。黙ってにっこりと久秀を見つめ続け、そのくせ目は全く笑っていなかった。久秀も顔を引きつらせていたな。三バカにも元服したら付かせてやるからとなだめて、やっとのことで納得してもらったよ。しかし万千代はちょっと危険な香りがするな、怒らせないようにしよう。
 久秀も最初は三バカの風体に眉を潜めていたが、三人が俺を慕っていることや訓練に日々汗を流していることを知り、最後にはちゃんと受け入れてくれた。今では時々訓練に混ざったりして、いい関係になっているみたいだ。

 
 次は忍者軍団。今半蔵の配下で尾張にいるのは、忍び働きが出来る奴が20強とそれ以外が100ほど。これまで遠江、三河、信濃、美濃にいた奴らにはそのまま引き続き間諜をやってもらっている。それに加え俺は近江から京にかけてにも人を送ってもらい、情報を集めてもらうことにした。あとは堺にも拠点を作らせたか。だから今尾張にいるの忍はせいぜい20ほど。こいつらが交代で俺の周りに付いたり、尾張の警備を陰から行ってくれている。

 こいつらにはいざという時に俺を守ってもらう必要があるから、日々≪支援≫による訓練も積んでもらっている。昼間も人目が付かないときは≪支援≫を掛けてやって体に慣らしてもらったりしてるんだけど、流石にそれほど派手な動きは出来ない。だから訓練の時間は自然と夜になるんだけど……忍者って、なんであんなに夜が好きなのかね。半蔵もそうだったけど、昼間は寡黙でまるで気配を感じさせないような奴らが、夜になったら妙に生き生きとし始めるんだ。最近は、夜になると20人のほとんどが俺のところに寄ってきて≪支援≫をねだってくる。どんなに動き回ろうと不思議と音を立てないから静かではあるんだけど、城やその周りでシュバシュバ動き回っていて非常に視界がやかましい。城の人間には見つかっていないらしいんだけど、俺が部屋の外にいると姿を現してアピールしてくるんだ。自分たちを頼ってくれる主が出来て嬉しのかな。青ポイントも今では皆30後半から中には40越えの奴もいて、なんか時々犬を飼っている気分になる。
 
 俺の傍につくことになったのは、服部正種という半蔵と同じ30歳くらいの男。こいつは半蔵が黙っている時の姿と似ていて、今までは半蔵の影武者をしていたらしい。影である半蔵の更に影て。まぁ半蔵は服部の顔役でもあるから影武者も必要なのかね。
 正種は締まった体をして背も一般的な高さ。つまりこれと言った特徴が無いんだ。これは他の忍にも共通して言えるんだけど、人の記憶に残りにくいようにワザとそうしているらしい。半蔵と違い感情を余り表面に出さなくて半蔵よりよっぽど忍らしいんだけど、たまに喜ぶとニヤリとニヒルな笑いをするのが恐い。

 ≪支援≫についてだけど、俺はこれに段階をつけて調整出来るようになってきた。俺も万が一を考え≪支援≫を自分に掛けたりしてるんだけど、≪支援≫の効果を最大にすると強化が強すぎて体の感覚に頭が全く追い付かないんだよな。忍び達も最初は感覚に戸惑いかなり怪我をしていた。だから俺はこれを五段階に分け、まずは一段階目から慣らすようにしてもらっている。まぁ一段階目でも忍達に掛けると人外染みた動きをするから十分な気もするけどね。でもすでに正種は二段、半蔵は三段までものにしている。半蔵に至っては、この前俺が教えた影分身の術もどきを完成させやがった。残像が見えるだけで特に意味はないんだけど、スゲェ嬉しそうな顔でドヤ顔してたな。半蔵よ、少しは正種を見習って忍べ。


 あとは銭稼ぎか。清酒はあれから順調に作り続け、親父や熱田の商人なんかに売りつけ始めている。親父が帝に献上してくれたおかげで、早速噂を聞きつけた商人が向こうから集まってきたよ。清酒造りは大ぴらに出来るようになったから、製法管理だけは忍も使って厳重にした状態で、規模を少しづつ拡大させている。今の俺の一番の資金源だな。

 石鹸作りに関しては、液体せっけんであればすでに使用出来る段階になっている。初めは手荒れなんかも見られたけど、試行錯誤の結果なんとか形になった。これで懸念であった衛生管理が少しはマシになると思う。固形石鹸もたまぁにできるんだけど、まだ偶然の域を出ていない。半蔵配下の非戦闘員たちにも協力させ、記録を取りながら固形石鹸の商品化が今の目標だな。

 農業に関しては、今が丁度収穫時期みたいだ。八兵衛が言うには、明らかに他の村の田んぼよりも収穫量が多いらしい。塩選別で分けて実験的に行った田んぼを比較しても、その違いがはっきり分かるんだと。まだきちんとは分からないが、二割くらいは増えるんじゃないかということ。この結果に庄屋や村人が驚き感謝し、お社様にお礼を言いたいと言っているらしい。今度収穫祭と称して、一度村に行ってはどうかと八兵衛に提案された。久しぶりに達吉の顔も見たいし、村に移り住んだ忍びの女子供や年寄りたちの顔も見たいから、八兵衛の案を採用しようと思っている。

 硝石丘はまだまだ始めたばかり。椎茸についても原木を見つけ、試行錯誤の段階だ。これらはまだまだこれからだな。



 親父についてだが、美濃の斎藤道三と本格的に敵対を始めた。道三に美濃を追い出された土岐頼芸が親父を頼り、親父はこれを受けこの八月に五千の兵を美濃に派兵している。この時越前の朝倉も美濃に侵攻し、美濃を西と南から挟撃したんだと。一応親父は勝利を収めたらしく、頼芸を美濃の北方城に入れ、和睦の条件として道三の娘である濃姫を俺と結婚させる約束をしてきたらしい。っておい、聞いてないぞ。
 信長が結婚したのって結構先だったと思うんだけど……確かこの後、道三と親父は何度か争っているはずだから、この約束もまだ履行されることは無いんだろうと思ってはいるけどね。


 
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