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プロローグ
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アレイアス王国第一王女、エイラ・フォン・アレイアスは勇者である。
勇者とは、この世界における救世主である。
その歴史は古く、初代勇者の誕生から約二千年が経ち、最新であるが既に亡くなった先代の勇者は十二代目だ。
勇者の救世とは、世界を滅ぼすと謂われる魔王を打ち倒すことである。
さて、この歴代の勇者達であるが、実は彼らは皆初代勇者の生まれ変わりだとされている。
根拠はある。彼らは先代達の戦いの記憶を持ち、極秘である先代魔王の特徴を口にすることができたからだ。
とはいえ、生まれ変わりであるという事実それ自体に大した価値はない。
人類にとって大切なのは救世を為せるか否かであり、歴代の勇者達はそれを為してきた。
故にこそ彼らは敬われ、信仰される。
◆
エイラが勇者として目覚めたのは、丁度五回目の誕生日を迎えた日のことだった。
アレイアス王国だけに限らず、この世界では五の倍数の誕生日は盛大に祝う慣習がある。それは例え貧民だろうが平民だろうが変わらない。
当然ながら王族であればそれは尚更のことで、エイラの誕生日は国を挙げて祝われることとなった。
日頃から贅沢に暮らしていても、誕生日はやはり特別で。
いつもより豪華な食事。
いつもより華やかなドレス。
いつもより優しい両親や侍女。
いつもより。いつもより。いつもより。
沢山のいつもよりを堪能して、侍女に寝衣に着替えさせてもらったエイラは、人生で一番楽しかった今日をゆっくりと振り返りながら、穏やかに眠りにつく――ことはできなかった。
ベッドに横たわり、瞼を閉じた彼女の身に、それは起こった。
突如として脳内に、覚えのない記憶が溢れ出す。
それはエイラの今日を容易く塗りつぶす程の量と密度を持ち、彼女の意識を呑み込んだ。
その後、高熱にうなされたエイラが意識を取り戻したのは、三日後のことだった。
重たい瞼を開き、ズキズキと痛む頭を少しだけ動かすと、すぐ近くで侍女が泣いているのが見えた。どうやら何かを言っているようだが、エイラの耳にはどこか遠くのことのようにしか聞こえず、何を言っているか判別することはできなかった。
それに気付いたのか、そうでないのか、エイラには分からなかったが、侍女はエイラの手を握り、さらに激しく泣き始めた。
正直なところ、判別はできなくとも聞こえてはいたし、泣き声が頭に響くのでやめて欲しいと思っていたのだが、どうしてか悪い気はしなかった。
エイラが勇者であると彼女が目覚めてからすぐのことだ。
勇者の身体には、固有の紋章が浮かび上がる。いつの間にか、彼女の肩にそれがあったのを使用人が発見したのがきっかけだった。
そして、体調が回復し次第、勇者を信仰するウィレーム聖国へと護送されることが決まった。
特別なやり取りがあったわけではない。どんな立場、身分、年齢であっても、勇者は生まれたことが確認された時点で、聖国へ送られることが定められているのだ。たとえそれが王女であっても。
そうして、彼女は数人の侍女と護衛、字の練習のためにと書いていた日記などの、その身分からは考えられない程少ない荷と共に聖国へと旅立った。
勇者とは、この世界における救世主である。
その歴史は古く、初代勇者の誕生から約二千年が経ち、最新であるが既に亡くなった先代の勇者は十二代目だ。
勇者の救世とは、世界を滅ぼすと謂われる魔王を打ち倒すことである。
さて、この歴代の勇者達であるが、実は彼らは皆初代勇者の生まれ変わりだとされている。
根拠はある。彼らは先代達の戦いの記憶を持ち、極秘である先代魔王の特徴を口にすることができたからだ。
とはいえ、生まれ変わりであるという事実それ自体に大した価値はない。
人類にとって大切なのは救世を為せるか否かであり、歴代の勇者達はそれを為してきた。
故にこそ彼らは敬われ、信仰される。
◆
エイラが勇者として目覚めたのは、丁度五回目の誕生日を迎えた日のことだった。
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当然ながら王族であればそれは尚更のことで、エイラの誕生日は国を挙げて祝われることとなった。
日頃から贅沢に暮らしていても、誕生日はやはり特別で。
いつもより豪華な食事。
いつもより華やかなドレス。
いつもより優しい両親や侍女。
いつもより。いつもより。いつもより。
沢山のいつもよりを堪能して、侍女に寝衣に着替えさせてもらったエイラは、人生で一番楽しかった今日をゆっくりと振り返りながら、穏やかに眠りにつく――ことはできなかった。
ベッドに横たわり、瞼を閉じた彼女の身に、それは起こった。
突如として脳内に、覚えのない記憶が溢れ出す。
それはエイラの今日を容易く塗りつぶす程の量と密度を持ち、彼女の意識を呑み込んだ。
その後、高熱にうなされたエイラが意識を取り戻したのは、三日後のことだった。
重たい瞼を開き、ズキズキと痛む頭を少しだけ動かすと、すぐ近くで侍女が泣いているのが見えた。どうやら何かを言っているようだが、エイラの耳にはどこか遠くのことのようにしか聞こえず、何を言っているか判別することはできなかった。
それに気付いたのか、そうでないのか、エイラには分からなかったが、侍女はエイラの手を握り、さらに激しく泣き始めた。
正直なところ、判別はできなくとも聞こえてはいたし、泣き声が頭に響くのでやめて欲しいと思っていたのだが、どうしてか悪い気はしなかった。
エイラが勇者であると彼女が目覚めてからすぐのことだ。
勇者の身体には、固有の紋章が浮かび上がる。いつの間にか、彼女の肩にそれがあったのを使用人が発見したのがきっかけだった。
そして、体調が回復し次第、勇者を信仰するウィレーム聖国へと護送されることが決まった。
特別なやり取りがあったわけではない。どんな立場、身分、年齢であっても、勇者は生まれたことが確認された時点で、聖国へ送られることが定められているのだ。たとえそれが王女であっても。
そうして、彼女は数人の侍女と護衛、字の練習のためにと書いていた日記などの、その身分からは考えられない程少ない荷と共に聖国へと旅立った。
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